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71.ジュネの懸念(閑話)

今回は閑話です。



「はい。このくらいの速度で発動できるようになれば問題ないでしょう」


ルクス様がそう言う声が聞こえる。


聞こえてはいるが、俺にはその意味が理解できなかった。



問題ないとは、何を基準にして問題がないということなのだろうか。


あの生成速度は明らかに、実戦でも先手を取れる速度だ。


そこまでオデット様を鍛え上げるルクス様は何を考えていらっしゃるか、それとも何も考えていらっしゃらないのか。



隣に控えているカルメを見ると、食い入るように二人の訓練を見ていた。


恐らく、そこから学びを得て、二人に追い付こうと必死なのだろう。

その気持ちは俺にも理解できる。


主よりも劣っていることが、主を守れない理由にはならないからだ。

それは後ろにいる俺の従者や護衛、ルクス様の従者も同じ気持ちのようで、全員が真剣に二人の訓練を見守っていた。



その中で、リグネウスの表情だけは他の四人とは違った。

それはどちらかといえば、俺の感情を表したものに近い。


そう警戒するような険しい表情だ。



これは、ルクス様に真意を問い質した方が良いな。



そんなことを心に決めながら、結局のその訓練はいつ通りに進んだ。




その夜。オデット様とカルメが自室に引き上げるのを見送り、俺は早速ルクス様に向かい合った。


「ジュネ?」


俺の真剣な表情を見て、話題に全く心当たりがないという不思議そうな顔をしているルクス様に、俺は口を開く。


「ルクス様の部下として、確認しておきたいことがあります」

「何ですか?」

「ルクス様は、王国と敵対する道を選ばれたのでしょうか」

「え?」


俺の言葉にルクス様は驚いているが、従者のウブラと護衛のリグネウスは至って真剣な表情をしていた。


「…………なぜ、そのようなことを考えたのですか?」

「オデット様との練習の様子からです。オデット様に実戦でも通用する力をつけさせているのは、オデット様を」

「違います」


…………利用して国を相手取る気があるからか。と、俺が全てを言い切る前に、ルクス様は強い口調で言葉を遮った。


「でしたら、何故、あのような練習をなさっているのですか?」

「自衛のためです」

「それにしては、高度な練習をしているように見えます…………こちらから、敵対するつもりですか?」

「力を備えているというだけでは敵対にはならないでしょう」

「例えば、一部の領主が軍備を整えていれば、反乱の兆しとなるでしょう」

「オデット様にはできる限り、自衛できる力をつけさせたいのです」

「それはあの方を権力闘争の渦に巻き込みかねません」

「そんな中に置かれたとしても、周囲に扱いきれない程の力を持っていれば、御自分で避けられるでしょう」

「国家の、人類の敵になるかもしれないんですよ!?」


ルクス様の言葉に俺は思わず、声を荒げる。

力をつけさせるということは、その力がこちらに向くことも考えなければならない。


或いは、その力を得ることによって、オデット様が周囲から、避けられ、怯えられ、疎まれるようになるかもしれない、ということを。


しかし、ルクス様のお考えは違うようだ。


「オデット様がそのような考えを持つと?」

「オデット様が王家を見限れば、国家の敵になる可能性はありえると思います」

「では、王家に飼い殺しにされろと?」

「っ!申し訳ございません」


ルクス様の鋭い視線を受けて、俺ははっとして謝る。


そうか、ルクス様はオデット様とご自分を重ねて見ている部分があるのか。


「いえ、私も貴方たちの懸念は理解しているつもりです。かつて、父の第二夫人がそうでしたから」

「それに、お父様は何と?」

「私に社交術を身に付けさせろ、と。ふりだけでも良いから、味方でいろ、と。まぁそのお陰、というか、その所為というか、それでこの現状になっているのですがね」

「ルクス様は王家に反逆する意志がお有りですか?」

「いえ、それはありませんよ。少々面倒ですが、この立場も気に入っていますし」

「オデット様にも同じ道を歩ませると?」

「同じになりませんよ。させません。オデット様に私と同じ思いはさせません。ですが、行きつく先は同じかもしれませんね。結局、私たちのような者が、この国で普通に過ごせるのは、ここくらいでしょうから」

「…………」


ルクス様の自嘲するような笑みに、俺は眉を顰める。

しかしルクス様は直ぐに気持ちを切り替えて、話を戻した。


「取り敢えず、オデット様の教育方針についてはこれまで通りで良いですか?王家と対立するつもりはありませんし、飼い殺しにされるつもりもありません」

「畏まりました。しかし、オデット様にはご自身と周囲の違いについてよく理解される必要があると存じます」

「そうですね…………それは数年後には解決されると思いますよ」

「それは、どういう?」


ルクス様の言っていることがまた理解できなくなり、俺は首を傾げる。


「恐らく、オデット様には学院への入学が希望されるでしょう、王家から。そしてそれを断るのは良くありません。オデット様が学院に通うことになれば、周囲と御自分の違いを目の当たりにされるでしょう。その時、我々がオデット様をお支えし、導いて差し上げなければ」

「そこまでお考えになられていたとは…………出過ぎたことを申しました」

「いえ。私だけの考えでは偏りが出るでしょうから、これからも、何かあれば、こうして相談してください」

「はい。ありがとうございます」


どうやら、ルクス様はルクス様なりに考えた結果のようだ。


力自体に罪はない。それを行使する者に悪意があるのだ。


だから、力があるというだけで囲い込み、飼い殺し、言いなりにさせるということが起こらないように、ルクス様はオデット様が自衛できるようにしたいのだろう。


そしてルクス様がいる限り、オデット様がルクス様と同じ道を歩むことはないのだろう。


オデット様はお一人ではないのだから。



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