同盟
高吉が伊賀に進軍を開始した頃、大坂・豊臣秀頼に仕える政信も高吉に合流すべく戦の準備を行っていた。しかし、作戦方針が変更され、政信は、急きょ、長州毛利家へ豊臣陣営への参加を確約させるべく萩に向かうこととなった。
「政信。八兵衛を連れて萩へ行け。大戦には、味方が必要じゃぁ。」
「了解しました。」
毛利家勧誘を立案したのは、智将、真田昌幸である。八兵衛と政信が戦った宇和島の乱を聞いて、これを餌に裏で操っていた毛利家を脅すことを考えた。毛利輝元が了承するかは、わからない。大博打といえるが、関ヶ原の戦いの結果、辛酸を舐めた毛利だから、この話に乗ってくるのではないか。昌幸は、輝元の心意気と野心に懸けてみとうとした。
長い旅路が始まる、大坂城を立ち、摂津、播磨の山間部を抜け、以後も美作、伯耆~石見の山間部を歩き長門に入ることが出来た。山間部を通ったのは、豊臣方の行動が発覚しないように、徳川方に就く大名、池田などを警戒した隠密行動であった。政信が萩に着いた頃、伊賀では、伊賀上野城の城兵が高吉軍に降伏するという軍事上、重要な出来事が起きていた。政信は、そのことを知るのは、もちろん後になってからである。
「豊臣秀頼殿からの使者か。よう参られた。頭をあげられよ。」
「豊臣家家臣、辻政信でございます。」
「!? こ、この隣の男は!」
会談が始まってすぐ、毛利輝元の顔が青ざめた。
「八兵衛にございます。昔、毛利殿にお世話になった者です。」
「・・・・・なんのことだか。わからんのう。」
言葉を発しなくなった輝元に代わり、吉川広家が口を開き、さらりと八兵衛の存在を知らないものとしようとする。
「宇和島にて毛利殿の策によりお相手することとなった八兵衛でございます。八兵衛は、なかなか出来る男で、今は、豊臣家に私ともども御奉公しております。何か、御気分でも優れぬようですが?」
政信が、輝元、広家を挑発し、にやりと笑う。
「・・・ぐ。ぐぐ。どうか、徳川様に密告するようなことは、お辞めくだされ。」
毛利家近臣の僧が暫くの両者睨み合いの沈黙を破り、幕府に報告しないようにと懇願した。
「ばかもの!何を動揺するかぁ!」
広家が僧に激昂し、きんかん頭をいきなり殴りつけた。殴られた僧は、悲鳴をあげて広家に赦しを請うている。
「いや、密告は、するつもりは、ないのです。この度は、我が豊臣家と軍事同盟を結んでいただきたく参った。」
政信がいよいよ本題を繰り出した。
「我が主君、秀頼公は、徳川を討伐する。徳川は、あまりに我ら豊臣を蔑ろにし、いまや関東、東海、北陸、畿内に勢を張っておる。また大名の取り潰しも頻繁に行っておる次第。これは、毛利家も他人事じゃございませんぞ!」
「徳川様を排撃するとは!身の程を知れ!天罰が下るわ!」
徳川シンパの広家が政信の話を遮り、罵声を発する。
「それでは、宇和島の件を御報告せねばなりませぬなぁ。この八兵衛自ら江戸城に行って将軍に話をつけましょうか。」
「・・・な!!糞農民の分際で我らを脅迫しようとするかぁ!!貴様らもただじゃおけんぞ!!」
「いやいや。我らは、藤堂家の人間でございません。もはや過去のこと。藤堂と毛利が罰せられることがあろうとも我らには、関係ないこと。」
政信は、冷静に返答をし、毛利家の覚悟を固めさせようと仕向けていく。
会談は、平行線を推移した。政信と八兵衛は、なんと監禁されることになってしまった。毛利家を脅迫したことと宇和島の乱の発覚を恐れたための行動であろう。だが、その監禁は、二日で解かれることになる。
「今すぐ殿と会談せよ。身なりを整えい!」
政信と八兵衛は、いきなり監禁を解かれ、すぐさま会談の席に就いた。
「豊臣家が徳川家及び徳川譜代大名に向けて宣戦布告を行った。我ら毛利にも書状が届き、政信、八兵衛の縄を解き、大坂へ付けと。」
「真でございますか!!遂に秀頼公動いたか!」
広家から緊急ニュースの報告を受け、軍人、辻政信の血が一気に沸騰し、目をギラギラさせた。いささか、輝元、広家も政信の変貌ぶりと狂気じみた笑顔に引いているようだ。
「ごほんっ。しかもじゃ。藤堂高吉が伊賀上野城を強襲し、落城させたという。いやぁ、しかし。一体、何があったのじゃぁ。この輝元も何がなんだかわからぬわ!」
「殿ぉ!さすがです!」
政信は、旧主君の活躍と作戦の成功の報せを聞いて胸が高鳴ると同時に安堵した。
「しかし、まぁ。一杯食わされたのう。秀頼公は、この毛利に石見、安芸、筑前を与えるという。花押も入っておるから信頼できるが、それで合っておるか?」
「毛利殿。その通りでございます。石見、安芸、筑前、加えて大坂城下に派手な御殿を与えることを約束いたします。」
「ほほっ。それは、それは。わしも長門、周防のみでは堅苦しうてかなわなんだ!」
「そ、それでは。御助力をいただけますか?」
八兵衛が、恐れを抱きながら、毛利輝元に意思の確認をした。
少し間を置いて輝元が話を返した。
「当たり前じゃ!我ら、毛利は、これより徳川の天下を見限り、豊臣に力を貸す!!」
「広家。そなた、わしに意見するつもりならさっさと坂東へ行け。」
「・・・ぬぬ。この広家は、手弁当を食べる故、豊臣に力を貸さん!隠居する!吉川家は、感知せん!」
徳川シンパの広家は、またしても手弁当を食べることを選択した。これには、輝元も呆れ果てた。毛利家の不穏分子、吉川広家は、またしてもキーパーソンとなりそうな予感だ。政信は、密かにそう思った。




