序
パソコンの奥に眠っていたファイルを添削して投稿。よろしくお願いします。
白い、無機質な色をした廊下を青年は歩いている。その歩みはひどくけだるげで、不意に止まっても納得してしまいそうだ。彼は遠くに聞こえる人々の生活の営みの声を聞きながら、やがて一つの扉の前で止まった。
『2年11組』。青年は扉に手をかけ開ける。扉はカラカラと軽い音を立てて開いた。中の教室の床も廊下と同じようなくすんだ白。それがこの無愛想な青年にはぴったり似合っていた。
大して広くもない教室の中央には机といすが一つだけ。ここは彼のためだけに作られた教室だ。とはいえ青年自身もこの教室に来ることはあまりない。今日ここに来たのもただの気まぐれ。
固い木の椅子に座り、頬杖をついて青年は窓の外を眺めた。秋の空は血を垂らしたように真赤に燃えている。運動場に目を向ければ「魔法」の練習をしている生徒たちの姿を見ることができた。腕に巻いた編纂機を操作して、遠くの的に向かって魔法の弾丸を放つ。その弾丸は真っ直ぐに飛んでいき、しかし的をわずかに外してしまった。それを見た生徒は悔しそうに頭を抱えている。
ご苦労なことだ。緩慢な思考で青年は思う。そして青年は視線を窓のさらに遠い方へ向けた。
そこにあるのは「塔」だ。光を吸い込む闇色をした、天に伸びる巨大な建築物。「塔」は今日も変わらず存在し続け、挑戦者たちの命をむさぼるのだろう。
「面倒くさい⋯⋯」
でもそんなことはずっと昔から続いていることだ。「塔」はずっと昔からあり続けていて、科学技術が発展した今を持ってなお「塔」に挑む者たちも後を絶たない。少なくともこの学校の生徒たちは「塔」に挑み、優秀な「魔法使い」として身を立てることを夢見ているのだろう。
だが彼らは知らない。「塔」の中に何が待っているのか。自分たちが何から目を逸らされているのか。「塔」の頂点には何があるのかは青年だって知らない。
青年は両腕を机に乗せて、その上に頭を乗せた。典型的な昼寝のポーズだ。とはいえここには昼寝を叱る教師はいないし、第一今は夕方だ。一応このクラスにも担任は存在するらしいが会ったことはない。興味がない。興味がない人間と会話するのも面倒なだけ。
瞼の裏には青年の生まれ育ったあの場所のことが焼き付いている。どこまでも広がる曇天に、止むことのない雨。灰色のコンクリートみたいな石でできた、背の高い建物が並ぶ街並みはどこまでも生というものを拒絶している。
薄暗い部屋の中。日に日に異形へと成り果てていく両親の姿。
心を病んで姿を消した妹の、壊れた笑い顔。
殺してくれと嘆願する両親に青年は、ナイフを突き立てた。
秋の涼やかでだけどどこか熱気の残った風が、青年の鼻をかすめる。その風にどこか雨季特有の湿った生ぬるいものがあるように思えた。
廊下の向こうから、がやがやという人の話し声が聞こえてくる。
今日中にもう一話上げます。