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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
冒険者ギルド編・第三章
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逆転の運命たち(2)

ミディアラン


最初にセラフィーナが向かったのは西地区のはずれの花屋だった。

黒色トンガリ帽子の下の長い青髪を揺らしながら町のデコボコ道を進む。


砂に覆われた町は相変わらずの日差しと暑さであったが、彼女は汗一つかいていない。

魔力による簡単な体温操作で、ある程度の暑さや寒さなら感じずに快適に過ごせるのだ。



西地区のはずれ。

花屋が見える。

数人の客と会話するエレノアの姿があった。

いつもと変わらぬ光景にセラフィーナは安堵しつつ歩みを進めた。



するとエレノアがすぐに気づく。

客とのやりとりをそっちのけに、セラフィーナへ向けて満面の笑みを浮かべると何度もお辞儀する。

さらに近づくと店先に並べられた花たちが甘く香った。


「無事で何よりだったわね」


「セラフィーナさんや、スレイドさん、ミライさんのおかげです」


「私たちは何もしてない。助けるつもりだったけど、逆に第二騎士団に助けられたから」


「それでも私には命の恩人です!お礼になるかはわかりませんが、ここにある花でよければ何でも持っていって下さい!」


鼻息荒く顔を近づけるエレノアに圧倒されながらも、セラフィーナは店先に並ぶ多くの花へ視線を移す。


「え、えーと……何かおすすめがあれば……」


「もしかして、どなたかに贈られるんですか?」


「ええ。"彼女"にぴったりな花があれば贈りたいと思ってるのよ」


「どんな方なんですか?」


「"彼女"は……誰よりも頭がよくて、自立していた。逆にそのせいで色んな悩みがあったと思う。でも、そんな悩みからは解放されて安らかであってほしい」


それを聞いたエレノアは笑みを浮かべ、店先にあった一種類の花を数本束ねてくれた。

その花は細長い花弁が細かく無数に伸びた花で蕾や葉っぱには棘がある。

だが色合いは青く透き通る"海"のようで、とても綺麗だ。


「これをどうぞ」


「これは?」


「"青アザミ"です。花言葉は『鋭敏』、『独り立ち』、あと花の見た目から『安心』というのもあります」


「"彼女"によく似合う花だわ。ありがとう」


言ってセラフィーナは思い出したかのように口角を上げ、ぎこちなく笑って見せた。

そんな彼女を見てエレノアは左手を口元に当ててクスクスと笑う。


その薬指には綺麗な宝石がついた指輪がしてあった。


___________



エレノアからもらった花を大事に抱え、セラフィーナが次に向かったのは東地区だった。


目的地はリカルドの宝石加工店。


特に用事があるというわけではない。

しかし今回の人攫いの件に関して、一方的にリカルドの関与を疑った。


それについて少し思う部分があったのだ。



宝石加工店に到着して早々、セラフィーナは眉を顰めた。

店の前には大きな木箱が大量に積み上げられており、リカルドがせわしなく動いていた。


「なんだこれは……」


「おお!セラじゃないか!」


気づいたリカルドが振り向き、腕で汗を拭いながら笑顔を向ける。


「なんで、この店が盛況なんだ?」


「俺の店が盛況だとおかしいのかよ」


「だって、いつも暇でしょう」


「それが、いきなり大口の依頼がきたんだよ!聞いて驚け!なんと"ドネージュ魔導騎士学院さま"からだ!」


「なんだと?」


セラフィーナは首を傾げる。

なぜ学院が、こんな辺境の地の宝石加工店に仕事を依頼するのかわからなかった。


「どんな依頼なの?」

 

「いやぁ、それがよくわからないんだよな。なにやら小さな鉄の筒の中に魔法鉱石の粉末を一定の分量を入れるっていう細かい作業なんだ」


言って、リカルドはエプロンのポケットから完成品らしき物を取り出して見せた。

それは人差し指サイズの小さな円柱型の鉄の筒だった。


「なにこれ?一体、何に使うの?」


「お前が知らないなら俺がわかるわけないだろ。多分、魔法の道具か何かだと思うが」


「私も見たことないわ」


「まぁとにかく、こいつを大量に作らなきゃならないから大忙しさ」


「そう。こんな細かい作業を一人でやるのは大変ね」


「一人じゃないさ。正式に人を雇ったんだ」


リカルドは店へ向かって親指を指す。

店の入り口のガラス窓を覗くと、中で黙々と作業する少年がいた。


「あの子は確か……」


「うちから宝石を盗んだサシャだ」


「盗人を雇ったの?」


「手先が器用だし、宝石の鑑定眼も持ってる。なにより、"才能を無駄にするのはよくない"……セラが俺に言った言葉だぞ」


「確かに言ったわね」


「お前が俺に第二のチャンスを与えてくれたように、俺はあの子にチャンスを与えてやりたい。そう思っただけだ」


セラフィーナは過去にリカルドを救った。

彼は盗賊団の一員として悪さをしていたのだ。

助けられたリカルドは自分と同じ境遇にいる者を見捨てられなかったのだろう。


「それでセラは何の用事で来たんだ?残念だが、仕事の依頼は当分無理だぞ」


「謝りたくて来たのよ」


「は?」


「私は改心したアナタを疑った。また盗賊団と関係を持っていたんじゃないかってね。悪かったわね」


それを聞いたリカルドは涙目になりながら、セラフィーナの手を取り、両手で包み込むようにして強く握った。


「いいんだよ!俺はお前がいなかったら今ごろ荒野で、のたれ死んでる!」


「え、ええ……感動しているところ申し訳ないけど手を離してもらえるかしら」


「お、おお、すまなかった」


リカルドはすぐに手を離すがセラフィーナの手はホコリと油にまみれた。


そんな手を見つめつつ最初こそ顔を引き攣らせていたセラフィーナだったが次第に安堵の表情を浮かべる。

エレノアもリカルドもサシャも、何か運命の転機があったかのようだ。


それはセラフィーナも同じだった。


考えるに全ては、あの"2人"と出会ったことから始まっているような気がする。

スレイドとミライに会わなければ、恐らく姉の事件は解決に向かわなかっただろう。


セラフィーナはこの運命的な出会いに感謝しつつ、ガル・アーナムにある姉の墓へと赴いた。

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