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最弱ルーキーのナイト・スレイド  作者: フランジュ
冒険者ギルド編・第二章
33/61

蒼色の復讐


スレイド、セラフィーナ、ヒューイの3人はガル・アーナムの町まで戻った。


到着する頃には夕刻を過ぎて、すっかり夜になっていた。

街灯に照らされる森林の中のガル・アーナムは夜でも人通りは多い。


3人は埃まみれ、傷だらけで町を歩く。

向かう先はセラフィーナの屋敷だ。

その間、町ゆく人々は疲れ切った様子の彼らに視線を送った。



__________________




屋敷に入ると最初に出迎えたのは執事のシャル・マルマスだ。


「おかえりなさいませ……その傷はどうなさったのです?」


落ち着いた雰囲気のシャルだが、この時ばかりは焦った様子だった。

あるじが傷だらけで帰還したとなれば気が気ではないだろう。

しかしセラフィーナはそんなシャルの心配をよそに数段の階段の先にある円卓へと向かおうとしていた。


「私の傷なんてどうでもいい。カードプレイヤーはどうだった?」


「それが……」


シャルはお辞儀しつつ道を開ける。

すると円卓にはミライが腕を組んで座っているのが見えた。

その場所は"12時の位置"だ。

コルクス・ビッグバーンが座っていた席に着いていた。


「あら、ようやく戻ったわね」


気づいたミライが明るく手を振るが、すぐに表情が曇る。


「その傷どうしたの?」


「そんなことはどうでもいい。どのカードをめくったの?」


「あんた、最初と全く性格違うわね。あー、こっちじゃなかったかぁ」


ミライが着くテーブルの上に置かれたカードはめくられていた。

カードには何も描かれておらず真っ白。

それは"コルクス・ビッグバーン"のカードだった。


「まぁ、でもスレイドが戻ったってことは報酬はあるってことよね。魔法鉱石は持ってきたんでしょ?」


「あ……」


「え?」  


スレイドの顔が引き攣り、それを見たミライは眉を顰める。


「それどころじゃなかったんだよ」


「あんたねぇ、それにしたって自分の借金を返すために依頼を受けてるのに目的のもの忘れるって考えられないんだけど」


「お前だって"招かざる客"を当てられてないじゃないか」


「外しちゃったもんはしょうがないでしょ」


言い合いが白熱し出したあたりで、ため息混じりのヒューイが前に出る。

黒いマントの中から拳ほどの大きさの"青く光る石"を取り出して円卓の上に置いた。


「すまんな、報酬はオレの総取りってことで」


「あんた、いつのまに……」


「まぁ悪く思わんでくれ。手間をかけるが報酬は宿まで頼むよ。さすがにこの仕事は疲れたぜ」


そうセラフィーナとシャルに言ってから屋敷の入り口へと向かう。


「色々あったが楽しかったよ。ヴィクトリアはオレが弔っておく。また会うことがあれば、その時はよろしく頼む」


ヒューイは軽く手を振ってから屋敷を出て行った。

呆気にとられているスレイドだが、逆にミライの表情は怒りに満ちていた。


「これじゃタダ働きじゃないのよ」


「お前はただカードをめくっただけだろ」


「こっちも町を歩き回ってんの!」


「どういうことだよ」


この質問に答えたのは執事のシャルだった。


「カードプレイヤーには追加のルールがありました。ただこの屋敷にいるだけでは"招かざる客"を当てるのは難しい。なので一名だけバトルプレイヤーを指名して、その人物の情報を集めるということを認めたわけです」


「なるほど」


「ミライ様が選ばれたのが"コルクス・ビッグバーン様"でした」


「なんでコルクスだったんだ?」


「なんでって、一番怪しかったからに決まってんじゃん。迷わず選んだわよ」


ミライの言葉にセラフィーナは首を傾げた。

確かに目立ってはいたが、"一番怪しく、迷わず選ぶ"ほどだろうか?

スレイドは仲間なので除外するとはいえ、他の冒険者に対して何も思わなかったのだろうか?


「なぜコルクスが怪しいと?」


「あんたも怪しかったわよ。ヒューイとヴィクトリアには特に何も感じなかったわ」


「私のことも疑ってたのか?」


「ええ。でもコルクスという人物は他の誰とも違った」


「何が違ったというの?」


「あたし、モヤモヤした薄っすいオーラみたいなもんが人から出てるのが見えるんだよね。コルクスはそのオーラが見えなかった。まるで死んでる人間みたいだったのよ」


「な、なんだと……まさか"闘気"が見えるのか……ありえない」


セラフィーナは呟くように言った。

"闘気"というものに関してスレイドもミライも知識はない。

構わずミライは続けた。


「まぁ、だから町を歩き回ってコルクスについて調べたんだけどさ。情報を集めて確信したのよ。彼が"招かざる客"だろうってね」


「掴んだのは、どんな情報だった?」


()()()()()()()


「は?」


「一切、情報が無かった。コルクス・ビッグバーンという人物を知ってる人間が一人もいなかったわ。あれだけ目立つのに、そんなことがありうるだろうか?そう思ったのよ。まるで幽霊みたいだったから彼のカードを選んだ」


コルクス・ビッグバーンは最初から目立っていた。

言動もさることながら、何よりも彼の背負った大剣の鞘に書かれた悪口は見るに耐えない。

それなのに誰も彼のことを知っている人間がいないというのはありえない。


しかし単に情報が無いだけであれば他に怪しい人物へと目を向けるはず。

調査できるのは1人だけというルールではあるが、逆に考えれば調べたことで最初に"招かざる客"と推理した人物を除外することにも繋がる。


だがミライはセラフィーナではなく、あえて逆説的にコルクス・ビッグバーンという人物を選んだ。

結果、"招かざる客"を当てることはできなかっが、それ以上の危険人物を見極めていたのだ。


セラフィーナはミライの言葉を聞いてニヤリと笑った。


「そう……面白いわね」


「でも外しちゃったから報酬は無いわね。誰かさんも忘れ物しちゃうしさ」


「悪かったな」


「まぁいいわ。気を取り直して次に行きましょう」


ミライは勢いよく椅子から立ち上がると背伸びする。

そしてスレイドと共に屋敷から出ようとした時だった。


徐にセラフィーナが2人を呼び止める。


「ちょっと待って。君たちに追加で仕事を頼みたい」


「なに、またカードゲーム?」


「いえ、もうその必要はない。求めていた"武力"と"知力"は得たわ」


「どういう意味?」


「この依頼の本当の目的は魔法鉱石を持って帰ってくることでも、招かざる客を当てることでもない。"武力"と"知力"を持つ者を探すことにある」


スレイドとミライは顔を見合わせる。

彼女の言っていることの意味がわからない。

だが確かに最初の依頼についての説明の時にそんな話をしていた気がするのを思い出す。


「もし次の依頼を達成できたら、この屋敷と一緒に私の全財産をあげる。スキル・スフィアを買ったとしても王都の一等地に屋敷を建てれるほどの金額よ」


「え……マジ?」


「ええ。これでも最近、私が作った魔道具が貴族の間でバカ売れしてね。お金なら沢山あるから」


ミライはごくりと息を呑む。

一方、スレイドは困惑した様子だ。


「だけど、それだけ難しい依頼ってことだろ。今回の依頼で何も報酬を得られなかった俺たちに頼んでいいのか?」


「いいのよ、あなたの力はドーラムで見たし。彼女は頭脳もさることながら、"闘気を視認できる"スキルなんて世界でも持っている人間がいるかどうかわからないほどの超レア物だから」


「それで!どんな依頼なのよ!」


ミライはセラフィーナの話はほとんど聞いてはいない。

それよりも高報酬の依頼の内容が気になって仕方がないようだ。


「"ある人物"を探し出して欲しい」


「人探し?それだけ?」


「いや、その人物を探し出して私たちで殺す」


ミライは絶句した。

あまりにも非人道的な依頼だったからだ。


「なぜそいつを殺すんだ?」


1人、落ち着いた様子のスレイドは尋ねる。

このような少女が人を探し出して殺して欲しいという依頼をするのには何か大きな理由があるからと思ったからだ。


セラフィーナは大きく深呼吸してから静かに口を開いた。


「そいつは私の姉様を殺したんだ。だから必ず見つけ出して、この手で葬る」


彼女の凛とした表情は少女には見えず、まるで大人の女性を見ているかのようだ。

それは揺るぎない決意からなのだろう。


こうしてスレイドとミライは彼女の"復讐の依頼"を受けることになる。

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