魔物先生シオン
「ディアさん。おはようございます」
ショーゴが異世界へきて6日目である。
今日は新たに加わったシオンを連れて、何かのクエストを受けてみようとギルドへやってきていた。
ショーゴたちはたっぷり稼いでいるので問題ないが、シオンにはまだ手元にお金がないので、少しは手に入れておこうというわけだ。
「おはようございます。ショーゴさま、シオンさま、お身体はしっかりと休まれましたか?」
そのクエスト選びをフォエネル組の3人に任せて、ショーゴはシオンを連れて先にディアのいるカウンターに来ていた。
「それがですね、ディアさん。聞いてください。シオン、ずっと絵を描いてて徹夜したらしいんですよ」
「徹夜ですか。アラクネなら問題はないと思いますが……」
ディアは経験があるからか、落ち着いて言ってくる。そのディアが、
「それで、どのような絵を描いていたのですか?」
と聞いてくると、
「こういうの〜♡」
シオンがアイテムボックスから、自慢の絵を出して見せてきた。
「これはキレイな絵ですわ。もしかしてシオンさまがいた世界を描かれたのでしょうか?」
「あ、フツーに上手いな……」
横から絵を見て、ショーゴがその出来栄えに感心した。
河川敷のある堤防の道で、柴犬と散歩している20歳ぐらいの髪の長い女性を描いたイラストだ。空は青くて白い雲が浮かんでいるとか、河川敷にはグラウンドがあって子供たちがサッカーをしてるとか、堤防のすぐ裏には数棟の団地が描き込まれてるとか、対岸の堤防の向こう側には繁華街っぽい建物が並んでるとか、川の先には大きな橋が2本重なるように架ってるとか、対岸にある街の後ろには小さな山があるとか、とにかく細かいところまで時間をかけて描き込まれている。
日本のどこかにありそうな光景だが、川に架かる大きな橋と団地や繁華街にある商業ビルなどの建物は、ディアたちには未来を感じさせるものだった。だが、ショーゴの目には、
「なんだ、これ? どこか昭和っぽい感じだ。シオンのいた時代って、もしかして昭和の終わり頃?」
という違和感が映った。
「え? 何かおかしい? あたしがいたのは平成だよ。ショーゴは違うの?」
「俺は令和の時代から来たんだが……」
「レーワ? それいつ? そんな時代、知らないよ」
「平成の次だよ。平成は31年で終わるんだ」
「31年? じゃあショーゴって、あたしよりずっとあとの時代から来たの?」
「そうなるの……かな? シオンはアナログで描くのに慣れてるみたいだけど、パソコンで描いたことはあるのかな?」
「ないわよ。パソコン自体持ってないもの」
「そうか。俺の時代になると、絵はデジタルで描くものなんだ。それでもこだわる人は、頑なにアナログで描いてるけど……」
「あのさ。さっきからアナログとかデジタルって言ってるけど、絵でもそういう言い方をするようになるの? あたしの中では音楽とか、ビデオの録画ぐらいでしか聞かないんだけどさ」
「……すると1990年代の前半かな?」
ショーゴが子供の頃の記憶から、シオンの言ってる時代を見積もろうとする。そのショーゴに、
「あ、西暦で言ってもらえると助かるわ。平成になった途端、急に平成で言われると今年が何年かわからなくなったのよね」
などということを言ってきた。
「俺も同じだ。令和でも似たようなものだよ」
「それで、いつぐらいからパソコンで絵を描くのが当たり前になるの?」
「そうだな。俺の記憶での話になるけど、2000年代の中頃までには……かな? 安い液タブが出てきて、パソコンで絵を描く人が増えるんだ」
「液タブって?」
「液晶タブレット。液晶の画面に、付属の専用ペンで直接絵を描き込めるようになるんだ。それまで何十万円もしてた液タブが、10万円を切ってくるんだ。俺のいた時代になると安いエントリーモデルが数万円で買えるし、見た目は液晶画面だけのパッドってパソコンが出てきて、それで描いた絵をインターネットで、SNSやイラストの投稿サイトで見せ合うようになるんだ」
「インターネット? えすえぬえす? ……が何かわからないけど、10年ぐらいでまったく世の中が変わっちゃうのね」
シオンがショーゴから聞かされた話に、隔世の感のようなものを覚えている。こちらでは同じ時代に来ていても、地球でいた時代には大きな差があるようだ。
「他にも描いたものはあるのですか?」
2人の話に区切りがついたところを見て、ディアが声をかけてきた。
「あるわよ。久しぶりだから何枚も描いたわ」
シオンがアイテムボックスから、更に何枚もの紙を出してきた。
他のイラストには背景はなく、ラフ画に簡単に色を付けた程度のものだった。ショーゴにはネタ元は分からなかったが、子供の頃に見たような記憶のあるアニメキャラだと感じるものばかりだ。しかもシオンの絵には、人の目を引く魅力がある。
それを見たショーゴは、自分のいた時代にはシオンが有名絵師になってるのではないかと予想している。それほど、どの絵も完成度の高いイラストだ。
それらの絵をしばらく見ていたディアが、
「シオンさま。よろしければこの絵、しばらくギルドに飾らせていただくのは『あり』でしょうか?」
ということを提案してきた。
「飾るの?」
「はい。冒険者ギルドはお仕事の斡旋所でもありますので、他人にはない才能が見つかったら、それを多くの方に報せることもしてます」
そのように話したディアが、手の空いてそうな受付嬢を手招きした。そしてシオンの同意を得ないまま、受付嬢たちとどの絵を預かるかと意見を交わし始めている。
「じゃあ、何枚ぐらい預けようか?」
「いったい何枚描いたんだよ」
更に出されてきた絵に、ショーゴがツッコミを入れた。
「さあ、何枚だろ? 色を塗ったら、それが乾くまでの間に他の絵を描いて、絵の具がもったいないなぁ〜と思ったら、その色を使いそうな絵も追加で……」
「とんでもねー才能だ……」
シオンの話を聞いて、ショーゴが呆れた顔をする。
「それでは、こちらの3枚をお預かりしますわ。あとはみなさんが、どのような反応を見せるかですわ」
「気に入ってもらえると嬉しいなあ」
シオンがニコニコしながら、返された絵をアイテムボックに戻していく。
そこへ、
「ショーゴ。今日のクエストだが、このあたりでどうだ?」
と言って、ケインが数枚の依頼書を持ってやってきた。だが、一緒にいるミントとアッコは、どこか不安そうな顔をしている。
「どんなクエストだ?」
「そりゃあC級冒険者になったんだ。C級以上だけが受けられる、割の良い討伐クエストに決まってるだろ」
「C級の?」
ショーゴが訝しがりながら、ケインの持ってきたクエストを見せてもらう。
「ケイン。これまでに討伐クエストを受けたことはあるか?」
「討伐クエストはほとんどがC級以上じゃないと受けられないんだ。少し前までE級だった俺たちが、受けた経験なんてあるわけないだろ」
「それで、いきなりゴブリンの討伐? いやいやいや、それはダメだろ」
ケインが持ってきたのは、どれも近くの村に出没するようになったゴブリンの討伐依頼だった。それを突き返したショーゴが、
「鑑定、3人のステータス」
と言って、ケインたちのステータス情報を表示させる。
「何がダメなんだよ」
「いいか、ケイン。俺たちはC級冒険者にはなったが、ステータスを見る限り、実力については4人ともまだE級だ。ミントが火の魔法だけD級になってるけど、総合力ではE級だ。この前、Dランクのスケルトンを大量に倒せたけど、同じDランクでも他の魔物を相手にするのは、まだ早すぎると思う」
ショーゴの指摘に、ケインは不満そうな顔だ。それとは対照的にミントとアッコは、「よく言ってくれた」と安堵した表情を浮かべている。
「それに今日は昨日登録したばかりのシオンの初クエストだ。G級冒険者でも受けられる、もっと簡単なものにしようよ」
「と言ってもなあ……。シオンはどのくらい強いんだ?」
不服そうにするケインが、そんなことを聞いてくる。
「そういや、シオンのステータスは見てないな。えっと、鑑定……」
さっそくショーゴがシオンのステータスを確かめる。
「え? オールC? シオン、俺たちの中では、間違いなく一番強いのか」
「そうなの?」
シオンがきょとんとした顔をしている。それにディアが、
「ショーゴさま。御使いの勇者さまと魔物勇者さまは、まったく違う特性を与えられて、この世界へ来られてるのですわ。まず御使いの勇者さまは、この世界に来た時には最低レベルであるE級のステータスしか与えられてません。そこから努力して引き上げる必要はありますが、それ次第でA級、S級へと成長できます。それに対して魔物勇者さまは最初から魔物としての強さを持ってますが、そこからはあまり成長しないと言われてます。シオンさまはアラクネですから、Cランクの魔物としての強さを持たれてますが、それが将来、B級に成長できるかどうかは……」
という違いを教えてくれる。
「じゃあ、今はG級なんて気にしなくてもいいのか」
「はい。それでもシオンさまにもG級から始めていただくのは、あまり特例を設けるのは好ましくないからですわ。それがあると貴族でありながら冒険者になろうとする人たちが、特権を求めてきますので……」
「それなりの事情があるわけね」
説明を聞いて、ショーゴがだいたいの事情を察する。
その説明をしたディアが、カウンターから出てきた。そして掲示板のところへ行って、
「そうですわね。みなさんはC級冒険者になりましたけど、まだ実力が伴ってませんので討伐クエストは避けた方が良いと存じますわ。ですが、ケインさんはせっかくC級冒険者になったのだから、C級以上向けのクエストが受けたいということですよね?」
「うん。なんか俺1人がワガママ言ってるようになってるけど……」
ディアの確認に、ケインがどこか気分を害された顔をしている。そのケインに、
「それでしたら、こういう採集クエストはいかがでしょうか」
と言ったディアが、掲示板に貼られたクエストを示した。
「レインボーシープの毛刈り?」
「はい。レインボーシープはDクラスの魔物で常に群れてますので、さすがにC級以上の冒険者パーティでないとクエストを受注できません。ですがC級以上になった方々はなかなか採集クエストを受けてくださらなくて、いつまでも消化されない案件となってます。ですので、受けていただけると助かるのですが……」
「これ、ヒツジから羊毛を集めてくるのですか?」
「その通りですわ。でも、倒しちゃダメですよ。毛を刈る前に倒してしまうと毛ごと魔石になって、羊毛が取れませんからね」
「つまり生きたまま毛を刈らなくちゃいけないのか」
「はい。報酬は10kgあたり200ポイントで、2万ジェムで買い取らせていただきます。服飾業者が天然の色付き羊毛が品薄で困ってるということで、納めていただく量に上限はありません」
「天然の色付き? こっちの世界ではヒツジを牧場で飼うようなことをしないのですか?」
ショーゴが気になったことを尋ねた。
「もちろん育ててますわ。ですが、レインボーシープを家畜化すると魔物ではなくなるので、白い羊毛しか取れなくなりますの」
「魔物でなくなりゃ、それはただのヒツジか……」
単純な理由だった。
「いかがでしょうか。受けてくださるのなら、ギルドから魔動バリカンをお貸ししますわ」
ディアに回答を求められたショーゴが、顔をミントとアッコに向ける。それに2人が、
「いいんじゃない?」
「あたしも賛成!」
と言ってきたので、このクエストを受けることに決めた。そして、
「できるだけ、たくさんの色の毛を刈ってくださいね〜」
というディアに見送られて、一行は冒険者ギルドから出かけていった。
「レインボーシープのいる草原まで30kmか。魔動バイクがなかったら、何日がかりのクエストになってたんだろうな?」
そう言うショーゴたちは、川沿いに作られた山道を南にある低い山地に向かって走っていた。
川はスフルの街を流れるウルス川から、南の山地に向かって伸びる支流だ。そこに整備された山道を、3台の魔動バイクが走っている。昨日と同じで、ショーゴの後ろにシオン、ミントの後ろにケインが乗せてもらっている。
「うわ、海が見える」
景色を見ていたシオンが、そんな声を上げた。
左側にある山の間から、はるか遠くにある海が見えていた。スフル地方は内陸ではあるが間に山地があるだけで、東へ40kmほど行けば海があるのだ。今は山地に向かって長い登り坂を走っているため、標高が上がった分だけ遠くがよく見えるというわけだ。
後ろからきた冒険者パーティの一団が追い越していった。この先にもダンジョンがあるので、そこへ向かうパーティだろう。
そのパーティが見えなくなると、代わりに前から坂を降りてくる魔動バスとすれ違った。この道はそれなりに交通量はあるらしい。
やがて道が2つに分かれる場所に来た。右に行くとダンジョン。左へ行くと目指す草原と小さな村があるらしい。
「うわぁ〜。広いわ」
小さな峠を越えた途端、周りにあった森が途切れて大きな草原が広がっていた。海の見える山の斜面が、丸ごと草原になった場所だ。広くて見晴らしが良いだけに、あちこちに群がってるレインボーシープが見えている。
その真ん中を突っ切る道の途中で、ショーゴはバイクを止めた。少し先にはトラックのような魔動車が停められている。それに乗ってきた先客だろう。少し上の草原で、5人の男たちが大きな柵を作って、そこへレインボーシープを追い込んで捕まえようと準備していた。
その作業を見たショーゴが、
「しまった。俺たちも柵や網を持ってくるべきだったかな?」
と準備不足を反省する。だが、それにシオンが、
「網ぐらいだったら、あたしが作るよ。っていうか、あたしがヒツジを動けないように糸で縛り上げれば、それで良くない?」
なんてことを言ってくる。
「それができるのか? シオン。有能じゃないか」
ショーゴがそんなことを言いながらバイクを降り、それをアイテムボックスに収納する。ミントたちも同じようにして、ショーゴのところへ集まってきた。
「さて、これからどうやろうか?」
と聞いてきたのはミントだ。
「上の草原には先客がいるから、俺たちは下でヒツジを刈ろう。ヒツジを捕まえる役はシオンに任せて、俺たちは片っ端から毛を刈ろうじゃないか」
「え? シオン1人で大丈夫なの?」
アッコがその方針を心配する。
「まずはやってみて、ダメだったら別の手を考えましょ」
そう言ったシオンが1つの群れを目がけて、草原を駆け下っていった。
アラクネが近づいてきたことで、ヒツジの群れがいっせいに逃げ出した。それに、
「それ、それ、それ、それ、それ〜!」
シオンが次々と糸を飛ばして、逃げ損ねたヒツジを動けなくしていく。
「すごいじゃないか。こいつ、意外と暴れないな」
追いかけてきたショーゴが、さっそく青い毛並みのヒツジを捕まえた。4本足をクモの糸に縛られて動けなくなったヒツジだ。すぐにバリカンを出したショーゴが、ヒツジの毛を根本から丁寧に刈り取っていく。
「これ、意外と簡単だな。どういう原理で動いてるんだ?」
バリカンはヒツジを傷つけることなく、優しく毛を刈っていた。1頭あたり5分ほどかかるが、これで3kgぐらいの毛が集まっただろうか。
今、ケインは紫、ミントは緑、アッコは赤い毛のヒツジから毛を刈っている。
草原には他にも青、緑、紫、赤、黄色、オレンジなどのヒツジが転がっている。まさにレインボーだ。
「これ、なんかクセになるわね」
1頭目の毛を刈り終えたミントが、それをアイテムボックスに収納して、次に黄色い毛のヒツジの毛を刈り始めた。それを見たショーゴが、
「お〜い、ケイン、ミント。刈り終わったら、すぐに糸を解いて逃がしてあげなよ。いつまでも動けないままじゃ、可哀想じゃないか」
と注意して、ミントの刈り終えたヒツジを解放してあげていた。それで自由を取り戻したヒツジが、草原の下の方へ逃げていっている。
「わかった。次からはそうするよ」
先に答えたのはケインだ。そのケインの放置したヒツジは、アッコが解放させてあげている。
「はぁ〜い。こっちだよぉ〜。それぇ〜い!」
最初は手当たり次第にヒツジを動けなくしていたシオンだったが、少しずつやり方を変えていた。今はショーゴたちのいる方へ追い込んでから、ヒツジを動けなくするようにしている。
ショーゴたちも何頭も刈ってるうちにコツを覚えてきて、1頭あたり1〜2分で刈り終えるほど作業が早くなっていた。
「はい。お弁当よ。食べたいものをどうぞ」
適当に午前中の作業を終えたところで、ショーゴたちは昼休みを入れた。
お弁当はアイテムボックスに入れたまま、食べないままになっていた残り物だ。アイテムボックスに入れると何か月も入れっぱなしにしてても腐らないため、いつの間にか何食分も放置されるということが起きてしまう。ショーゴも最初に神様が入れてくれた食料が、まったくの手つかずのまま放置されている。だから、こういう機会にでも消化しないと、無駄に溜め込んでしまうのだ。
5人は草原の中にある大きな木の下に入って、思い思いに時を過ごしていた。
食事を終えたショーゴとミントは集めた羊毛を一度アイテムボックスから出して、色ごとに仕分けし直している。重さはわからないが、もう何百kgは集めているだろう。
ケインとアッコは、持ってきたボードゲームを出して遊んでいた。リバーシだ。すでに3つの角を取られて、黒のケインが頭を抱えている。
そしてシオンは、木の枝から糸を垂らして、短い睡眠に入っていた。
『めぇぇぇ〜……』
そんなショーゴたちのところへ、レンボーシープたちが近づいてきていた。
その中の1頭が、ショーゴに身体をこすりつけてくる。黄色い毛のヒツジだ。魔物にしては、妙な懐きようである。その仕種を見たショーゴがバリカンを手に取り、
「おまえ、刈ってくれって言ってるのか?」
と聞いてみた。
「めぇぇぇ〜」
まるで言葉が通じたように答えてくる。そのままヒツジの身体を軽く押さえて、毛を刈り始めた。
そのヒツジはおとなしいというよりも、ショーゴが刈りやすいように自分から身体の向きを変えてくる。おかげで楽に毛が刈れていた。
ミントのところでも、オレンジ色のヒツジが毛を刈るように催促している。ショーゴたちが危害を加えないとわかったので、それならばこの機会に邪魔な毛を刈ってもらおうと思ったヒツジたちが自ら集まってきたのだ。そのため4人は昼休みを切り上げて、午後の作業を始めることになった。
「なんか、おもしろいことになってるなぁ」
短い眠りから覚めたシオンは、目の前で意外な光景が起きてるのに驚いていた。
一生懸命に毛を刈るショーゴ。こちらにはヒツジの行列ができていた。
同じように行列ができてるのアッコだが、あまりにもヒツジたちに寄られすぎて毛の中に埋もれてしまっている。
それとは対照的に、ケインの近くにはヒツジがいない。それでも手が空いてると、「こいつでもいいか」という感じのヒツジが寄って来るので、その毛を刈っている。
そしてミントはというと刈ってる途中でヒツジの背に乗せられて、そのまま草原の中を運ばれていっている。
そんな光景を見たシオンが紙と画材を出して、この光景をスケッチし始めた。始めは写生風というか記録画という感じで。だが、ミントとアッコの遊ばれ具合いを見てるうちに、いつの間にかスケッチがマンガに変わっていた。
「お疲れさまでした。1日で、すごい量を集めてきましたわね」
ショーゴたちは日が落ちた頃になって、ようやく冒険者ギルドに戻っていた。催促してくるヒツジたちが途切れたのは、空が朱に染まり始めた頃だった。そこから帰途についたのだが、途中で日が落ちて空は暗くなっていた。幸い、道は魔光石に照らされて明るかったので、ショーゴたちはどうにか街まで戻ってこられたのである。
持ち帰った羊毛は大量にありすぎて、直接ギルドの倉庫に運んでそこで職員たちが総出で計量している。まさか1日でレンボーシープ約700頭分、総量にして2tを超える羊毛が納められるとは、朝の時点では誰も思わなかっただろう。
「……でね、途中からヒツジたちが集まってきて自分たちから『毛を刈ってくれ〜』って迫ってきたのよ」
今日の出来事は、シオンがマンガに描いて説明していた。それを見て、
「わかりやすい……」
とはディアの感想だ。それを見たディアが、
「シオンさま。その絵物語?も、お預かりしてよろしいでしょうか」
と頼んでくる。
「いいわよ。文字を書き込んじゃてるけど、問題ないかな?」
「こちらで使う文字とは微妙な違いはありますが、このままでも問題なく読めますわ。絵を使うと、こんなにもわかりやすくなるとは思いもしませんでした」
ディアの反応から、この世界にはマンガは伝わってないようだ。
とはいえ他のスケッチ画は、風刺画みたいな感じでこちらにもあるものらしい。毛を刈ってるヒツジの背に乗せられて、どこかへ運ばれていくミントの姿。たくさんのヒツジたちに擦り寄られて、身動きできなくなってるアッコの様子。まさにコミカルな姿だ。
他にもショーゴの前に何頭ものヒツジたちが順番待ちの行列を作ってる姿は、魔物とはいえヒツジたちの民度を示すものだろうか。
羊毛の計量を待つ間に、ディアは前に預かった3枚の隣に、報告のマンガを並べて展示した。さっそくロビーにいた冒険者たちが、それを見に集まってきている。
これを機に、シオンは周りの冒険者たちから『魔物先生』と呼ばれるようになった。
「計測が終わったみたいですわ」
ロビーに戻ってきた職員に気づいて、ディアがカウンターに戻った。
ショーゴたちが持ち帰ったのは、2.3tもの量だった。これを10kgあたり200ポイントで換算して、今日は1人あたり約9200ポイントもの獲得だ。そのためシオンは、1日でG級からE級へと昇級することになった。残り2000ポイントでD級への昇級も迫っている。
そして今日も1人あたり92万ジェムほどの報酬を受け取ることになった。
余談であるが翌日、シオンのマンガを見たいくつかのC級パーティが、「俺たちも」とばかりに羊毛採集のクエスを受けて草原へと向かった。
だが、彼らには大きな誤算があった。彼らが草原に着いた時、そこには毛を刈られたヒツジしかいなかった。昨日のうちにショーゴたちのパーティと、先客としてきていた男たちが、あらかた刈り尽くしていたのだ。
もちろん草原には毛を刈られてないヒツジも残っているには残っていた。だが、そのヒツジたちは警戒心が強く、自分たちに危害を加えないとわかっても寄ってこない者たちだった。当然、待っててもそのヒツジたちが寄ってくることはなく、さんざん追いまわして強引に毛を刈るという、いつもの乱暴なやり方で、ほんのわずかな羊毛を集めただけという徒労に終わることになった。




