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57.休日の過ごし方



ウィテハの昼食を食堂で頂いた私たちは、再びルクスの執務室に戻って来ていた。

ルクスの机にはまた書類が届いていたので、ルクスたちはそれを処理している間に私はカルメと小会議室で勉強することにした。



一冊目の本は『図表と数式』。

色々な数を図表で表す時の書き方、図表の種類、規則性と数式での表し方。そんな内容の本だった。

何となくこういうものなのかな、と理解して、カルメに出してもらった問題を解く。


うん、できていたようだ。



二冊目の本は『図表と数式2』。

先程の続きのようで、同じ著者が書いているので、説明の仕方が変わらず、理解しやすい。

こちらも順調に読み終えたところで、カルメに問題を出してもらい、それに合格がもらえたところで、休憩をすることにした。




執務室に戻ると、ルクスが先に休憩していた。どうやら、私が勉強を終えるのが少し遅かったようだ。


カルメはいつも私がキリの良いところまで進むのを待ってくれるので、焦らず読み進めることができて有難い。



今日は私が遅かっただけではなく、ルクスが執務を終えるのも早かったようだ。

ジュネに聞いてみると、魔力制御の練習したさに、急いで仕事を終えたわけではなく、普通に仕事が少なかっただけなようなので、少し安心した。



ゆっくりとお茶を飲んで、のんびりと休憩していたのだが、先に休憩を始めていたルクスは待ちきれないらしい。

こちらをちらちらと窺っている視線を見返して、私はお茶の入ったカップを置いた。


「どうぞ?」


私が首を傾げてそう言うと、ルクスはぱぁっと顔を輝かせて、立ち上がって棚に何かを取りに行った。


ルクスが持って来たのは、両手で抱えるくらいの大き目の木箱だった。

あの棚に置いていたのか、と呆れの眼差しをしている私には気付かず、ルクスは箱を机に置いた。

蓋のないその箱の中には、大きさ、色、形の様々な魔石が入っていた。


「魔力の強さを上げる練習をしましょう」

「強さ?」


魔力の強さというのであれば、量が多い私は強いのではないだろうか。

それか魔術なんかの戦闘における強さであれば、ルクスやジュネたちの方が確かに強いだろう。


「この魔石に魔力を込めてみてください」


ルクスに渡されたのは、小さな球体の魔石で、色は黄色に染まっている。


渡された魔石を見て、私はいつものように魔力を込めようと操作するが、全く魔石に入らなかった。


魔力は魔石の周囲を取り囲むばかりで、中には入らない。

水を弾くように、壁で仕切るように、魔石の中に既にある魔力に遮られている。


「強さが足りない、という意味がお分かりいただけましたか?」

「うん」

「それでは、まずはこちらの魔石から、魔力を込めてみましょう」


私は黄色の小さな魔石を机に置いて、ルクスが差し出してくれた魔石を受け取った。

ルクスの掌ほどの大きさの茶色の魔石は、石というか岩というか、ごつごつとした形をしている。



先程の練習で周囲の魔力を把握できるようになったので分かるが、小さな黄色の魔石よりもこの大きく茶色の魔石の方が、含まれている魔力量が少ない。


黄色の魔石はぎゅっとぐっと魔力が詰まっていたが、こちらの茶色の魔石はふわっともわんとしていて少ししか魔力が入っていない。



私はその魔力を押し退けるようにして、自分の魔力を魔石に押し込んだ。

魔石を見てみると赤みのある茶色に染まっていた。

色の濃さとしては変わっていないが、色が少し変化している。


「色の濃さは変わっていないけどできてるの?」

「はい。魔石には元々の許容量がありますし、元より濃い魔力が入らないものもあります。きちんとできていますよ。それでは、魔力を回収してください」

「…………空の魔石?」

「そうです」


魔力を回収して、そこに残ったのは、ほぼ透明に見える色をした魔石だった。


なるほど。空の魔石はこのようにして作るのか。


そう納得したところで、私は空になった魔石を机に置いて、ルクスに差し出された次の魔石を受け取った。それにも魔力を込めて、回収する。



段々と魔石に魔力を押し込む力が強くなっていっているが、ぎゅーっと押し込んで何とか、魔力で満たす。

私の押し込む力も強くなっているようで、難易度は上がっているはずだが、できないということはなかった。


「これが最後です」


最後の魔石は最初に見たあの小さな黄色の魔石だった。

それを握りこんで、ぐっと魔力を込める。


うん、入った。


そしてそれを回収する。



魔石の元々の色が許容量の色という訳ではないようで、この魔石も黄みのある白色になるまで魔力を込めることができた。色も濃かったので、かなりの魔力が必要になった。



出来上がった空の魔石をルクスに渡すと、ルクスはそれはそれは嬉しそうな表情で、魔石を丁寧に受け取った。


そんなにこの空の魔石が嬉しいのだろうか。私が首を傾げていると、ルクスははっと我に返って、説明してくれた。


「あぁ、申し訳ございません。これほどの容量の大きな空の魔石があると思うと、何に使用するかを考えただけでも楽しくなってしまいまして」

「あ、そう」


魔石を撫でながら、うっとりとした表情で語るルクスに私は死んだ目をしてしまった。

ジュネにも険しい表情で見られているので、この魔石を使う時が来るのが心配だ。


「ルクス様。くれぐれも睡眠時間を削ることのないようにお願いします」

「えぇ、分かりました」


ジュネの牽制にも、ルクスは耳半分で聞いているようで、あまり分かっていないような生返事に、ジュネは溜息を吐いていた。


夕食の時にも、この魔石について考えていたのか、どこかぼんやりとしているルクスに私たちは、もうこれは放って置こうと咎めることはしなかった。




翌朝、食堂に入って、皆に挨拶をしようとしたところで、私は違和感に気付いた。


二人の服装が違う。違うというか、ローブを羽織っていない。

どちらかだけ、ではなく二人ともそうなので、何か理由があるのだろうか。



そう思うのと同時に、あれ、そう言えば、私も今日はローブをしていないぞ、ということに気付いた。


カルメが忘れたのだろうか。いやでも、皆羽織っていないのであれば、やはり何か理由があるのだろう。



ローブがないこと以外に、いつもと違う部分はなく、いつも通りに始まった朝食の途中で、私はローブについて尋ねてみた。


「あぁ、それは今日が休日だからですね」

「休日?」

「はい。王国では一週間に一日、休日を設けることが一般的です。どの日にするかは職業や立場によって異なりますが、協会では今日、セヴェの日を休日にしています。まぁ、交代で休日になる部署もありますが」


なんてことない表情で教えてくれたルクスに私はそうなのかと頷いた。


しかし、今日がセヴェの日で休日なのであれば、私がここに召喚された日もセヴェの日だったと思うのだが。でも、あの日は皆ローブを羽織っていたな。


その理由を聞くと、ルクスは苦笑して教えてくれた。


「最初はオデット様、お客様をお迎えするためにローブを着用していました。お客様に会う時やお仕事の時に着けるものだと思ってください」


それは今はお客様ではなく、友人や知人のように迎え入れてくれている、という解釈をしても良いのだろうか。


そろりとルクスの方を窺うと、ルクスははにかんだ笑みを、優し気な表情をしていた。



この一週間で色々なことがあったが、ルクスという大切な人ができて、ルクスにも隣に居たいと思って貰えて、という関係の進展を嬉しく感じた。



そうか。もう一週間になるのか。

と感慨深く思っていると、ルクスは楽し気な表情をした。


それは魔術に関係することを考えている時のものだと、この一週間で分かるようになっていた。


「ということで、本日はカルメの授業や魔力制御の練習もお休みになります」


お休み、という言葉を聞いて思い出したのは、風邪をひいた時のことだった。


もしかして、今日の私、とても暇なのでは?


「ルクスは何をするの?」

「私は、一日、研究室に籠る予定です。昨日オデット様に作成して頂いた空の魔石を使って魔術具を作ったり、依頼をこなしたりする予定です」


てっきり私の魔力制御の練習ができなくて、落ち込むのかと思っていたが、ルクスはルクスで魔術に関係する色々なことをするらしい。


うーん、私の今日の過ごし方の参考にはならないな。


「ジュネは?」

「俺は久しぶりに会う友人と過ごす予定です。その後は、時間があれば同僚と鍛錬でもしようかと思っています」


友人と過ごすということも、鍛錬をするということも参考にならなかった。


私は、今日は何をすれば良いのか、何をしようか、と考えながら朝食を食べ終えた。



次話は2026年1月26日(月)に投稿します。

また今後は、月、水、金の曜日に投稿します。


そして昨日、2026年1月22日(木)に累計2,000pvを達成いたしました。

お読み頂いている皆様、ありがとうございます。


これらのことについて、活動報告で改めて、お知らせしています。

また番外編にて小話を投稿しましたので、宜しければご覧ください。

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