第20話 普通にバレ
月曜日。登校日。ダルい。
数少ない登校日でありながらもダルさを感じている自分に危機感を覚える……ような気がする。
「ふぁ……眠い」
欠伸を一つして校門をくぐると、そこには巨大な屋外モニターが鎮座している。
月曜朝の名物、学年別ランキングの更新だ。
先週は5位だったが、さて、今回はどこまで落ちていることやら。
「えっ、剣聖が抜かれてる」
「嘘でしょ?」
「1位、誰だこれ」
モニターの前で立ち止まっている生徒たちのざわめきが耳に届く。俺は恐る恐る画面を見上げた。
【1年A組 1位:紫灯 遊木 34,200pt】
「……オレ?」
思わず声が出た。
2位の『剣聖』こと剣崎蓮が28,000pt。まさかの6,000pt差をつけての単独首位だ。
「え、なんで?あ、いや結構倒したか。レッグシャークとかもやったもんな」
俺は顔を引き攣らせながら、逃げるように校舎へと駆け込んだ。
教室の扉を開けると、そこには既に"修羅の国"が完成していた。
「おい、紫灯! お前、どうやってあのポイント稼いだんだよ!」
「いい狩場でも見つけたのか!?」
席に着く間もなく、クラスメイトたちに囲まれる。
希少ジョブ揃いのA組連中にとって、ランキング1位の座は喉から手が出るほど欲しい名誉なのだろう。
特に、窓際で般若のような顔をして俺を睨んでいる剣崎の視線が痛い。
殺される。目が合うだけで斬り殺される。
「紫灯くん、おはよ。有名人だね」
救いの神か、あるいは悪魔か。
隣の席の成瀬美緒が、クスクスと笑いながら話しかけてきた。彼女だけは、俺があの"不審者ピエロ"であることを知っている。
「成瀬さん、頼むから今はそっとしておいてくれ……」
「そうもいかないみたいだよ? ほら」
成瀬が差し出してきたスマホの画面には、"ダンジョンLIVE"のショート動画が映し出されていた。
それは、俺がスライムからスキルオーブをドロップしたやつだ。
「え?あ……」
そうだった。俺のアカウント、クラスメイトたちは知ってるんだった。
次の瞬間、爆発的な笑いと驚愕の声が上がった。
「そうだ!紫灯くんの動画見たよ!」
「お前なんちゅう格好でダンジョン潜ってんだよ!」
「あははは!」
羞恥心に悶えるとは、まさにこのことだ。
俺は顔を真っ赤にし、机に突っ伏したい衝動を必死に抑えた。心臓の鼓動がうるさい。
あのスーツを着ている自分の姿がクラス全員の脳内に高画質で再生されていると思うと、今すぐダンジョンの最下層まで穴を掘って埋まりたくなる。
「違うんだ、あれは……その、ジョブスキルの発動条件で……!」
「発動条件って、あんな派手な格好しなきゃいけねぇのか? 趣味が独特すぎんだろ」
赤嶺さんが腹を抱えて笑っている。
あの剣崎までもが、呆れたように口元を押さえている。背中震わせて笑い堪えてるのバレてるからなお前。
「今は…今は普通の格好で潜ってるんだよ!あのスーツは、その洗濯中っていうか、引退したっていうか!?」
俺の必死の言い訳は、もはや火に油を注ぐだけだった。
「まぁまぁ、ジョブスキル関係ならしょうがないって」
「こんな愉快なジョブがあるんだなぁ」
「ランキング1位になれるってことは結構強いんだね」
成瀬が耳元で、「動画がバズったみたいでよかったね」と楽しそうに囁く。
確信した。こいつ、絶対に楽しんでる。
「帰りたい。今すぐダンジョンに帰らせてくれ……」
俺の切実な願いは、無慈悲に鳴り響いた一限目のチャイムによって、あっけなくかき消された。
窓の外の青空が、やけに遠く感じられた。




