-What's the dream of human beings stepping corridor of green linoleum?- 1-2 本編の入り口
文学ぶった作品より、誰かが会話のきっかけのため口にする使い捨て程度の「昨夜の夢」の話の方が、有意義で価値がある。
そんなお話。
これは「文学」でしょうか、「昨夜の夢」でしょうか。
答えを出すには時期尚早、気づいた時には自棄焦燥、と。
...
夢ってのは不思議なもので、どうしてそいつが夢だと気付かずに有り得ない配役を容認してしまうのか。自分の弟が担任の先生だったり、雑誌の表紙を飾るようなグラビアアイドルと殺し合いの喧嘩をしたり、ハリウッドスターとコインランドリーで偶然出会い、竹馬の友のように会話を弾ませるなんて、普通に考えてみてもおかしいだろう。担任の教師で弟って、そりゃ新しすぎるだろ。
それでも夢の魔力ってヤツで、どうにもその設定を信じ込んでしまう。我が家で殺し合いをしているのに、まるで地の利を活かせず迷走してしまう。トイレのドアを開けたらコンビニの自動ドアが開く、なんて展開でも驚かず、そいつを受け入れて喧嘩は続く。店員さん、見てないで止めろよ。なんで客も微笑ましく見守ってるんだよ。こいつら一発殴ってやろうか、なんてことは何故か思い付かないし、思い付いても実行できない。そして刺されるかどうか、すんでの所で波が引いたように朝の光が飛び込んでくる。
目覚めてすぐなら夢の内容はこれでもかってほど覚えているのに、一日経てばすっかり宇宙の果てまで飛んじまって、知らぬ存ぜぬを突き通す。なんとも摩訶不思議で、とにかく変だ。変な夢だ。
もしも、もしもなんだが、というか案外そう言う人もいるのかもしれないが、夢の中で「こいつは夢なんだぜ」って認識できたならどうなるんだろう。よく夢を操って好きな夢を見られる、なんて人がいるけど実際のとこは本当だろうか。正直なところ、そんなに信じてない。確か、明晰夢って呼ばれてるんだったか。
だって、夢を夢って理解してしまったら、それはもはや「夢」ではないんじゃないかって思うんだ。なんというか、無意識下で見るからこその夢であって、意識してしまえばそれは夢じゃ無くって「妄想」とかに近いんじゃなかろうか。
ちょっと話が逸れてしまった。夢自体の話に戻ろう。
夢ってのは超弩級展開を当然の如く受け入れる。玄関開けたら教室でした、パジャマ姿で授業受けてます、誰も気にしてません、なんてことも平気で起こる。というか以前見た、そんな夢を。レム睡眠とか、そんな専門的な言葉は抜きにしても一晩の夢の中にも周期があるのか、最初の夢と次の夢とに時間があったり、二つのドラマをくっつけたような展開があったりする。
例えば自分が主人公の学園生活ドラマを演じているのに、途中から急に推理サスペンスドラマになっていて、自分は第三者視点、つまり視聴者の立場から事件を追う。それまでの学園モノは一切無かったことにされるというか、テレビのチャンネルを変えたように突然別の番組が始まるのだ。だが、誰も疑問に思わない……そもそも、疑問を抱ける人物自体、一人しかいない訳だが。
こんな風に「夢」について理論を展開しているのだけれど、それってこれが「夢」だと知覚しているからこそ出来る芸当なのか?それとも実は今起きていて、ただの空想、頭の中の絵空事を、さも夢の中の出来事のように脳内展開しているだけなのか。
だってほら、夢の中だと例え自分の部屋だとしても、壁に掛かっているカレンダーの日付一つ見ても、それが現実と正しいかどうかなんて確認しない。極論を言えば西暦20045年でも、平成io年とか意味不明な年号でも、夢の中では「正しい」と認識される。そして夢の中で正しいと認識されうる限りは目覚めてからもカレンダーの日付は「正しかった」と思いこんでしまう。どんなトンデモ理論も夢の中で事実と認識してしまえば、それは事実となる。途中で疑問を持てば、つまりそこからは「夢」では無くなってしまうのではないかって思うんだ。
なんでここまで持論を展開したがるのかって?そりゃあもちろん、この世界の矛盾に気付いてしまったから。ここが夢の中じゃないのかってこと、ふと脳裏によぎってしまったからさ。だって、ついさっきまでベッドの上で寝てたはずなんだぜ。それが急に、何もない漆黒の、深淵の世界に突っ立ってる、なんて場面想像して貰えば、誰でも「あれ?」って首をかしげるだろうよ。これって夢?なんて思うさ。
……だけど、これが夢だと気付いても、目が覚めないってコトに気付いてしまった時に背筋をかすめる戦慄ったらもうね、恐ろしいね。金縛りとかそんな類にも通じるかもしれない。心霊現象なんて信じないクチだけど、今ばかりは利用させてもらうよ。きっと金縛りとか、そんな感じ。
動きたいけど、動けない。だって走っても走ってもその先には暗闇しか見えない、とかだったらどうするの。ここから光が差し込んで夢の終焉ですオメデトウなんてご都合主義、今時有り得ないでしょ。そんな訳で呆然と立ちつくしているのですよ、はい。デパートで親とはぐれた迷子みたい。状況が理解出来ずにぼーっとして、急に不安という不安が押し寄せてくる。まるで世界の終焉だと言わんばかりに。
「それでキミはこんなところで油売ってるワケだ」
そうなんですねー、……ってえっ?
目の前には見たことのない少女が立っていた。銀色に光る髪でゲームのキャラクターのような服装で、そして何より右手に握っている笛、形から判断するにオカリナ?という不釣り合いな格好だった。本当に見たことのない人間かどうか、考えようとしたのだがどうにも惰眠を貪る脳は考えるのを止めてしまったようだ。
「キミは夢の世界へ誘われたんだね。何でカナ?ま、いいや。ようこそ、ユメの世界へ!」
両腕を上下にぱたぱた動かしながら笑顔を浮かべる。何だろう、彼女の背景にデカデカと「不安」の文字が浮かんで見えた。
……心象風景?




