第30話 確保
空間が閉じる。
音が消える。
色が抜ける。
俺の周囲だけ、
世界から切り離されたみたいに、
静止する。
上位管理者の声。
「確保完了」
クロウの声が遠い。
「アーカ!」
エリシアの声。
「動かないで」
俺は剣を握る。
だが。
動けない。
空間そのものが、
固められている。
上位管理者が近づく。
ゆっくり。
逃げる必要がない歩き方。
「抵抗は無意味だ」
俺は言う。
「試す価値はある」
剣を振ろうとする。
動かない。
腕が、
途中で止まる。
上位管理者が言う。
「お前は」
少し間。
「貴重だ」
俺は聞く。
「何が」
そいつは答える。
「不安定」
エリシアが叫ぶ。
「やめて!」
上位管理者は無視する。
手を伸ばす。
俺の胸に。
触れた瞬間。
視界が割れる。
別の場所。
白い空間。
何もない。
ただ、
光だけ。
俺はそこに立っている。
体が軽い。
音がない。
上位管理者が言う。
「ここは管理領域」
俺は言う。
「……外か」
上位管理者は答える。
「違う」
少し間。
「中枢」
白い空間に、
無数の世界が浮かぶ。
球体。
一つ一つが、
世界。
ループしている。
壊れている。
再構成されている。
俺は呟く。
「……全部これか」
上位管理者が言う。
「お前の世界も、その一つ」
俺は聞く。
「管理してるのはお前か」
そいつは首を振る。
「違う」
少し間。
「我々は末端」
俺は目を細める。
「じゃあ上は」
上位管理者は答えない。
代わりに言う。
「お前を観測する」
その瞬間。
俺の体に、
ログが流れ込む。
記憶。
思考。
選択。
全部を、
覗かれる。
俺は歯を食いしばる。
「……やめろ」
上位管理者が言う。
「確認」
「1027回」
「異常継続」
「コア接触済」
少し間。
「再構成能力保持」
エリシアの声が、
割り込む。
「それ以上触るな!」
空間が揺れる。
白い世界に、
ノイズが走る。
上位管理者が言う。
「干渉」
「観測者」
俺は気づく。
「……お前」
「見えてるのか」
エリシアが。
上位管理者が答える。
「部分的に」
エリシアが言う。
「アーカ!」
声が近い。
すぐそばにいるみたいに。
「聞いて」
俺は答える。
「何だ」
エリシアが言う。
「そこ」
少し間。
「長くいちゃダメ」
上位管理者が言う。
「問題ない」
エリシアが強く言う。
「ダメ!」
「そこは――」
一瞬、
言葉が詰まる。
そして。
「“削る側”だから」
俺は止まる。
「……何だそれ」
上位管理者が言う。
「正しい」
俺は目を細める。
「ここにいると」
エリシアが言う。
「あなた」
「消される」
クロウの声が聞こえる。
遠くから。
「アーカ!」
「引き戻す!」
白い空間が揺れる。
ログが乱れる。
上位管理者が言う。
「干渉増大」
俺を見る。
「時間切れだ」
俺は剣を握る。
ここでも持っている。
自分の“存在”として。
上位管理者が言う。
「戻す」
その瞬間。
俺は踏み込んだ。
剣を振る。
一閃。
白い空間に、
黒い線が走る。
上位管理者の体に、
ヒビが入る。
そいつが初めて、
驚く。
「……何」
クロウの声。
「今だ!」
エリシアの声。
「戻って!」
俺は言う。
「分かってる」
視界が崩れる。
白い世界が、
砕ける。
次の瞬間。
俺は、
塔の中に戻っていた。
息が荒い。
体が重い。
クロウが立っている。
「……ギリギリだな」
エリシアがすぐ近くにいる。
さっきより、
明らかに近い。
俺は言う。
「……今」
「見えたぞ」
エリシアが少しだけ黙る。
俺は続ける。
「お前」
「観測者じゃないな」
エリシアが笑う。
ほんの少し。
「……バレたか」
クロウが言う。
「何だそりゃ」
俺はエリシアを見る。
「お前は何だ」
エリシアは少し考えて、
そして言う。
「管理者側」
少し間。
「だったもの」
空気が止まる。
クロウが笑う。
「いいね」
俺は剣を握る。
「敵か」
エリシアは首を振る。
「違う」
少し間。
「今は、あなた側」
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