真田
加藤清正邸で豊臣家の総意が「打倒徳川」に決した頃、藤堂高吉は、今治の所領を船で脱出し、伊賀上野城を目指し、家来を伴って進軍を開始していた。
高吉を補佐するのは、渡辺了であった。了は、高吉の家臣となり、今治を共に治めることになっていた。
「堺に入港し、一泊して体制を立て直した後、伊賀に入ります。伊賀上野城を奪取し、狼煙を上げるという手筈です。」
細かな作戦は、了が立案し、高吉が承認する形で進められていった。了は、元々、関ヶ原の戦いで西軍に与していたこともあり、徳川家を快く思っていなかった。幕府が成立してから今まで、徳川家は、その名声を高め諸大名を次々と従属させている。彼が恩義を持つ豊臣家も今後、臣従を迫られよう。それを懸念する思いが強く、今回の高吉の行動に従った。
一行は、堺に入り、一泊をして兵たちの疲れを癒すとともに軍備を整備・購入することで整えた。
「御屋形様!我が陣にあのお方が到着されました!!」
「うむ。ここへ来させよ。丁重におもてなしせい!」
高吉は、家臣の報告を聞き、勝利に近づいたという思いを抱いた。先ほどまでの疲れが一気に吹っ飛び、体が軽くなるようだ。
「真田信繁にござります!此度の徳川討伐に加勢すべく参陣いたしました。」
「おお、おお。よう参られた。藤堂高吉にござる。伊賀上野攻めに協力していただくことになる。今宵は、美味い飯と酒を用意した。」
「はっ。いただきます。」
高吉の切り札は、第一次上田合戦、第二次上田合戦で活躍し、一躍、真田の名を全国に轟かせた名将、真田昌幸の次男、真田信繁であった。信繁は、高吉から勧誘を受け、密かに幽閉されていた高野山を抜け出し、堺に入り、高吉勢と合流したのである。
「ところで、親父殿は、どちらに?」
「父も私とともに高野山を離れました。」
「それでは、どこに?」
高吉は、昌幸の居場所を問いただす。
「大坂城に向かっております。」
「なんと。親父殿もまだまだ現役か。」
「はい。豊臣方の参謀役を請われて大坂城に行ったのです。」
真田昌幸も、徳川討伐に参陣していた。かつて苦湯を飲まされた屈辱を晴らすべく高吉と秀頼の勧誘に乗ったわけである。戦に勝利した暁には、信州北部と上野北部の真田旧領を回復し、再び大名とすることが秀頼の書状に褒美として書かれていたらしい。
一夜明け、高吉勢総数一万五千と真田信繁が伊賀に向けて進軍を開始した。
一方、清正邸を後にした秀頼一行は、大坂城に帰還した。秀頼は、二条城にて家康と会見し、徳川家に反抗の意志がないことをやんわりと伝えた後、加藤清正と会談し、清正を味方に引き入れることに成功した。政信の助けを受けて一連の外交を処理した秀頼は、少し大人になったようだ。顔つきが少し変わり、他人任せにせず、自らが最終決定をする、という意志が出てきた。
高野山を脱出し、大坂城に入城した真田昌幸が秀頼に接見した。
「面を上げられよ。」
「ははーっ!それがし、名を真田昌幸と申します。再び、豊家に尽くし、命をかけて秀頼君をお守りすべく駆けつけました。」
「よう来た。よう来た。藤堂高吉の作戦がなって後、我らも行動を開始する。治長からそなたへ伝えておくことを述べる。」
治長が、詳細な作戦内容と昌幸に期待する役割を述べ出した。
「昌幸殿には、豊臣家の軍事参謀となっていただく。何か言うておくことは、ないか。」
「かつての所領を回復するということは、間違いないでしょうなぁ。」
「控えよ!お主は、自らの益のみでここに参ったかぁ!!」
書状の内容と褒美を確認する老将の言動に、小物の治長が噛みついた。
「控えるのは、修理、そなたぞ。」
「いや!? いや、こやつは、いや。え?」
珍しく意見をする秀頼に治長が驚きの表情を隠せない。
「上野、信濃の旧領を回復することを約束する。また、信繁にも別に所領を与えようと考えておる。」
「倅にまで!いやぁ、しかし、そこまでは、求めておりませぬ。面目のうござります。」
「よいよい。信繁には、大和の南を与え、我が豊臣を守護してもらう考えじゃ。」
「有り難き幸せにございます!!」
昌幸は、秀頼の器に触れた。亡き太閤殿下の血をやはり継いでいる。そう感じた。
「やはり、豊臣秀頼。大きな体のみならず心も大器よ!!」
心の中でこう呟いていた。
「いよいよ、伊賀ですな。」
真田信繁を手勢に得た高吉軍が、いよいよ伊賀に入った。
「信繁殿。指揮を任せる。なるべく味方の損傷を防ぎ、迅速に城を落としていただきたい。」
高吉は、信繁に全権を任せることにした。更に渡辺了から伊賀上野城とその周辺の地図を信繁に手渡した。
「存分に暴れてご覧に入れまする。」
総勢一万五千の軍勢が伊賀上野城を目指し、突進した!




