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私の大切な人は魔術の師匠  作者: 佐伯 怜
第一部 前半
88/116

88.謁見



転移の前に私たちは最終確認を行った。


私にはカルメとジュネがついてくれる。

ルクスには従者のウブラと護衛のリグネウスが。


ジュネの護衛と従者は、王城の転移の間まで一緒に移動して、そのままその建物で待機することになった。



「それでは出発します。オデット様、転移の許可を頂けますか?」

「うん。許すよ」


そうして私たちはマギシアの談話室から、王城の転移の間に移動した。




そこは青と緑を基調としていて、所々に金銀があしらわれた部屋だった。


思っていたよりも簡素な造りに、私はへぇと室内を見渡す。

王城の転移の間は、それほど豪華絢爛、というわけではないようだ。



転移の間を出ると、ルクスに聞いていた通り、案内の者が出迎えてくれた。

そのまま、別室に連れて行かれ、私はルクスたちと分かれることになった。



部屋にはカルメとジュネが一緒に居てくれている。そこで王城の侍女や従者から、身体検査と荷物検査を受けた。


と言っても、ディグセ以外に魔術具は持っていないし、刃物とかも隠し持っていないので、直ぐに終わった。


三人の中ではジュネが一番、色々と持っていたので、少し時間がかかっていた。


それが終わると、ルクスたちと合流して、屋外に連れられた。




ほう。これが王城の空気、なのか。

何だか、マギシアよりも湿っているような。

よく分からない、慣れない匂いだ。



目の前にあった二台の馬車に分かれて乗ることになった。

一台目には案内役とリグネウス、ルクス、私。

二台目にはカルメ、ジュネ、ウブラだ。


事前に話し合っていた通り、ジュネの従者と護衛はここで待機することになる。



私は馬車というものに、初めて乗った。



なるほど。以前にカルメに教えてもらった、馬車に酔うというのは、こういう時に起こるものなんだな。


私は問題なかったのだが、確かにこの揺れでは酔う人が出てしまいそうだ。と、納得できる乗り心地だった。



そんなことを考えている間に、王城に到着したようだ。馬車の揺れが収まり、どこかに停まったのか、外から扉が開かれた。



案内役、リグネウス、ルクス、私の順で馬車から降りた。因みに、乗り降りの際には、ルクスに手を貸してもらった。


うん。段差が大きいからね。掴まらせてもらえて助かったよ。



馬車を降りると、意外と小さい扉が目の前にあった。


どうやら扉や出入口は、一つではないらしく、大きな扉は国王とか、国賓とかが使うらしい。


私たちは普通の扉だ。うん、普通でいいと思う。

というか、扉の役割を果たしていれば、何でもいいと思う。




その扉を抜けた先には、転移の間と同じく、青と緑を基調とした内装の、転移の間よりは豪華な廊下が続いていた。


よくわからない絵画や、よくわからない彫刻、よくわからない装飾の花瓶。


うん、活けてある花は普通な感じでほっとした。


それらに内心で首を傾げながら、暫く歩いて、漸く、目的地に到着したようだ。



案内役がとある扉の前で立ち止まり、それに合わせて私たちも立ち止まる。


「魔術師協会、協会長がお見えです。取り次ぎをお願いいたします」

「承りました。このまま、こちらで少々お待ちください」


案内役が立ち止まった扉はそれほど大きくも、豪華でもなかった。


そのことにルクスたちは少し安堵していた。多分、広間や謁見の間じゃないみたい。


まぁ、大事になっていたら、それはそれで何だか申し訳ないというか、緊張してしまうのだが。



扉の両隣に立つ騎士のような人に、案内役が声をかける。片方の騎士と話をして、その騎士は中に入っていった。


そして直ぐにその騎士は出て来て、両開きの扉が、ぱかーんというか、ささーっとというか、大きく開かれた。


案内役が横にずれて、私たちだけが中に入った。ルクスが先頭で、私はそれに続いた。




内部は緑と黄を基調とした上品な装飾の部屋だった。

かなり広く、左手には棚、右手には扉が二つほど。


中央の大きな机に一人、その背後に二人。片方は騎士のようだ。


その手前の左右に机が沢山、並んでいて、何人もの人が仕事をしていた。


更に右手の広い空間には、応接用か、休憩用のテーブルとソファがある。




ぼんやりと部屋を観察している時間は短かった。何故なら、先頭にいたルクスが直ぐに跪いたからだ。


私やカルメたちもそれに習って跪く。うん、カルメに習っておいて良かったな。


内心でそんなことを思いながら、私はふと、ディグセが解除されていないことに気付く。


うん、これは後で、自分で解除することになるのだろうな。



この部屋の魔力の気配は、先程見た人数分だ。


そして、魔力量は…………うん、まぁルクスよりは全然、低いかな。カルメよりも低いかも。


そんなことを考えながら、私はルクスが話すのを聞いていた。


「陛下。魔術師協会、協会長、お召しに従い、参上いたしました」

「ルクスか。よく来たな。それで、そちらが例の少女か?」

「左様でございます」

「私がこのサタロナ王国を治める者だ。其方、名は?」

「オデット・ネヴァフと申します」


カルメに教えてもらった語録の中から、私は最適な言葉を引っ張り出して、諳んじるように口にした。


うん、教えておいてもらって良かった。


但し、まだ応用ができる段階にはないので、この後は普段通りに話すことになる。


「白階位だと聞いていたが、ディグセの類を発動しているのか。一度、この目で確認しておきたい」

「…………」


うん?これはディグセを解除しろってことなのか?これは解除していいのか?今?ここで?


…………あ、うん。いいみたい。


ルクスに視線を向けられた私は、慌ててディグセを解除する。


「カネラ」

「…………ほう」


この部屋にいた人間たちがどよめく。


ざわついた空気の中でも、その者たちは何とか表情を取り繕っている。


そんな中で、陛下が一番、反応が薄かった。



うーん。ナントカ子爵から報告されていたのだろうけれど、信じ難いって感じだったのかな。



「よく分かった。ディグセを発動させて良いぞ。皆には刺激が強いからな」


お、今度は分かりやすい言葉だった。


私はシタヴァノと唱えて、ディグセを発動させて、元の色に合わせる。



「ルクスよ。これは其方の手には負えまい」

「いえ、オデット様がお望みであれば、全力を尽くす所存です」

「何だ?魔術具に関する税率を上げてほしいのか?それとも、近衛魔術師団長の席を用意するか?」

「いいえ。私が望むのは、オデット様の自由です」


ルクスの譲らないという思いを理解したのか、陛下は軽く息を吐いて、こちらに視線を向けた。


「オデットよ。其方は王城での暮らしに興味はあるか?」

「興味の有無と、それを実行したいかは別…………でございます」


流れで返答してしまってから、慌てて丁寧そうな語尾をつける。一瞬、室内に微妙な空気が流れた気がするが、気の所為であってほしい。


「ふむ。では、はっきり言おう。其方は我々が保護する」

「拒否します」

「其方の意思は聞いていない」

「じゃあ、全力で抵抗する」


はっきりと告げた私の言葉に、真っ直ぐに見上げた私の視線に、室内の人間が俄かに殺気立った。


その中で、陛下は冷静に、そして静かにこちらを、射抜くように見つめた。


「ほう?この国を相手取る気か?」

「邪魔を排除するだけ。まぁ、何も残らないくらいに邪魔が多かったら、大切なものと一緒に別の国に行くかも」


私の返答に陛下は少し考え込んで、先程よりかは幾分、控えめな態度で口を開いた。


「それでは、其方に監視をつける、と言ったら?」

「邪魔は排除する」

「…………分かった。当面はこのままで良いだろう」

「うん」

「今日はもう下がって良いぞ。またここへ呼ぼう」

「………………」


その言葉に私が不満そうな顔をしているのを見て、陛下は軽く笑った。

私がお断りの返事をするよりも早く、陛下が口を開いた。


「それくらいは許してくれるな?」

「…………好きにすればいい」


呼ぶだけなら、と口には出さなかったが、伝わったようだ。陛下は苦笑して、頷いた。


私が嫌なら断ればいいんだし、と思っていることが分かったようで、仕方なさそうな表情だった。


けれどまぁ、そうして諦められる程度の執着しかないのであれば、良いのかな。下手に粘着されても嫌だし。


「それでは御前を失礼いたします。本日は貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございました」


ルクスが陛下に礼をするのを見て、私たちはその部屋を出た。



先程の案内役について行き、来た道を戻る。同じ扉から外に出て、用意されていた馬車に乗る。


うーん、またあの揺れを体験するのか。

何か、魔術でどうにかならないのかな?

後でルクスに聞いてみよう。


そうして入り口の建物に戻って来た。そこでジュネの護衛と従者と合流する。二人は私の姿を認めて、ほっとしていた。


転移の間まで戻り、全員でマギシアの転移の間に戻った。



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