他人じゃない!
拘置室には玲華の他に誰もいなかった。ちょうど目が覚めたころ、警察官が入室してきて「来なさい」と言った。
別室では刑事と叔母の登志子が並んでいた。玲華は急に悲しくなって思わず大声で泣き出した。
「私、何もしてないの。でも、でも、捕まっちゃったの。もうみんなと会えない。わーーっ」
登志子は玲華のもとへ駆け寄ってきて彼女を抱きしめた。
「ううん。玲華ちゃん。もう大丈夫よ。大丈夫なのよ」
「ええっ?」
「大丈夫。説明したのよ。あなたは手配中の容疑者の人と違うって。大変だったけど」
登志子の隣にいた刑事らしい男の一人が簡単に説明をした。
伊東華子には戸籍がない。玲華の戸籍は確認できるし、高校卒業以降、容疑者と一致しない点が多く、それが確認されたので、別人ということになったという。
――別人? そう。でも他人じゃない。双子なのよ。双子の姉妹。
――でも、もういいかあ。そんなこと……。
玲華が華子とは別人とわかり、あわてて警察はホテルへ華子の所在を確認しに行ったが、とき既に遅く、部屋はもぬけの殻だったという。
ところが、玲華が涙を拭いている間に、新たな情報が入ってきた。
「伊東華子の目撃情報がありました」
一人の刑事が報告しているのが聞こえた。
「どこだ」
「丸丸グランドホテルです」
「昨日の斜め向かいのホテルだな」
「昨日と同じく、富岡氏と一緒のようです。フロントには、富岡氏は先に今晩十時頃華子を残して一人帰る、と言っているそうです。宿泊代金も富岡氏が先にチェックイン時に支払いを済ませています」
「そうか、昨日とまったく同じパターンだな」
「では行きましょう」
「いや待て。昨日と同じなら富岡氏が出て容疑者が一人になってから踏み込もう。政府要人である富岡氏を巻き込みたくない。万一マスコミに知れたりすると面倒な圧力がかかってきて、俺らの仕事がいよいよやりにくくなる。へたすると、苦労して捕まえた容疑者を釈放してすべてなかったことにしろ、なんて話にもなりかねない」
ほとんど会話の内容は玲華に筒抜けである。
「あの、私、もう帰っていいですか?」
「ああ、どうぞ。このたびは申し訳ございませんでした」
玲華は県警本部の正門を出たあと、すぐに登志子と別々になった。登志子は一緒にお茶でも飲んでいこう、と玲華を誘ったが、玲華は用事がある、と言って別れた。そのあと、玲華はタクシーで丸丸グランドホテルへと向かった。
玲華には華子のいるホテルの部屋が、誰にも聞いていないのに何故か頭に浮ぶ。それに玲華は華子の生い立ちの夢を見た。もし内容が間違っていなければ互いに心が通じていることになるのだ。
血の繋がっていない他人であるはずがない。おそらく一卵性双生児だ、と玲華は思った。双子は双子でも、一卵性の場合にはテレパシーのような何かが通じ合うことがあるとも言われる。玲華はそんな話を聞いたことがあった。
――彼女を助けなくては。私の双子の華子を……。
警察は既に現地の丸丸グランドホテル付近で張り込んでいて、富岡氏が夜ホテルを出て、華子の部屋へ踏み込むための待機をしていた。