ドラゴンの里
「ひどい目にあいましたが……全盛期の力を取り戻せたというのは行幸! 」
ドラゴンの里の長は風呂上りに苦痛地獄を乗り越えてカエデの前に立った。
その姿は、相も変わらずドラゴンの物なので大きな変化は見られないが心なしか鱗の針通夜が良くなっているようにも見える。
「本当にすみません……」
「いやなに謝る必要はない。
あの温泉は我々のような老人しか使ってなかった故な。
それに他にも温泉は湧いておる。
一つ潰れても別の温泉を使えばいいだけの事。
むしろ礼を言いたいくらいじゃ! 」
ドラゴンの長は若返ったことで上機嫌になっている、というのも有るがカエデに話した内容は事実である。
彼らの住む山は源泉が複数あり、今回カエデが薬を混ぜてしまったのはその一つである。
「それで、改めてお聞きするが此度はどのような理由でこのような辺鄙なところへ参られた」
「あぁ、忘れてました。
相方が少し実験に熱中したいと言ってましたので私が席を外すことにしました。
それで普段鱗を分けてくださっている若いドラゴンさんの故郷へご挨拶をと思ったのです。
それがまさかこんな事態になるとは……」
こんな事態に、というのはどちらかというと長達の考えていたことだが口に出すことはない。
以前長達がカエデのうっかりで受けた被害は今回の比ではなかった。
その違いが攻撃性の有無にあったであろうことは言うまでもない。
むしろ前回に比べたら今回のほうが利益が大きいくらいだ。
「まぁ御気になさらず。
それで挨拶、と言いましたが滞在予定はいかほどに? 」
「相方は3週間ほどと言っていましたがついでにウンディーネとドワーフの里もまわろうかと考えています。
余裕があればシルフの丘にも行きたいと考えていますので5日ほどお邪魔させていただければと」
「かしこまりました、では里の者……は今動けない為私がご案内いたしましょう。
今若い衆も出ていますのでな」
「お心遣い感謝いたします」
こうしてカエデはドラゴンの里に5日間の滞在を決め、そしてドラゴンの里は若返った高揚感と如何ともし難い不安を胸にカエデを客人用の空家へ案内した。
その判断は、一日かからずに間違いだったと気付くことになったが、過ぎ去った時が戻ってくるでもなく長が後悔するのみだった。




