神さまのお導き
『目覚め給え、宇津木将吾よ』
光に包まれた世界で、何者かが呼びかけている。
相手は雲のような床で横たわっていた。呼びかけには気づいているが、目を開けてボーッと上を見ている。上には何もない。明るいが青空ではない。紺色の空に星が輝いている。
「見たことのない星の並びだ……」
男は空を見上げたまま、そんな言葉を漏らした。
『宇津木将吾よ。目覚めたのであれば、起き上がってくれぬか』
声の主が、再び呼びかけた。それを受けて、男がゆっくりと上体を起こした。男の横には白くゆったりとした服を着た白髪の老人が、玉座のようなところに座っている。
「あなたは?」
『わしは……、そうじゃな。おぬしたちの概念で言うなら神じゃ。地球で魂の成長を管理しておる、指導神という存在じゃよ』
老人が静かに、そして威厳を感じる言葉と声で答えてくる。その老人が、
『突然じゃがおぬしには、これから異世界へ行ってもらうぞ』
と要件を告げてきた。
「異世界? 俺は死んだのか?」
『安心せい。死んではおらん。これから、しばらく異世界で過ごしてもらうだけじゃ』
「異世界で過ごす? しばらくとは?」
「そこはおぬし次第じゃ。早く済むかもしれんし、何十年もかかるかもしれん」
「何十年も?」
男──ショーゴが驚いた顔で老人を見た。
「俺には妻も子もいるのだが……」
『心配はいらぬ。異世界で何十年過ごしたとしても、肉体へ戻った時は一夜というか一時の夢じゃ。邯鄲一炊の夢という故事があるじゃろ。そういうものじゃと思えば良い』
「じゃあ、俺はこれから神さまの作った仮想の世界へ行く……のですか?」
ショーゴは相手が神さまであることを思い出し、言葉遣いを直しつつ立ち上がった。
『仮想でも空想でもない。おぬしに行ってもらうのは、地球からは6000光年ほど前にあるマキアーという惑星じゃ』
「前? ということはヘルクレス座の方角ですか? それとも、へびつかい座?」
『さすがは大学で宇宙物理学を学んだだけはあるな。じゃが、すまぬ。わしは地球の天文学には疎くてのう。詳しいことは答えられぬ』
そのように答えた老人の横に、説明のための大きなボードのようなものが現れた。そこに銀河系を斜め上から見たような画像が映される。
『さっきも言うたが、わしは地球で魂の成長を管理しておる神じゃ。天の川銀河の中には地球に似た惑星が、無数に存在しておる。その中でも人類の暮らしておる惑星同士を、わしらは互いに異世界として使うておるのじゃ』
説明のための天の川銀河の映像に、無数の赤い点が描かれた。その中に大きめのオレンジ色の丸が1つだけあるのが、地球というか太陽だろう。
次に小さな惑星の映像がいくつも現れた。大きな海のある青い水の惑星が多いが、陸地の大きな茶色や赤い惑星、雲に覆われた白や黄色い惑星、それから赤道以外が氷に覆われた氷河期の惑星などの映像が並べられる。それらが消え始め、
『これからおぬしに行ってもらうのも、そういう惑星の一つじゃ』
2つの映像だけが残った。1つは地球。もう一つのマキアーは小さな大陸がいくつもある惑星だ。惑星の大きさが同じであったら、もっとも大きいのは赤道直下にあるオーストラリアぐらいの緑の大陸。そういう大陸が適度な距離を取って点在し、その周りに無数の島がある世界だ。極地や高い山の上には氷河があり、小さいながらも砂漠のような地形があるのも見て取れる。
その中から北半球の中緯度地方にある大陸が拡大された。北東を上にした末広がりのM字型をしている。緑の多い右中央の土地の南の海沿いに赤い点が現れ、そこからいくつもの映像が浮かび上がってきた。
「なんか、中世のヨーロッパ風の街並みですね。でも、なんで看板の文字が日本語?」
『それについては、これから説明してやるぞ』
そのように断った老人の横で、説明用のボードの映像が変わった。
『まず、おぬしは中世ヨーロッパ風の街並みと言うたが、それは正確ではない。かつては地球の方が異世界として、マキアーから異世界人がやってきてたのじゃ。おぬしたちの歴史でいうところの、古代シュメールから中世ヨーロッパにかけた、5千年もの長き時代にかけてじゃな』
「じゃあ、あっちがオリジナル?」
『そうじゃ。マキアーから見れば、今も昔も地球はヒト族のみで魔法の使えぬ異世界じゃ』
「ヒト族のみ?」
『そこから来た者が技術者や魔法使いとして古代の指導者になったおかげもあって、西洋をあちらに似た街並みにしたのじゃよ。地球では魔法は定着しなかったがのう』
「そこ、マキアーからの異世界人は、日本にも来てたのですか?」
『システムの都合があるのでのう。おそらくはマキアーからは来ておらんと思うぞ』
「システムの都合?」
『異世界人の移動のルールじゃ。わしら神の間で、文明の発展が止まった惑星を異世界として使う取り決めがあってのう。人種や文化圏によって、異世界となる惑星や大陸は決まっておるのじゃ』
別の説明画面が出てきて、いくつもの惑星の世界地図が現れる。中央に並ぶのは、地球とマキアーの世界地図だ。それぞれの地図に色とりどりの枠が描かれて地域を囲んでいく。文化圏ごとに色分けされてるのだろう。その枠から何本もの矢印が引かれ、別の地図にある囲みへと向かっていく。すべて片道の矢印だ。表示の外へ向かっていく矢印も多い。
先ほどと同じように、中央に2つの世界地図が残った。もちろん地球とマキアーだ。
更にマキアーの地図からM字型の大陸が拡大され、地球も地中海を中心としたサハラ砂漠以北のアラブ・ヨーロッパの地域が拡大される。その地域はどちらも1つの枠として囲まれ、マキアーから矢印が向かっていた。他にもマキアーから2本の矢印が外へ向かい、外から1本の矢印が囲みに向けられている。地球の方も外へ2本、外から3本の矢印が引かれている。
『かつてのマキアー──いや、マキアーの中でも、これからおぬしに行ってもらうテルラ大陸に住むヒト族にとっては、古代から中世にかけての西洋が異世界じゃった』
時間の経過とともに、地球の側の囲みが変わっていく。初めは1つだったのが、やがてヨーロッパと中東に分かれていく。マキアーからの矢印は、そのうちヨーロッパにだけ向かっていた。そのヨーロッパも東西に分かれて、矢印も2つに分かれて両方に向かっていたが、徐々に西の矢印が細くなって東だけになり、それも細くなって消えると地図は東へ動いていき、枠に囲まれた日本列島が現れた。
『それが今では日本文明にとっての異世界が、マキアーのテルラ大陸に変わったというだけじゃ。もちろん日本以外の文明の者たちにとっても、それぞれの異世界となる惑星や大陸は用意されておる』
日本には地図の外から数本の矢印が向けられ、日本からも細い矢印が何本か外へ向かっているが、最初はマキアーとつながってるものはなかった。だが、新たにマキアーへ向かう矢印が生まれると、それがどんどん太くなっていく。
「日本からは、どのくらいの人が行ってるのですか?」
『その質問には答えづらいのう。これから行くおぬしのように、わしら神が異世界人として送り込む人数という意味では、同じ時代に数百人ほどじゃ。じゃが、世界が繋がっておるために迷い込む者たちがおってのう。その数については、まったく把握できておぬ』
「迷い込むことがあるのですか?」
『あるぞ。しかも、そういう者の多くはあちらの世界では魔物になっておるのじゃ』
「魔物?」
『そうじゃ。おぬしの行く異世界は、魔法があって魔物のいるファンタジーな世界じゃ』
「危険な世界ですか?」
『もちろん危険じゃ。じゃが、今の都市生活というぬるま湯に浸かった日本人には、生き物として忘れかけた本能や感覚を目覚めさせるために送り込む意味がある。それが今生で開花させるはずじゃった才能を塞いでおるのかもしれんでのう』
「つまり、私にもそういう眠っている才能があるのですか?」
『あるから送り込むのじゃ』
そこで老人の表情が変わった。そして少し間を置き、
『わざわざ神が異世界へ送り込もうとしておるのじゃ。それなりの理由があると気づけ』
と威厳を感じさせる口調に戻って語り始めた。
『おぬしたち人間の中には何十人に1人程度ではあるが、神から使命が与えられたり、何らかの働きを期待されて地上へ送り込まれる者がおる。おぬしは後者の1人じゃ』
「いったい何を期待されて……?」
『その疑問には答えられぬ。そこはおぬしの魂の成長のためにも自分で気づき、自分で才能を伸ばしてもらう必要があるからのう。答えを聞かされて理解した気になる、くだらぬ人間に育ってもらっては困るじゃろ?』
「自分では何も考えず、手っ取り早く答えだけを知ろうとする人……いますねぇ」
身の回りに思い当たる人がいたのか。ショーゴがそんなことを零して苦笑する。
『もちろん神としても、すべて自分でやれなどと無責任を言うつもりはない。才能が花開くようにサポートするのも、これから来る運命を乗り越えるようにサポートするのも神の役目じゃ。こうやって異世界へ送り込むのも、その一環じゃと思うてくれ。もちろん現地の神々からも手厚いサポートがあると思うぞ』
そのように語りながら老人が手を動かすと、ショーゴの前に大きな姿見が現れた。そこに映るショーゴの姿が、大人から少年へと変わっていく。
「これは……?」
『異世界へ送り込む者には、その時の年齢とは関係なく10代半ばから始めてもろうておる』
「これは懐かしい。高校生ぐらいの姿だ。背もちょっと縮んでるな」
着てる服がぶかぶかになっていた。ショーゴは高校時代にも10cmは背が伸びていたのか、頭半分ほど低くなっている。
『それと異世界へ行ってもらう者には、いくつかの能力と手荷物を与えておる。まずは鑑定スキルだ。まずは手のひらを自分に向けて「鑑定」と唱えてみよ』
「手のひらを……。鑑定!」
ショーゴが言われた通り、鑑定魔法を唱えた。すると目の前に文字や数字の書かれた画面が浮かび上がってくる。文字は日本語だ。
「名前、宇津木将吾。HP100。MP100。鑑定スキルだけ30で、他のスキルはオール1、レベルはオールEか……」
『その画面はおぬし以外には見えぬから、安心して使うて良い。今は手のひらを自分に向けておるが、情報を知りたいものに向ければステータスや簡単な説明などが調べられるぞ』
「特殊スキルにある『閲覧』と『検索』『探索』というのは?」
『それはおぬしに与えるチートスキルじゃ』
「チート?」
『神々が情報開示してるものであれば、自由に調べられるスキルじゃ。「閲覧」は図書館であり、異世界暮らしの指南書みたいなものじゃな。「検索」は簡単な調べもの用じゃ。「鑑定」「検索」「閲覧」の順に得られる情報が深くなっていくぞ。それと「探索」は「鑑定」の拡張簡易版じゃ。「鑑定」は1つだけを調べるのに対し、「探索」は周りを一気に調べるスキルじゃ。1つ1つ使い方を教えてやっても良いが、それでは時間がかかるからのう。暇な時にでも「閲覧」を使って目を通しておけ。「検索、テルラの地図」と唱えれば、大陸の地図と現在地を確認することもできるぞ』
「それは……本当にチートですね」
言われた通りに出した地図に触れると、大きさが変わった。表示範囲も自在に変えられるようだ。
「一般スキルにあるアイテムボックスは、異空間に物を入れられる能力でいいんですか?」
『その通りじゃ。おぬしには無限の収納力と、収納中の時間停止の能力を付けておくぞ。出し入れは念じるだけで可能じゃ。「検索、アイテムボックス」と唱えれば、中にある物を一覧として確認できるぞ。取り出したい時は、一覧の中から選べば良い』
「検索、アイテムボックス。……あ、もういろいろ入ってますね」
『それはおぬしに与える手荷物じゃ。数日分の食料と路銀、武器になる槍や杖、それと防護用の魔防マントなどを入れてある。記録用の筆記具と手帳も入れておくから、日記や備忘録として好きに使えば良いぞ』
「ありがとうございます。えっと……、剣はないのですか?」
『なんじゃ。おぬしも聞いてくるのか。剣で戦うなど、すでにテルラでは時代遅れじゃ』
「はぁ……。時代遅れ……ですか」
ショーゴが腑に落ちないような顔をしている。
『何より訓練もせず、いきなり剣で戦えるものではないぞ。槍ならば、剣よりも相手との距離が取れるからのう。しばらくは槍を使うておけ。それと魔法が使えるようになった時のために杖を入れておくが、これは鈍器代わりにもなる丈夫なものじゃ。必要ならば棍棒として使うのも良いぞ』
「鈍器になる魔法の杖って……」
『それから言葉や文字は心配せんで良い。おぬしには自動翻訳能力を与えておく。近くに人がおれば、その者の言語知識を借りて自在に読み書き会話のできる能力じゃ。まあ、そんな言語チートがなくとも、テルラでは1600年も前から何千人何万人という戦後生まれの日本人がやってきては大陸の文化に影響を与え続けてきた。そのおかげでテルラの言葉は、すっかり日本語の方言みたいになっておるがのう』
「戦後生まれ? 1600年前の戦後というと、白村江の戦いですか? いや、倭国大乱かな?」
『太平洋戦争じゃ、太平洋戦争。地球とテルラでは時間の流れが違うておるのじゃ。日本人がテルラへ行くようになったのは、おぬしの時間で60年ぐらい前から……じゃったかのう』
「本当に戦後生まれですか。1600年と60年って、日本の1年が、あっちの25年ですかね?」
『そのあたりの時間の違いは、気にせんで良い。なんせテルラで何十年、何百年過ごしても、肉体へ戻ってくる時には一夜の夢じゃからのう。それに元いた時代も、昭和、平成、令和とバラバラじゃ。これは異世界人も魔物も変わらぬ』
「その魔物も日本人ですよね? 戦うんですか?」
『そのあたりは安っぽい倫理観を働かせるでない。魔物としてテルラに迷い込んだのは、心に溜め込んだ悪い感情を発散するためじゃ。さっさと倒して悪い夢から覚ましてやれ。それが魔物になった者への一番の慈悲じゃ。気になるようなら、あとで検索と閲覧で詳しいことを調べてみよ』
そこについては何も反論させない雰囲気があった。
『それから、互いに異世界として使うてきた惑星同士じゃ。マキアーの方がちょっと小さくて重力も4%ほど弱く、それでいて気圧が2割ほど高うなっておるが、言わぬと気づかんと思うがのう』
「気圧が2割って、標高にしたら2千mほどの違いですよ。けっこうな影響はありそうですが……」
ショーゴはそのあたりが気になるようだ。
『それとマキアーの文明は地球より遅れてはいるが、公衆衛生はしっかりしておるぞ。そのあたりは地球がおかしかっただけじゃ。地球でも昔は都市化が進むほど公衆衛生もしっかりと整えられて、快適に暮らせておった。それがいつの頃からか、街が大きくなるほど逆に不潔になるところが多くなったのじゃ。日本はその例外じゃったが、西洋化で間違った都市整備思想が入ってきたせいで汚のうなった時期があったのう。それも半世紀かけて見直され、今では元の清潔さを取り戻しておるようじゃが……』
「ということは上下水道やお風呂などは……」
『普通にあるぞ。水道の水は浄化魔法でキレイじゃし、湯なら火の魔法でいくらでも沸かせるでのう』
「それなら食事の心配もなさそうですね」
『おお、そうじゃ、そうじゃ。食事といえば1600年前から、日本人がテルラへ行くようになったおかげで、すっかり食文化も変わっておるぞ。神のサポートで地球原産じゃったコメ、ジャガイモ、大麦といった農作物や、ウシやウマといった家畜、それとマグロやシャケ、サンマ、ニシンといった海産物も持ち込んでやったでのう』
「地球原産? 元から地球と共通してる農作物や家畜もあるのですか?」
『地球人も宇宙へ出るようになれば常識になるはずじゃがな。ヒト族は宇宙へ広がる時に、入植する惑星に小麦や大豆といった穀物や、ヤギやニワトリといった家畜を共通して持ち込んでおるのじゃ』
「地球人も宇宙から来てたのですか?」
『そうじゃよ。それも地球人が宇宙へ出るようになれば、そのうち真実を知るようになるぞ。それに、わしら神が互いに異世界として使う必要から、植生の似た惑星をいくつも作ってきたせいもあるのじゃ。マキアーには他にもトマトやトウモロコシ、ブタが持ち込まれておるし、先に来てた獣人たちもイヌやイエネコ、ウサギなどを持ち込んでおったしのう』
「獣人……。やっぱり、いるんだ……」
『ちなみにマキアーの獣人は毛むくじゃらよりも、ケモミミ、ケモシッポが多いぞ』
「……そこは気にしてないのだが……」
思わぬ情報を与えられて、ショーゴが苦笑している。
『とはいえマキアーに地球からウシを持ち込んだせいで、宇宙にウシの存在が知られてしまってのう。地球までウシを盗みにいく困った宇宙人が現れるようになったのう』
「キャトル・アブダクションの牛泥棒ですか」
ウシが殺されて血を抜かれたり、体の一部を切り取られたりするキャトル・ミューティレーションではなく、ウシそのものがUFOに誘拐されるキャトル・アブダクションは1970年代からアメリカやメキシコ、ブラジルなどで報告されるようになった。マキアーにウシが持ち込まれたからとは限らないが、時期としては一致している。
それもあって、ショーゴは妙にその話に納得させられている。
『他にもマキアーで自生していた野菜を品種改良して、地球というか日本で馴染みのあるキャベツやニンジン、ダイコンなども作られておるぞ』
「じゃあ、安心して暮らせそうですね」
『うむ。冷凍魔法で食品も新鮮なまま遠くまで運べるし、電気やガスがなくとも、たいていは魔法で何とかなっておる。まあ、そのせいで文明の発展が止まっておるからのう。それでマキアーの神からの求めで、おぬしのような科学や技術に明るい異世界人を多めに招いておるのじゃ』
「ということは、あっちへ行ったら産業革命を起こせば良いんですか?」
とは言ってみたものの、そこには何も触れてこなかった。
『さて、ここでの話は以上じゃ。おぬしに下りてもらうのは、内陸にある地方の街と決めておる。そこに着いたら冒険者ギルドに登録して、採集や魔物狩りをしながら異世界に馴染むと良いぞ』
「冒険者……ですか。それはまたファンタジーの定番ですね」
『街に着いたら、教会にも行ってみるが良い。必要があれば現地の神々が、いろいろとサポートしてくれるはずじゃ』
「それは、早めにごあいさつしておいた方が良さそうですね」
『取り敢えず、街を流れる川の上流に下ろすぞ。せっかくの異世界じゃ。思う存分、楽しむが良いぞ』
「いきなりですか?」
『ここで話を聞くだけでは、おぬしも何をすれば良いのかわからぬじゃろ? まずは行って、目で見て、異世界を感じてみよ。案ずるよりも生むが易しじゃ。何かあったら先ほど言うた現地の神々がサポートしてくれるし、わしも時々は見まわりに来るでのう』
「チュートリアルが欲しいですねぇ」
ショーゴが困ったように、ぼやいた。
そんなショーゴの足元が光って、魔法円のようなものが現れる。これから転送が始まるようだ。
『最後に、これだけは言っておく。けっして自殺だけはするでないぞ。それをやったら夢の世界から戻れなくなる可能性が大きいでな。これは肝に銘じておけよ』
「自殺? そんなこと考え……。あ、手っ取り早く元の世界に戻れると思って……」
光に包まれて消える寸前、ショーゴは老人の言わんとすることを理解した。
そのショーゴを包んだ光は、雲の上から地上に向かってものすごい速さで降りていくのだった。




