9.乱入者
深夜にも関わらず、学園のある部屋には明かりが灯っていた。
真っ白な部屋を、ただランプの明かりが照らす。
そして椅子に座るその男は静かに本を閉じた。
「さて…いよいよ面白くなりそうだね。隠者?」
『隠者』と呼ばれた真っ黒なローブを着ている者は、その口を開かない。
隠者は読んでいた書物を閉じ、椅子に座る男へと渡す。
興味深そうな表情を浮かべる男に対し、隠者は静かに仮面の下で笑っていた。
————
天使と悪魔の対決の舞台は、地上から天空へと移ることとなった。
2人はそれぞれの翼を羽ばたかせ、大空へと飛翔する。
それはあまりにも僅かな時間過ぎて、目視するのもやっとだった。
天使の翼の神々しい光だけが、夜空を明るく照らしていた。
先手の攻撃を取ったのは悪魔。
その翼のエネルギーを利用し、邪悪な暗黒色の波動を天使に向かって放つ。
しかし、天使は4枚の翼で自らを覆い、それをガードする。
反撃とばかりに、天使は両手で球体のエネルギー弾を創造し、それを悪魔目掛けて射出した。
悪魔は、先程の波動をそのエネルギー弾に放出することで反撃を防いだ。
空中で攻撃を出し合った2人は、一度地上に降り立った。
「お前の実力はこんなもんかァ?そこが知れてんなァ…」
悪魔の安い挑発。
しかし、天使は全く真に受けていない様子で長い金髪を整えていた。
「こっちは寝起きなもんでね…」
首を回しながら、気だるげに天使は答えた。
悪魔は舌打ちして天使を睨みつける。
そうして2本の翼を羽ばたかせ、威嚇のように天使の方へ強風を送る。
だが、天使はまたもや4本の翼で自らを覆っていた。
やがて悪魔が翼の動作を止めるとすぐに、天使は両手でエネルギー弾を作りだした。
それを悪魔に向けて射出するが、悪魔は軽い身のこなしで躱す。
両者一歩も譲らない戦いだった。
しかし、少なくともそれはここまでの話だ。
「オイオイ…やけにうるせえと思えば、鳥がじゃれ合ってただけかよ…」
突如として、天使と悪魔の間に、一人の人間の声が現れた。
辺り一面を砂煙が舞い、俺の方からも様子の確認はできなかった。
数秒が経ち、ようやく砂煙が晴れてきた頃。
俺は驚かされていた。
あのほんの数秒で…『乱入者』は天使と悪魔を倒していたのだから。
天使と悪魔は地面に倒れこんでおり、それをあざ笑うかのように1人の男が立っていた。
天使が白で悪魔が黒だというのならば、その男を喩えるには『灰色』だろう。
ほのかに残る天使の翼の光から、俺はわずかにその男の姿を確認することが出来た。
「き、貴様ァ…!!」
「お前、まだそんだけ吠える元気が残ってたのか…」
男は悪魔の頭を靴で踏みつけた。
そして悪魔を見下ろすようにしたその表情はまるで、
悪魔を地獄へと引きずりおろす『死神』だった。