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22)聖女の歌


本日は2話同時に投稿いたしました。こちらは2話目です。








 王都への短い旅はなにごともなく済んだ。

 森を出て最初の町に到着すると、ユージンはラズデア王国国王陛下への書簡をしたためた。騎士団長の副官が準備を調え、書簡のための情報は騎士団長自らが提供した。

 ユージンは国から封蝋と王子としての印璽は持ってきていた。使うことはないだろうと思っていたが、正式な書状を一国の王に送るはめになった。

 魔導師隊四十人ほどの中に暗殺の実行犯がひとり、協力者が三人も入り込んでいた。こんなに要らないだろうと思うほどだ。

 協力者の三人のうち、ひとりは死んでいるが、残りのふたりは逃げた。ふたりのうちひとりは、ユージンとアロイスのテントを危険な森の際に誘導させたあの魔導士隊隊長の侍従だった。

 それらの情報は王都での取り調べの結果が森にいる騎士団長宛てに送られてきていたのでユージンも知っている。

 いくらなんでもひどい。団長との約束がなくとも一言くらい問い合わせておかないとマディーヌ王国の体面の問題もある。

 騎士団長は嬉々としてユージンの記した書簡を早馬で間違いなく届けさせる手配をしてくれた。

 そんな手間が少々かかったが、騎士団や他の仲間たちとともにユージンとアロイス、アシュ、レナ、マレーネの五人は街道を駆け抜け五日で王都に着いた。

 スカーフを渡すためにレナとアシュはユージンたちの滞在先である男爵家の離れを訪れた。

 ユージンの母方の親族で、マディーヌ王国の子爵家からユージンの保護を頼まれている家だ。

 広い離れにマレーネもちゃっかり一緒に泊めてもらっていた。どうやらマレーネは、アシュから離れる気はなさそうだ。


 レナは持ってきていた染料を使って、御守りの秘密をさらに隠せる方法を試してみることにした。

 今のところ使うのはリーリムル語か漢字のみで、文字をかなり崩して描いている。それでも問題なく使えた。

 今回は、レナの手の届かないところに行ってしまう危険を考慮し、アシュが「前世の文字にしとけ」と忠言してくれた。それで、漢字を使うことにした。

「鑑定」対策だ。鑑定されたときに、漢字なら「正体不明」と出るかもしれないからだ。実際は、鑑定の精度によるのでなんともいえない。

 漢字を、いつもよりさらに文字を崩して書いてみることにした。幼児の悪戯書きにしか見えないほど崩したり略して書いた。

 その上にカモフラージュとなる刺繍を刺した。

 テストしてみたところ、御守りの効果はこれまでと変わりなかった。御守りを作る腕が上がっているからか、以前よりも魔力を込めるのも滑らかにできている。

 崩して文字を書いても、元の文字の形を思い描きながらうまく魔力を染み込ませられた。

 さらに何枚か御守りの生地を作ると次は刺繍だ。

 刺繍はお手の物だ。なにしろ、前世から得意だ。今世のレナは指先まで身体強化できる。

 マディーヌ王国の王子ふたりに渡す分はマディーヌ王国の国花を刺した。凝った刺繍はさすがに出来なかったが着飾るためのものでもない。

「これなら、ぜったい大丈夫だわ」

 自画自賛したくなるで出来映えだ。

 張り切ってスカーフを仕上げていった。

 六枚でき上がるとユージンたちのところへ持って行った。

 アロイスとユージンの身につけていたスカーフを見せてもらうと、だいぶ色あせている。

 トールコダンの森で毎日狩りに勤しんだのだから無理もない。その代わりひとつの怪我もなく済んだのだ。

 レナはスカーフを見ながら「けっこう魔力が抜けてますね」と宙で燃やした。

「まだ使えると思っていたんだが」

 ユージンが惜しそうな顔をしている。

 アロイスも微妙な表情だ。

「新しいできたてほやほやのがありますから、これを使って。あと、こちらは、毒除けの呪いを籠めてみましたので、マディーヌ王国の王子たちに」

 レナは二枚のスカーフをユージンたちに、残り四枚は王太子たち用として手渡した。

「そんな効果のものも作れるんですか」

 アロイスは目を剥いた。

「レナ、それでは、『解毒』効果を持つものも作れないか」

 ユージンは興奮した様子で、期待を込めた目でレナを見詰めている。

「作れる、とは思いますが。陛下のためですか?」

「ああ、そうなんだ」

「特殊な毒ですよね?」

「解毒剤は見つからなかった」

「御守りの『解毒』が効いてくれるかしら。陛下は弱ってらっしゃるのよね?」

「ああ、毒を飲まされて長いのでね。もう二か月にはなるか」

 ユージンが確かめるようにアロイスに視線を寄越すと、

「ええ、なりますね」

 とアロイスが頷く。

「そんなに長く苦しんでいらっしゃるの」

「意識は朦朧としているか、昏睡しているか、どちらかなので、苦しまれている時間は少ないがね」

「段階を踏んだほうが良いのでは? いきなり強力な解毒でいいのかしら」

 レナは考えるほどに不安が募った。

「それはそうか」

 ユージンも考え込む。

「治癒師ならなにか忠言してくれないか」

 アシュが横から声をかけた。

「迂闊には訊けない状況なんだ。それに、レナの御守りは極秘にしたい。『毒除け』でご様子を診て、それから『解毒』を使ってみよう」

 ユージンは迷いながらも決めた様子だ。

「使ってみた経験から言うと、患部から離したところに間接的に当てると効果がやんわりするというか、じわじわ効く感じになる」

 アシュが教えると「なるほど」とユージンはさらに悩み「私が付き切りでご様子を診ながら使おう」と頷いている。

「本当ならレナに来て貰えれば良いが、安全上、それは避けたい。だから、ここで貰っておいて、謝礼も渡したいんだ」

「そ、そうね」

 レナはさすがに暗殺組織の暗躍するただ中に乗り込む勇気はなかった。隣ではアシュも険しい顔だ。

「『解毒』と『毒除け』を多めに作ってもらえないだろうか」

「了解です。私も陛下をお助けしたいので」

 葉月のお父様なのだから、とレナは心中で思う。それに、毒鼬と戦った王を助けたい。

「この恩は一生忘れない。これを」

 ユージンは懐から目も覚めるような青に輝く宝石のブローチを取り出した。

「あ、の、これは、さすがに」

 死んだ実母も宝石は好きだったが、こんな巨大な石は持っていなかった。金の細工も美しく、宝飾品の審美眼など持ち合わせていないレナでも見事なものだとわかる。血の気が引きそうになった。

 おまけに、台座の意匠は王家の紋章ではないか。

「足りないと思うが、今はこれしかない」

「足りすぎですけどね、幾らなんでも、貴重品すぎますから」

 レナは御守りの対価は無償とは思っていなかった。そんな裕福な身ではないし、レナの労働を抜きにしてもそれなりに材料費はかかっている。

 それでも、こんな王家の紋章が刻まれたお宝など、もらっても困る。なくしたらどうすればいいんだ。

「いや、レナは自分の才能をわかっていない」

「でも、お礼をいただくとしても、陛下が助かってから考えればいいことで」

「もちろん、そのときにはまた謝礼を考えている」

 ふたりで言い合いをしていると、アロイスとアシュが深々とため息を吐いた。

「もうちょっと、丁度良いものはないんですかね」

 アシュがアロイスにこそこそと尋ねた。

「とりあえず、あれを頂いておいてもらえませんか」

「困るな」

 困るとしか言い様がない。

「お気持ちはわかりますが」

 アロイスはブローチがとんでもない貴重品であることは知っている。けれど、レナの御守りがユージンの命を救ったことも知っている。あの暗殺者の記憶映像を見た限りでも、ユージンはレナの御守りがなかったら死んでいた。

 ユージンの命に代わるものなどない。

 トールコダンの森では、レナの御守りに守られながら魔獣の討伐任務をし、アロイスはその効果を自分の身で検証している。

 彼女の解毒の御守りがあれば、陛下は助かるかもしれない。

 救国の呪術師に渡す対価としては、むしろ不足だ。

「今はあれしかないので、のちに金貨か城でもお渡しできる状況になるまで、あれで我慢していただけませんか」

「感覚が庶民とかけ離れすぎてませんかね」

 アシュは疲れてきたので、とりあえず預かっておこうか、と妥協し始めていた。


 部屋が微妙な雰囲気に包まれた、丁度そのとき。

 扉をノックする音が響いた。

 アロイスが対応すると屋敷の執事が姿を見せた。

「エステル・レドリフ様とコレット・ベリエ様がお見えでらっしゃいます」

「レドリフ嬢が?」

 ユージンが不可解そうに眉をひそめる。

「先触れをする余裕がなかったそうですので、ご都合が悪ければ出直しますと仰っています」

 執事が言葉を続ける。

 あの凜とした侯爵令嬢がいったいなんの用だろうと思いながら、レナとアシュは慌てて席を立った。

「すまない」

 とユージンが眉をへにょりと下げているので、レナは微笑みながら「いいえ、丁度お話も終わりですし」とアシュと連れだって客間に移動した。

 ユージンが執事に「お通ししてくれ」と答えている声が、ドアを閉じる前に聞こえた。

「なんだろな」

 アシュも首を傾げている。

「暗殺未遂事件絡みよね、きっと」

「だな」

 そんな話をしながら、レナが殿下たちに渡す御守りの準備をしていると、マレーネが帰ってきた。

 マレーネは、今朝は「用事を済ませてくる」と出掛けていた。


「あの魔導士隊の隊長は、どうやら、ただの更迭では済まないみたいです」

 マレーネが珍しく平坦な顔をして情報を持ってきた。

 アシュといるのにご機嫌でない顔など初めてだろう。

「へぇ、けっこう殿下の書簡が効いたんだな」

 引き比べて、アシュは楽しげだ。

「まだ推測の段階ですけど、王宮務めの友人からのけっこう当てになる情報ですから単なる噂よりも精度は高いですよ」

「なるほど、さすが元騎士殿だな」

「単なる更迭ではないって? どうなるの? 僻地に飛ばされるとか?」

 レナはわくわくして尋ねた。

「生温い更迭では済まないかも~、とちょっと期待してたんですけどね。マディーヌ王国の王家から抗議が来ちゃったんですから」

「文面は問合せだったみたいだけど?」

「それはねぇー、文面はどうであっても、隣国からの『問合せ』よ? しかも、暗殺要員が山ほど入り込んでいたというトンデモない有様への問合せ。そんなものに、まともに答えられる?」

「うーん、難しいかも?」

「でしょ? うっかり間違えました、とも言えないし。わざとです、とも言えないし」

「そりゃ、言えないわ」

「外患誘致罪に問われるかも、ですって」

 マレーネが声を潜める。

「えぇ、ホントに? だって、外患誘致罪って」

 極刑よね? とマレーネにこっそりと尋ねるとマレーネは「そうよ」と頷いた。

「なるほどな。確かにひどすぎたからな。戦争になりかねない失態だった」

 アシュが眉間に皺を寄せた。

「マディーヌ王国と戦争なんて冗談じゃないわよね。ボロ負けに決まっているもの。そうなったら、王族たちはそれこそ悲惨でしょう。陛下は憤怒したって」

「そうかもな」

「そんなわけで、あの魔導士長は外患誘致罪で始末されそうみたい」

 マレーネは肩をすくめた。

「あいつには相応しいぜ。まだ決まったわけじゃないんだろうけどな」

「今度ばかりは勘弁してもらえないことは確実みたいよ」

「いいことよ! あのひとの被害者はいっぱいいそうだもの」

「そうだな」

「続報はまた今度、ということで。あとね、王都で聖女のあの歌が流行ってるみたいよ」

 とマレーネは話題を変えた。

「あの歌?」

「変な聖女が祝詞の代わりに歌っていた歌」

「ああ、あれ」

 カラオケのことか、とレナは思い出した。

 祝詞だと思うと変だが、ふつうに歌だと思えばまた違った感じに聴こえるだろうと思った。

 実のところ、よく聴いていない。それどころではなかったからだ。

「でも、森で歌われたのとは違うみたいだけど」

「そうなの?」

「森では祝詞の歌詞だったでしょ。でも、王都で聖女が歌ってたのはまた違うのね。歌詞が違うから旋律も違うのだけどね、でも、なんか似てるというか」

「ふうん」

 別の「カラオケ」もあるのね、とレナは興味を引かれた。

「どんな歌だ?」

 アシュは森で歌を聴いていないからか、余計に聴いてみたいようだ。

「ええとね、ふたりに教えようと思って、ちょっと覚えてきたの」

 マレーネはその歌を一節、歌ってくれた。

 レナはその聞き覚えのある懐かしい歌に、たった一節で放心状態となった。

「まさか」

 目眩がした。ソファに座っていて良かった。

「そんな」

 レナは呆然と呟いていた。




お読みいただきありがとうございました。

明日も、夜20時に投稿する予定です。

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