第4話『まさかだろ?』
昨日指定された廃ホテルの前に京介、コスモ、菱田の三人は並び、見上げる。
年月によりかなり寂れた感じではあるが、広くて立派な建物であった事はうかがい知れる。
バブル期の遺産といったところか。
「…昨日も言ったけど、無理はすんなよ。危なくなったらすぐに逃げろ」
京介は二人に言うと、ホテルの入り口に向かう。
封鎖されていた後があるが、それを壊した後があり、全て割れたガラス張りの回転ドアの合間を抜けて進入する。
広いロビー。肝試しのスポットや不良のたまり場になっていた為に、わりと新らし目のパッケージの菓子類の袋などが落ちている。
「よう、ちゃんと来たじゃないか」
声が響き、正面の階段上の踊り場で昨日の男がこちらを見ていた。
「あとの二人はどうした?」
「このホテル内にいるよ。せっかくこんな舞台があるんだ、ただ顔揃えてはい対決ってんじゃ、面白くないと思ってよ」
「しゃあ今のうちに俺たち3人であんたを襲う、って選択肢もあるんだ?」
「そうはいかないと思うぜぇ」
京介の言葉に男はいやらしい笑いを浮かべた。
その瞬間、京介達の後ろに女子高生が瞬間移動してくると、コスモと菱田の肩に触れた。
「あっ…!?」
京介が気がついて振り向いて間もなく、女子高生と一緒に二人は消えてしまった。
おそらく瞬間移動で連れて行かれたのだろう。
「くっ…!」
やはり厄介だ。
「だーいじょうぶ、このホテル内にはいるからよ」
そういって男は階段を下りてくる。
タンクトップからのぞく筋肉が自信を漂わせる。
「…まあいいや、元々あんたの相手は俺がするつもりだったからな」
「そいつは気が合うなあ」
「…あいつらが心配だ、さっさと始めようぜ」
コスモはホテルの三階の廊下に飛ばされていた。
女子高生と菱田はコスモを置いてすぐに消えてしまった。
こつん、こつん。
足音が聞こえてくる。
こちらに向かってくる。
コスモの背筋に冷たいものが走る。
(ナンダロウ…コノヘンナフンイキハ…)
異星人の彼にも感じる異様な空気。
「…こんにちわ」
頬のこけた女がコスモの前に姿を見せた。
「希望、藍子と、もうします」
自己紹介して、小さく頭を下げた。
そして、
「それでは、はじめましょうか」
頭を上げて光のない瞳をコスモに向けた。
菱田は押されてコンクリートの地面に倒れると、すぐに立ちあがって警戒した。
「フー…」
女子高生はけだるそうに息を吐くと、自分の右手の甲を眺めている。
「や、やるのか?」
菱田は腰が引けつつファイティングポーズを取る。
「伊道 遙…」
「えっ?」
「アタシの名前ね?」
視線は自分の手を眺めたままだ。
「あ、菱田、です」
つい自分も名乗ってしまう菱田。
「それじゃ、とっととやっちゃいますか…ダルいんで」
遙は視線を菱田に向けた。
男は階段を降り終えて京介の前に立つ。
「俺はサイキ、よろしくなあ兄さん」
「任意京介だ」
「ニンイ、ね、了解ィ」
サイキはぶんぶんと右腕を回す。
「能力バトルする前によ、ちょっとだけ普通にケンカしねぇか? あんた素でも結構やりそうだ」
と、ファイティングポーズを取る。
(肉体強化系って訳ではないのかな)
京介はそう考えると、無言でファイティングポーズを取った。
了解の合図である。
「話せるな」
サイキは嬉しそうに言うと、トントンとステップを踏んで間合いをつめてきた。
「フッ!」
息とともに出された右のパンチを、京介は見切った。
身体能力を増幅していない状態だが、京介には相手の攻撃が見えていた。
(とんでもない敵とやりあってるうちに…)
「目が慣れちまったのかな!」
すり抜けてサイキの右わき腹にパンチを叩き込んだ。
「げっ!?」
サイキは呻くと数歩後ずさる。
そして気を入れなおすと、京介の頭に目掛けて蹴りを放った。
京介は両手でガードしてそれを受け止める。
衝撃で上半身がのけぞる。
(パワーの違いはどうにもなんないか…)
体格差は圧倒的だ。
(でもまあ)
続いて来たパンチを避けると、その腕を掴み引っ張る。
サイキは体勢を崩して前につんのめる。
そこに足をかけてサイキを倒すと、そこから腕をねじりあげた。
「いたたたた!」
「あんたくらいのチンピラとのタイマンなら、負ける気はしないな」
3人くらいになるとどうにもならないが。
「このまま降参してくれると助かるんだけどな」
「…まさかだろ!」
サイキの言葉とともに京介の腕の自由が奪われた。
(うっ…!?)
抵抗するが見えない力でサイキの腕を掴んでいた京介の手が引き剥がされる。
「じゃあ本線の能力バトルと行こうか」
サイキは痛めた腕を振りながら言った。
「…随分超能力らしい超能力じゃないか」
「俺の仲間は超能力ベスト3、って感じの揃ってるぜ」
サイキは手の平を京介に向けると全身の筋肉に力を入れた。
京介の全身の自由が奪われると、そのまま宙に浮かぶ。
「念動力ってヤツか…!」
京介は抗おうとするが体は反応しない。
「ここから俺がちょっと力を入れると…」
サイキは少しだけ京介に向けた手の指を動かす。
京介の全身にあらゆる方向から圧力がかかる。
「けはっ…!」
胸が押し付けられて息が出来ない。
「このまま降参してくれると助かるんだけどな」
サイキは先ほど京介が言った言葉をそのまま京介に向けて言った。
「ぐっ…」
京介は目を見開くと、全身に力を走らせた。
「らあっ!」
そのまま全力で増幅させると、力任せにサイキの呪縛を破った。
京介に向けたサイキの腕が弾かれる。
「なっ!?」
「…まさかだろ?」
地面に叩きつけられた京介はふらふらと立ち上がりながら、先ほどサイキが返した言葉を口にした。
「…力づくで俺の能力から抜けたって!?」
サイキが信じられないというトーンで叫ぶ。
「今の俺はダンプカーよりつええぜ!」
自分で言った後に何だかよくわからない台詞だなと京介は思った。
ともあれ、そう何度も使える脱出法ではない。
サイキも全力ではなかったようだし、瞬間全力増幅なんて何度もやっていては体が持たない。
もう一度捕まったら勝ち目はない。
京介は脚力を増幅させた。
菱田は瞬間移動で攻撃してくる伊道遙の攻撃を硬質化でやり過ごしていた。
どこから攻撃してくるのか分からないが、本体自体は非力な女子高生だ。
ただしこちらは動けない。
(…どうしたもんかなあ)
瞬間移動して鉄パイプで後頭部を殴りつけた遥の攻撃を、防御もせずに弾いて菱田は考える。
相手の攻撃は効かないが、こちらからどう行動したものか。
そしてやはりどうも女性に危害を加えるのは気が引ける部分がある。
「あーもう何コレ、まじむかつく!」
遥はらちがあかないと思ったのか、姿を現すと、持っていた鉄パイプを投げ捨てた。
「…よければ、もうやめにしないか?」
「ハァ? 何勝った気になってんのよ」
遥は苛立ちげに言い放つ。
「…いやそんな」
「そうだなー…これならどーかな?」
遥は鞄の中からスタンガンを取り出した。
「確か鉄って電気通すよね」
スイッチを押して放電する音が響いた。
「どうなんのかな?」
遥は笑みを浮かべた。
背筋が凍る。
コスモは謎の感覚に襲われていた。
誰かに見られているような、寒いような暑いような。
そして何だか体が思い。
「それなりに、体感してらっしゃるようですね…」
コスモの様子を黙って見ていた藍子がクスリと笑った。
「ワタシニ、ナニヲ、シタノデスカ?」
「私は何もしておりません。お願いしただけです」
「オネガイ?」
ビッ。
突然ガラスの破片が飛んできてコスモの腕を切りつけた。
「…?」
コスモの腕から緑色の血が流れる。
「…オカシイ、チキュウデハトブハズノナイモノガトンデイル」
人の気配はない。
コスモは辺りを見回し、藍子を見るが、藍子は手を後ろに組んでこちらを見ているだけだ。
そして廊下に飾られていた像や絵画などが動き出し、浮いた。
「逃げられませんよ?」
「ハンジュウリョクソウチハ…?」
それらしきものはない。
コスモは自分が使っている宇宙船の反重力装置を思い出した。
が、この星にそんなものは存在しない事は知っている。
「キョウミブカイ」
宇宙人視点からそう言葉が出てきた。
が、とりあえずこの場を何とか抜けないといけないと思い直した。




