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21)任務完了


本日、2話同時に投稿いたしました。こちらは1話目です。







 エステルは、広めの馬車でコレットとふたり王都に向かっていた。

 コレットは気落ちした様子でため息ばかりをついている。

 理由は知っている。ずっと張り切って詠唱の練習をしていたのに、役に立てなかったとコレットは気にしていた。

 エステルは「ねぇ、コレット」と声をかけた。

「騎士と協会隊の精鋭たちが灰雷竜の討伐に行ったとき。私たち、小型魔獣の群れに祝詞の詠唱をしようとしていたでしょう。あのとき、すっかりやる気になってたわよね。でも、あの魔導士隊の隊長が、意味のわからない理由で潰したわ。がっかりしなかった?」

「しましたわ。前の晩から祝詞の詠唱を練習して、やるんだとばかり思ってましたもの」

「そうよね。あのときは、すぐそばに魔獣避けを焚いた野営地がありましたし。魔獣の群れもそれほど大きくなかったんだもの。あのときだったら恐怖で竦まないでできたわよね」

「ええ、そうだわ」

 コレットは思わず頷いた。

「でも邪魔されてできなかったわ。あのとき詠唱してたら自信もついてたのに。それに、小型魔獣の群れも半減してたわ。アリサの詠唱がひどいことにも気づけたでしょうし。そんな機会を潰したのは、無能な魔導士隊の隊長よ」

「その通り、ね」

 コレットは再度、頷いた。もう不敬だのなんだの関係ない気分だった。

 あの隊長は末の王弟だ。母親は男爵家の出だが。それでも王族なので、はた迷惑なことに魔導士隊隊長という重鎮だ。笑わせるな、と思う。偉そうな顔を見る度に野営地に落ちている馬糞を投げつけてやりたかった。

「コレットはなにも悪くないわ。魔獣が大量にいる森で詠唱をするのは難しい仕事だと思うわよ。落ち込む必要ないわ。やり遂げたのよ。ただあまりにも不運だっただけ。妨害が多かっただけよ、ね」

「エステル様」

「もう気にしないほうがいいわ」

「はい」

 コレットはようやく微笑んだ。

 エステルは、副団長の事情聴取ではすべて正直に答えたが、伝えなかったことがあった。

 エステルにとって、トールコダンの森に到着して予想外のことが幾つかあった。

 アリサが来ていたのが、まずはひとつ。

 それから、レドルフ家の寄子である子爵家の令嬢コレット・ベリエが来ることも知らなかった。

 大人しくて臆病な子が魔獣の森に来るなんて、思うわけがない。

 おそらく「時読み」関係だろう、とエステルは勘付いた。

 コレットは、古い時読みの血筋だ。

 エステルがそれを知ったのは数年前。コレットが「あ、あの、レドルフ家の領地の山間部に大雨が降るんです」と、緊張した様子で報せて来たからだ。コレットは「天気を予報するのが得意の知り合いがいて」と下手な言い訳をしていたが、エステルはコレットの「予報」が正確で助かったために調べ、コレットが王家に潰された時読みの血筋だと知った。

 コレットの母方の血筋だ。コレットのベリエ家自体は、エステルの家の寄子だ。

 それ以来、コレットをずっと気に掛けていたし、大人しいコレットが虐めに遭ったときは庇っていた。

 そのうちに、ようやくコレットは打ち明けてくれた。

 コレットの母方の先祖は、時読みの血筋ではあったが庶子で、本家から離れていたので殺されずに済んだ。

 当時、時読みの家の者は、王家にとって耳の痛いことを言ったために殺された。

 コレットが亡き祖母に「血筋のことは秘密にするよう言われた」と言うので、エステルも秘密にしている。

 時読みの家系の者には幾つもの決まりがあった。「不確かなことは言わない」「確かな予知で、災厄を逃れる手立てのあるものは告げなければならない」「逃れられない、防げない災厄は、秘匿する」など、決まりを守らなければ時読みの力を失うらしい。

 そのうえ、コレットは、自分が時読みであることをひとに言えない。

 さらにおまけに、コレットは修行中の身で、時読みの力はお粗末らしい。

 コレットがはっきり読み取れるのは、身近なことだ。

 近い未来に起こる大きな出来事。自分と自分の家族に関わること、それならわかる。

 ゆえに、遠い未来の、遠い出来事はわからない。

 隣国の王子の暗殺は、身近なことだろうか。身近とは違うのではないか。

 さて、コレットは何を予知してこんな森まで来たのかしら? とエステルがコレットのほうを見ると、コレットは物憂げにため息を吐いたところだった。


□□□


 その頃。

 トールコダンの森では、ユージンが機嫌良く剣を振るっていた。

 傍らにはアシュとアロイス。

 すぐ後ろには、レナとマレーネがいる。

 五人は一緒の班で魔獣の討伐をしていた。


 ユージンが見たところ、マレーネとアシュは気が合うらしい。アシュは素っ気ないが、マレーネはいそいそとアシュにまといついている。マレーネの凜々しい姿にはそぐわないほど乙女な様子だ。

 レナとユージンたちは生暖かく見守っている。

 ときおり、狩りの最中にアシュがマレーネを庇うように立ち回ると、マレーネは頬を染めてアシュを見詰めている。

 実にわかりやすい。そういうことには疎いユージンにもよくわかる。

 そうアロイスに話すと「あなたもわかりやすいですよ」と呆れた口調で言われた。


 拠点に戻り、昼食担当が用意してくれた料理を手に丸太のベンチに座った。

 レナは塩を振って焼いただけの肉に、香味をパラリと足した。料理係のひとに悪いな、とは思うがひと味違う美味しさになる。

「レナの持ってきた香味は良い匂いがするね」

 ユージンもお裾分けしてもらったがなかなか美味い。

「この香味の粉は手作りなの。裏庭で育てている香味野菜を刻んで干して肉に振りかけると風味が合うのよね。騎士団のお料理係にも負けないでしょ」

「住まいの裏庭に畑があるのかい」

「あるわ、小さいけど。周りが森で、雑草の種が畑に侵入してくるからいつも雑草との戦いなの。でも、良い薬草や香味野菜を選んで育ててるから、サウラの町で高値で売れるのよ」

「レナとアシュはサウラの町で暮らしてるのかい」

「町ではないわ。森よ」

「ゴタゴタがすべて済んで安全になっだら、私が訪ねて行ってもいいかな?」

「なにもないところよ」

「君がいる」

「す、すごい口説き文句」

 レナは呆気にとられ、じわじわと頬を朱に染めた。

「ハハ。国の問題が解決したら、旅行に行きたいと思っていたんだ。行っても良い? 畑を耕すの手伝うから」

「か、考えておくわ」

 レナは顔が熱く挙動不審になりそうだった。

 アシュが肉を頬張りながら、

「姪を口説いている不届き者がいるらしいな」

 と顔をしかめた。

「わ、私も遊びに行っていいですか」

 マレーネがキラキラした目でアシュを見詰めている。

「面白いものなんて、なにもないところなんだが」

「アシュさんがいますわ」

「俺は面白いかい」

 こんな魔獣の森の中だというのにほのぼのとしてるな。と、アロイスはひとり寂しく食事を平らげていた。


 一週間が過ぎ、ようやく騎士団と協会との合同討伐作戦は終了した。

「明日は予定通り、王都に帰還する」

 その日の夜、副団長から連絡があった。

 夕食前、広場に騎士団と協会隊が集められていた。

 すでに、数日前に団長から討伐終了の予定が発表されており、帰還準備が進んでいた。


 騎士団は王都帰還までが任務なので、明日の朝、見張りを残して一斉に王都へ向かう。

 一方、協会隊は現地解散なので、明日から自由行動だ。

 魔獣の森で狩りをして帰るパーティもあるようだが、だいたいはそれぞれの拠点を目指して勝手に帰る。

 朝会が終わると、レナとアシュは団長から、

「暗殺者の調査に協力して欲しいと王宮から言ってきているが、どうする?」

 と尋ねられた。

 協力要請は、あくまで「お願い」なので断ることもできるという。

「予定が入っているのでお断りしておいてください」

 アシュは速攻で答えた。

 のちにアシュのテントでレナは「あれ断っちゃって良かったの?」と、こそこそと尋ねた。

 同じテント内にはユージンとアロイスもいる。レナのテントはもちろん別だが、アシュは叔父と知られているので、テントの入り口でレナが立ち話ししている姿はもう皆、見慣れていた。

 ユージンたちは王宮からの要請の件は知っていた。

「レナたちは単に暗殺者の調べを手伝っただけだ。仕入れられた情報はすべて団長たちが把握している。協力する必要はないだろう」

 ユージンは防音の魔導具を発動させると気難しい顔で答え、アロイスも隣で頷いている。

 アシュも賛同するように一緒に頷いていた。

「団長が『どうする?』って聞いてきただろ。『断ることもできる』とか言ってたしな。断った方が良いような言い方だった」

「うん、まぁ『断る』のがお奨めみたいな言い方ではあったけど。引き受けたら、どんな不愉快なことがあったのかしら?」

「騎士団長たちは腹を立てていたからな。だから、きっと王宮側に素っ気なかったんだろ。それで、俺たちからなにか聞き出そうとしてたんだと思う」

「断って良かったわ」

 レナは胸をなで下ろした。

「帰りはどこまで一緒にいられるんですか」

 ユージンが尋ね、アシュが答えた。

「フィーリスに頼まれてるから王都までは一緒に行きますよ。俺たちは狩りの仲間だったし。護衛の足しくらいにはなる」

「足しどころか心強い。でも、巻き込んでしまうのは本意ではありません」

 ユージンは悩ましげだ。

「乗りかかった船です」

「できれば、兄たちのためにレナ嬢のスカーフをいただけるとありがたいのですが」

 ユージンは言い難そうだった。レナの御守りが特殊であることを考えると安易に頼めないだろう。

 彼に渡せば、スカーフはレナの手から遠く離れてしまう。

 でも実のところ、レナはアロイスとユージンに関してはあまり心配していない。ふたりは誠実に管理してくれると思う。

 アロイスたちはレナとアシュに感謝してくれている。恩を仇で返すふたりではない。

「兄上たちのことは信用することにしたんですね?」

 アシュが尋ねた。

「いえ、確かめてからになります。ですが、噂はもう気にせずに、アロイスの人脈を使って調べようと思っています。そのうえで、使わせてもらいます」

 ユージンが答えると、アロイスが一瞬、嫌そうな顔になった。主が護衛の人脈を頼ると言えば、王子自身にはろくな人脈がないと暴露しているようなものだ。

「わかりました。王都に戻ってからご相談させてください」

 レナが答えると、ユージンが申し訳なさそうに頷いた。

「そうしてくれたら嬉しい。レナたちの安全には必ず配慮する」

 誠実な彼の声。でも、どこか切なげな声。

 そんな風に感じるのは考えすぎだろうか。

 前世の葉月の面影が、どうしても似ていないはずの王子に重なった。



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