表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/39

第39話 でも、みんな無事だよね?

 黒い煙が、空へ昇っていた。

 市場の喧騒が、一気にざわつきへ変わる。


「また魔獣か……!?」


「避難しろ!」


 人々が慌てて動き始める。

 アステリアは、表情を引き締めた。


「アル!」


「分かってる」


 アルディウスが、静かに頷く。

 二人は迷いなく、煙の方へ駆け出した。

 レオン達も、その後を追う。


「これ、記録なんだよな……?」


 走りながら、レオンが低く呟く。


「妙に生々しいな」


 ルーメリアも、苦しそうに胸元を押さえていた。

 感情が流れ込んでくる。


 恐怖。

 焦り。

 祈り。

 人々の感情が、嫌になるほど伝わってくる。


 やがて。

 広場へ辿り着いた。

 そこには。

 黒い侵食獣が居た。

 巨大だった。

 獣の形をしているのに、輪郭が曖昧だ。

 黒い泥みたいに、身体が揺れている。


 周囲には、倒れた人々。

 血。

 悲鳴。


「っ……」


 レオンが息を呑む。

 アステリアは、一瞬だけ苦しそうに目を伏せた。


 でも。

 すぐ前を向く。


「アル、右お願い!」


「……君は?」


「助ける!」


 即答だった。

 アステリアが駆け出す。

 倒れている少女を抱え上げ、侵食獣から引き離す。


「もう大丈夫!」


 笑顔。

 震えていた少女が、少しだけ泣き止む。


 その間にも。

 アルディウスが、静かに前へ出る。

 黒い術式。

 空間が歪む。

 次の瞬間。

 侵食獣の身体が、一気に斬り裂かれた。

 

 レオンが目を見開く。


「……強っ」


 今まで見てきた誰とも違う。

 気付いた時には、侵食獣が崩れ落ちていた。

 アルディウスは、侵食獣を見据えたまま、

 静かに呟く。


「また増えてる……」


 掠れた声。

 アステリアが、少女を避難させながら振り向く。


「後で考えよう!」


「君はいつもそれだ」


「でも、今は助ける方が先!」


 迷いの無い声。

 アルディウスは、小さく目を伏せる。


 その時だった。

 侵食獣が、突然膨れ上がる。


「――っ!」


 黒い魔力が炸裂した。

 周囲の建物が崩れる。

 アステリアが、反射的に人々を庇った。

 白い光が広がる。

 だが。


「アステリア!!」


 アルディウスの顔色が変わる。

 黒い侵食が、アステリアの腕へ絡み付いていた。


「……ぁ」


 アステリアの呼吸が乱れる。

 それでも。

 笑った。


「大丈夫、これくら――」


 言葉が止まる。

 次の瞬間。

 赤い血が、口元から零れ落ちた。

 ルーメリアが目を見開く。

 空気が凍る。


「……え」


 レオンの声が掠れる。

 アルディウスが、一瞬でアステリアへ駆け寄った。


「何をした」


 低い声。

 初めて。

 感情が剥き出しになっていた。

 侵食獣が咆哮する。


 次の瞬間。

 黒い閃光が走った。

 侵食獣の身体が、一瞬で崩壊する。

 静寂。

 レオンが息を呑む。

 速すぎて、何も見えなかった。


 アルディウスは、侵食獣なんて見ていない。

 ただ。

 苦しそうに呼吸を乱すアステリアを、抱き支えていた。


「……ごめん」


 アステリアが、弱々しく笑う。


「ちょっと、失敗した」


「笑い事じゃない」


 震える声だった。

 アステリアは、少し困ったように笑う。


「でも、みんな無事だよね?」


 アルディウスが、何も言えなくなる。


 その顔を見た瞬間。

 ルーメリアの胸が、酷く痛んだ。

 分かってしまう。

 この人は。

 アステリアを失うのが、怖いのだと。

 その時。

 アステリアの腕へ絡んだ黒い侵食が、

 僅かに脈動した。

 カイトの灰色の瞳が、静かに細められる。


「……始まってるな」


 低い呟き。

 誰にも聞こえないほど、

 小さな声だった。



読んで頂き、ありがとうございます。

もし少しでも続きを読みたいと思って頂けたら、

フォローや評価を頂けると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ