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家族

赤子となった私は常に新たな経験を重ねていく。

匂い。温度。眠気。私にとって様々な【初めて】が毎日の生活を楽しませてくれる栄養分となっている。


その中でも一番の楽しみは食事である。

水すらも口にしたことがなかったのだ。口に入れる感覚は、それだけでも不思議な気分を味わえたがその味は私の脳を何度も刺激した。


『さぁ、ご飯の時間よ。レヴィアス』


どうやら私の名前はレヴィアスと言うらしい。

レヴィアス・アルカディアというなかなかイカした名前だ。


ちなみにご飯といってもまだ赤子の私はミルクしか食せない。

しかしこのミルクというものは頬が落ちそうになる程濃厚な味である。


『甘くて美味しいでしょ、たくさん飲むのよ。』


そうか。これが甘いという感覚。透明な瓶の中に揺れる白い液体がこんな味だったことを私がどうして知り得ただろう。


ゼロディアが言っていたことが一つわかった。

これからゼロディアが食していた様々なものを経験できると思うと心が躍った。

ゼロディアがうまいうまいと頬を赤らめながら食べていた肉は、スープはどんな味だったのだろう?


やつの言葉は何一つ理解できなかったが、離れ離れになってから経験するとは、なんとも寂しいものだ。


食事を終えると母、リディアは私を街へと連れ出した。


『今日はゼクロのお祝いをするのよ。』


満面の笑みで話すリディアはとても幸せそうだ。

近頃の会話から察するに、父であるゼクロは昇進した様だ。


ゼクロは魔獣を街に近付けない様にするいわば警備隊のような仕事をしている。

そこの部隊長に昇格した様だ。


この数日で分かったことがいくつかあった。

この街はフィアという名の小規模な街であること。

長年生きている私でも聞いたことがない街である。

小規模といっても、村ではなく街だ。

それなりに物品は手に入るところを見ると不自由はないのであろう。


『いらっしゃい!安くしとくよー!』


威勢のいい男がリディアに声をかける。


『リディアさんじゃないか!買い物かい?何か買ってくかい?』


『マリノスさん、こんにちは。今日はゼクロの好きな猪肉のシチューをつくりたいの。いいお肉はあるかしら?』


『それなら今朝とれたてのいいのがあるよ。安くしとくよ!』


『それは助かるわ。ありがとう。』


このマリノスという男はゼクロの元同僚である。

どうも獣に襲われて怪我をしたことで引退したとのことだ。

以前ゼクロとリディアが話しているのを聞いたことがある。

話せない私は人の会話を聞くことくらいしか暇つぶしがない。その為よく覚えていた。


夕刻になるといつもの様にゼクロが帰ってきた。


『いま帰ったぞー』


『お帰りなさい。今日は昇進祝いで猪肉のシチューを作ったのよ。たくさん作ったからいっぱい食べてね。』


『これはうまそうだ。一日の疲れも消し飛んでしまうな!どれ、残さずいただこう!ガハハハハ』


ゼクロは異常に明るい人間でいつも大笑いをする。

それをみているリディアが楽しそうなところを見るとよほど相性がいいのであろう。


私からみても実にいい夫婦と言える。


様々な人間を見てきたが、身近にいるのはいつも魔眼を必要とするいわば異能者だ。


剣術、魔術などに長けた者とばかり関わってきた私からすると実に平和で親しみやすいと言える。


いわば当たり家庭というやつだろう。

望んでいても子供を授かることができなかったアルカディア家に拾われた私は、溢れんばかりの愛情を注がれた。

人に興味がなかった無感情の私が、勇者ゼロディアと出会い少しずつ感情というものを手に入れた。

ゼロディアと別れた後すぐにこの夫婦に拾われた私は

むしろ幸運だったのであろう。


これが私の家族。

この世に舞い降りて初めて手に入れた家族。

なんとも言えない暖かい気持ちが私を包み込んでいた。



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