月下の炎矢
大きな満月が広大な荒野を照らし出す頃。
ミディアランの町から北方へ少し進んだあたりに10人ほどの冒険者が集まった。
町へと向かっているという魔物の群れの討伐が目的だ。
指揮を取るのは冒険者ランク・ゴールドの剣士風の男。
冒険者たちを集めた、言わばリーダー的な存在だった。
「今、こちらに向かっているのは"ボーンウルフ"だ。知ってると思うが、さほど強い魔物じゃない。だが連携して攻撃してくる場合もある。こちらも二人一組になって対応しよう」
話が終わると、すぐに冒険者たちはそれぞれ相棒を探しはじめる。
着々とチームができていく中、スレイドは1人だけ焦ったようにキョロキョロと周囲を見渡すが残っている者がいない。
……かと思われたが、不意に若い女性の冒険者から声を掛けられた。
「あなた、もしかして剣士?」
「あ、ああ」
「よかった。前衛を探してたんだよね」
長い赤い髪を後ろの高い位置で結ったポニーテール、レザー系のインナーにカーキ色のロングマント、下半身はホットパンツを穿いた背の高い女性だった。
容姿が整い、さらに体も引き締まっていてスタイルがいい。
年齢はスレイドと変わらないほどだろう。
「私はジーナ。あなたは?」
「俺はスレイドだ」
「よかったら私と組まない?」
「俺はまだルーキーなんだけど、それでもよければ……」
スレイドはこめかみを掻きつつ、申し訳なさそうに言った。
するとジーナはクスクスと笑う。
「ネックレスを見たからわかってる。私もまだカッパーだから同じようなものだよ。それに、お互いの強さに格差がありすぎるのはチームとしてバランスがよくないと思う」
「そう言ってもらえると助かる」
「じゃあ決まりね。後衛は任せて、後悔はさせない」
ジーナの自信に満ちた表情は頼もしいもので、同時に羨ましくもあった。
ランクはカッパー(銅)、ということはルーキーの一つ上。
だが彼女はそんなランクの低さなど無関係と言わんばかりのオーラを放っていた。
チームが全て出来あがると、荒野の先でガサガサという足音が聞こえはじめる。
走ってくるわけではない、明らかに標的を視界に入れたことで警戒した動きのようだ。
「等間隔に広がるんだ。絶対に魔物を町には行かせるな」
リーダーである剣士の男が言った。
スレイドとジーナは頷き合うと、隣同士だった他のメンバーと数メートル間隔を取る。
さらに前衛のスレイドと後衛のジーナも前後、数十メートルの間を空けた。
スレイドが暗がりの中に、何か小さく光るものを見つけた。
それは月の光に反射して照らし出された魔物の眼球だということに数秒して気づく。
ガサッと音がして、一気にこちらに迫る。
黒い狼のような魔物は人間よりも一回り小さいが、その分、スピードが異常に速い。
"ボーンウルフ"と呼ばれた魔物の姿が露わになった時、すでにスレイドの喉元へ噛みつこうと飛びかかっていた。
スレイドは目を見開き、瞬時に反応する。
上半身だけを後方へと反り、腰に構えたショートソードのグリップを力強く握って柄頭を上空へ向けて放つ。
柄頭は顎下にヒットし、"ドン!"という鈍い音と共にボーンウルフを空中に浮き上がらせる。
すぐさま納剣して腰に構え直したショートソードを引き抜く。
狙いはボーンウルフの首元。
顎が上がった今ならガラ空きだった。
「くっ……マズイ!!」
しかし、ここで不測の事態が起こる。
ショートソードが鞘に突っかかって引き抜けなかったのだ。
この一瞬の隙はボーンウルフに立て直しの機会を与えるには十分過ぎるほどの時間。
「クソ……やっぱり重い」
空中にいるボーンウルフの顎は徐々に下がり、鋭い眼光はスレイドを捉える。
目と目が合った瞬間、後方からビュン!という音を立てて"何か"が飛ぶ。
それはボーンウルフの片目を貫き、大きく火花を散らした。
衝撃で吹き飛び地面を転がるボーンウルフの体全体に無数の歪な熱線が走り、黒い灰となって風に舞って消える。
すぐにスレイドは振り返って目を細めて見た。
月の光でかろうじて見えるジーナはおおよそ30メートルほど後方で弓を構えていた。
彼女は背負った矢筒から次の矢を引き抜ぬき、弓につがえる。
その一切、無駄のない動きは女神のように美しく神々しい。
「こんなに暗いのに、あの距離から当てるのか……待てよ……これなら……」
すぐさま思考し、スレイドは次の襲撃に備える。
暗闇を駆けるボーンウルフは軽やかなステップを踏むものの、やはり正面から来る。
牙を剥き出してスレイドの腕へ噛みつこうとした。
スレイドは攻撃を読み、バックステップをして間合いを取って攻撃を空振らせる。
そして腰に構えたショートソードのグリップを握りしめ、引き抜きと納剣を交互に繰り返してボーンウルフの顔面に柄頭を高速で3度叩き込む。
怯んだ隙に鞘を逆手持ちで振り上げ、鞘先をボーンウルフの顎に当てて空中へと打ち上げた。
その瞬間、ビュン!という音が聞こえ、すぐにボーンウルフの顎下に矢が刺さる。
頭が火花によって覆われながら、勢いよく吹き飛ぶボーンウルフは空中で体に無数の熱線が入り、地面に落ちると同時に灰となった。
あとはその繰り返しだった。
スレイドがボーンウルフを怯ませて空中へ叩き上げ、ジーナが弓矢を放ってトドメを刺す。
2人は短い戦闘の中で完成した連携により、他のチームと比較にならないほどの数のボーンウルフを仕留めた。




