第5話『とりあえず一発殴らせろ』
京介は脚力を強化すると、サイキとの距離を取ってその周りを移動しだした。
「速ェ!?」
サイキはそのスピードに驚きの声をあげる。
増幅された身体能力は人間の限界を超えて、獣の域に達する。
逆に言うと強化スーツで身を固めていない状態ではそんなものというところでもある。
反応がついていけてないサイキの頭上を跳び越すと、後ろに周り着地、そのままサイキの背中に目がめて掌打を打ち込む。
「…あぶねぇ!」
しかしその攻撃はサイキに当たる直前で止まっていた。
「うっ…!」
サイコキネシスで受け止められているのだ。
京介は瞬時に間合いを取ると、再びサイキのサイコキネシスに捕まらないようにかく乱しながら隙をうかがった。
「身体強化系だったのかよ」
サイキは近場にあった椅子や机を能力で浮かび上がらせると、それを投げてきた。
京介はそれを避けると、落ちていた石を拾って移動しながらサイキに投げつける。
当たる瞬間に空中で受け止められる。
(思った以上に防御が厄介だ)
ホテルロビーを走り回りながら機会を伺う。
消耗は激しいが、立ち止まったらやられる。
菱田はスタンガンを取り出した遥に背を向けて走り出した。
実際のところ鉄化した状態で電気が流されたらどうなるか分からない。
内臓の類にダイレクトに来るのを想像して寒気がした。
「逃げられるわけねーだろーが!」
遥はテレポートして菱田の前に出た。
「うっ!?」
「おとなしくやられりゃいーんだよ!」
菱田は反射的に防御する。
スタンガンが触れて電気が流される。
「いっつ!?」
菱田の体に痛みが走った。
が、それだけであった。
「えっ…?」
もう少し高い効果を期待したのだろうが、市販されていたスタンガンにはそれほどの威力は備わっていなかったようだ。
ドラマのように気絶するようなものを想像していたのかもしれない。
ここらへんは女子高生らしい浅さと言えた。
菱田は遥の腕を取る。
「ええっ!?」
「やりすぎたらゴメン!」
菱田は謝りつつ遥の背後にすばやく回ると両手で胴をしっかりと掴んだ。
「お前…!?」
そのしてその腕を力いっぱい締め付ける。
「ぎゃっ!? ぁぁああっ!!??」
腹を強烈に締め付けられて遥は奇声を発する。
菱田はアマレス部なのだ。
身体的には普通の女子高生の遥には振り払えない。
「降参してくれ!」
「いいいいいぃっ!」
遥はスタンガンを菱田の腕に押し付けようとした。
菱田がさらに力をこめるとスタンガンは腕から落ちた。
「はひっひっ…ふいっ!」
遥の顔が苦痛と窒息で涙とよだれが流れ出す。化粧が崩れて黒い涙がつたう。
「降参して!」
「やあぁぁっ!」
腹を締め付けられて大きな声は出ないが、かすれた声で精一杯叫ぶと、遥は菱田ごとテレポートした。
膠着。というには動きのあるにらみ合いをしているサイキと京介の間に、遥はテレポートしてきた。
腹に組み付いた菱田も一緒にだ。
「遥!?」
突然現れた遥にサイキは驚く。
遥はもはや声が出ず、ジェスチャーで何とかしろとサイキに伝えようと自分の腹にある菱田の手を何度も指差した。
「お、おう!」
サイキはサイコキネシスで菱田の腕を引き剥がした。
「う、うおっ!?」
菱田は見えない力に驚く。
腹の圧力を解かれて遥はその場に膝と手を突いて地面に向かってゲホゲホとセキをした。
「おいおい、だいじょうぶか…」
遥の様子に声をかけたサイキだったが、背後から現れた影が視界を暗くしたので、今まで相手していた京介の存在を思い出した。
「気を逸らしたな!」
京介は拳を振りかぶって叫んだ。
「しまっ…!」
サイキが覚悟した瞬間、遥がテレポートして京介に触れた。
そしてそのまま京介を連れて連続テレポートした。
「うっ!?……ふう…あ、危なかったぜ」
サイキは胸をなでおろすと、菱田に視線を向けた。
「惜しかったな、あんた、ええ?」
気を取り直して菱田を相手に定めた。
飛び出した体勢で飛ばされた京介と遥は地面に勢いよくたたき付けられて転がる。
「うっ、く…」
京介が呻いて立ち上がると、倒れたまま呻いている遥を見つけた。どうやら打ち所が悪かったようだ。
菱田に絞められた腹のダメージも残っていて立ち上がれないようだ。
「……」
京介はフッと息を吐いた。
辺りを見回すと、ホテル内のどこかの一室の様だ。
しばらくすると遥がゆっくりと腕を押さえながら立ち上がった。
「大丈夫か?」
「…チャンスだったのになんで攻撃しなかったのさ?」
アイメイクの崩れたひどい顔で恨めしげに京介を見る。
酷い顔である。
「普通のヤツなら、あんな状態のヤツに追い討ちできねーって」
「私が女だから?」
「男でもちょっと躊躇するな」
女性だからという部分は完全に否定はしない。
「あんたは女だから、もうしばらく…メイクを直す時間くらいはやってもいい」
と苦笑してみせる。
その言葉に遥はハッとすると、壁にあった鏡の埃を手でぬぐうと、自分の顔を見た。
「…ギャー!」
そして叫ぶとそのままテレポートして消えてしまった。
京介は敵が消えたので安堵する。能力的にすぐ戻ってくるかもしれないが。
(ゆっくりしてる暇はないな)
コスモや菱田の事も気がかりだ。
部屋を出ると、向こうの廊下からコスモが走ってきていた。
「天空!」
「ニンイサン!」
コスモはそのまま京介の前を通り過ぎる。
そして後ろからコスモを追って色んなものが飛んできた。
(サイコキネシス!?)
京介は脚力を強化すると、逃げているコスモに追いついた。
「天空!お前もう一人の女と戦ってたんじゃないのか!?」
「ハイタタカッテマス、ジツハ…」
走りながら自分の体験したことを告げるコスモ。
「…なるほど、わかった、その女の相手は俺がする。天空はロビーに向かって菱田をを助けてやってくれ」
「ワカリマシタ」
京介は足を止めると、飛んできた額縁を蹴り落とした。
「宇宙人には理解できないわけだ」
京介は集中して感覚を研ぎ澄ました。
感覚を増幅すれば。
京介は浮遊する物体を操っているものを視覚に捕らえた。
サイキの能力を知らない菱田はあっさりとサイコキネシスに捕らえられていた。
「ううっ…どうしたんだ…体が動かない」
「運がないねあんた…まあ、遥を痛めつけた礼はしておくか」
サイキはニヤニヤしながら腕を上げると、菱田は空中に持ち上げられた。
「ヒシダサン!」
コスモが駆けつけた。
「おいおいもしかして希望サンやられちまったのか? まさかな」
サイキはあせらずに空いている方の手をコスモに向けた。
コスモの体の自由が奪われる。
「2アウトだな」
コスモを空中に浮かして菱田の横まで持ってくる。
「ちょっと気を失っててもらうか」
サイキは両手に力をこめた。
二人に圧力がかかる。
が、菱田は硬化、コスモは軟化した。
不意に紐状にまで体型を変えたコスモをサイキは追えなかった。
「くっ!?」
そして同時に菱田の体の重量が何倍にもなったので腕が持っていかれる。
「なにぃ!?」
サイキはコスモに向けていた手でもう一方の方の手を掴むと、鉄の塊と化した菱田を受け止めた。
本来なら片手でもまかなえる重量ではあったが、不意の重量の増加で対応できなかった。
「身体変化能力だとぉ…!」
そう口にしたところでサイキははっとした。
軟体化したコスモが首に巻きついていた。
「ヒシダサンヲハナシテクダサイ、クビヲシメマスヨ」
耳元で囁かれて、サイキは観念して両手を挙げた。
藍子は困惑していた。
協力者の応答が急に途切れてしまったからだ。
「交渉して帰ってもらったよ」
京介は藍子の前まで来てとまった。
「霊能力者とはね」
「あなたも?」
「俺は能力の応用でそれもこなせたってだけかな」
能力の増幅で霊感を強化すると、藍子の操っていた霊に対して交渉を行った。
元より霊感の強い人間に従うくらいの友好的な霊である為にそれほど時間はかからなかった。
「あんな風に能力使ったのははじめてだった」
「そう…じゃあ降参する」
あっさりと藍子は負けを認めた。
霊の力がなければ非力な女性でしかないのだ。
藍子とサイキを含め、5人でロビーに集まった。
「あれ?」
化粧を直した遥がテレポートで戻ってきた。
「負けちゃったんだ?」
サイキと藍子を見て誰に向けてでもなく言った。
「あとはあんただけだけど」
「はぁ?やんないわよ。まったく髪型も化粧も服もボロボロになっちゃって最悪!」
「おいおい、おめーが本気だしゃ3人相手しても勝てるじゃねぇかよ」
「しんどいしめんどいからヤ。私十分がんばったじゃん」
サイキの言葉にとおなかをさすりながら言い返した。
「まったく…赤ちゃん産めなくなったらどうすんの」
「もう2、3人おろしてんじゃねーの? パパとやってる時ちゃんとヒニンしてるか? ケケケ」
サイキの軽口に遥はジロリとにらみを利かせた。
「じゃあ吉岡は無事に返してもらえる?」
菱田が口を開く。
「というか、吉岡が黒幕だろ」
京介の言葉にその場の全員が反応して京介を見た。
「いつ分かった?」
サイキだ。
「あんたが言った、超能力ベスト3の有名どころが揃ってるって言ったのが気になってさ」
「言ったかな?」
「似たような事をな」
正確には覚えてないが。
「一人だけ霊能力者でアレって思ったから、感覚を研ぎ澄ませてたんだ、そしたら聞こえた」
「何が?」
「テレパシーかな」
藍子ははっとした。
「そう、あんたが吉岡と頭の中で話をしていたのを傍受したってわけ」
ここに来ての感覚の増幅が妙に便利な能力だと気がつく。
もっと早く分かっていれば前までの戦いももっと楽だったろう。
「さすがだね任意くん」
吉岡がロビーのカウンター下から出てきた。
「…そんなとこにいたのかよ」
「いやそこだと店内の監視カメラが見れるんだよ」
「…カメラ生きてるのかよ」
「修理したよ」
吉岡は笑った。
「で、こんな事をやらせた目的はなんだよ?」
「ボクと斎木、伊道は超能力スクールの出身でね」
「スクール?」
「そう、幼い子供の超能力を開発する学校。路利樹の作ったスクールさ」
路利樹は10数年前にテレビにも良く出ていた超能力研究者だ。
破天荒なキャラクターがメディア受けして子供たちにプチ超能力ブームを起こしていた。
「スクール自体はもう廃校になっているんだが、路利樹と何人かのスクール出身者が集まって、何かを企んでいる」
「何かって?」
「おそらく、国家転覆」
「…ううん?」
京介はゲンナリとした声を出した。
「テレパシーで来たのさ、スクール出身者に呼びかける声がね」
吉岡はとんとんと自分の頭のこめかみの辺りをつついた。
「僕はそれを止めたいと思う」
「…それで力試しってわけか?」
「そう、スクールとは違う能力者の協力が必要なんだ。力のある能力者のね」
その為には本気でやりあうのが一番だと考えた。
「協力して、もらえないだろう?」
京介、菱田、コスモの顔を見渡す。
「…まあ急に言われても困るな、考える時間はいる」
京介はそう言うとポンと吉岡の肩に手を置いた。
「まあ答えを出す前に、とりあえず一発殴らせろ」
京介の拳が吉岡の頬にめり込んだ。




