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5話 小さな命


 ふわふわの白い毛並み、丸みのある小さな耳、胴長で短い手足、とろんと潤んだ赤色の瞳。


 小さな鉄製の檻の中に入れられていた生き物は、イタチとよく似た姿をしていた。


(か、可愛いわ!)


 アマリエは、キュン死にしそうになった。


「これは、ノースファルドで保護された鎌鼬(かまいたち)です」


 ギルド職員が、簡潔に答えた。


鎌鼬(かまいたち)?」


 アマリエは、聞きなれない魔獣の名に首を傾げる。


「はい。風の刃の攻撃を得意とする東洋に住む魔獣です。どうやら密猟されて、ここへ流れ着いた個体らしく」


「…そうですか」


 アマリエは、不用意に檻の隙間から指先を伸ばした。

 鎌鼬は、ひどく怯えきっていて、アマリエの手から逃げるように檻の奥へ後退った。


「これはまだ子供です。……母親の個体は、先ほど死亡しました」


 ギルド職員は、憐れみの一欠けらもなく冷たく言い放った。

 その冷たい態度に、アマリエは言いようもない(かな)しさを覚えた。


 たとえ人に害を成す存在である魔獣でも、今は母親を亡くしたばかりの小さな子供であることに、変わりはない。

 すべての魔獣が、必ずしも人間を襲うわけではなく、この魔獣にしてみれば――欲にまみれた人間のせいで母親を失ったのだ。


 人間の欲によって人生を狂わされた存在。

 それは、姉に理不尽に殺されかかった自分と重なって見えた。


「これも、怪我はしていますが、どうしますか?」


「そうね。…って、マリエさん?」


 鑑定士は、アマリエに声をかけた。

 

 アマリエが勝手に檻の扉を開けて、鎌鼬に手を差し出していたのだ。


「怖かったわね…もう大丈夫よ」


 アマリエは、優しい声色(こわね)で語りかけた。

 

 鎌鼬は檻に身を寄せながら、アマリエの手から必死に逃れようとしている。

 威嚇(いかく)もできずに、ただただ怯えきった様子に、アマリエの心はさらに傷んだ。


「ちょっと、ごめんね」


 アマリエは無理やり、鎌鼬の胴を掴んで自分のもとへ引き寄せた。

 鎌鼬の腹部の柔らかな毛には、血がついており、掻きわけてみると深い傷があった。


(全回復(オールヒール))


 鎌鼬の傷口に手をかざし、心の中で詠唱する。

 すると、傷は一瞬で癒えた。


 瞬く間の出来事に――鑑定士もギルド職員も目を丸くする。


「さ、さっきのは?」


「? 全回復(オールヒール)ですが…」


「上級治癒魔法…!」


「それも…無詠唱で…」


 鑑定士とギルド職員の驚きの声に引き寄せられたように、人がぞろぞろと集まってきた。




   ◇ ◇ ◇




 鎌鼬(かまいたち)の治療を無事に終え、アマリエと鑑定士は最初の部屋に戻った。


「ちょっと待っててください」


 鑑定士に促されて、アマリエは胸元に鎌鼬(かまいたち)を抱きかかえながら椅子に座った。

 鎌鼬は大人しくアマリエの腕に収まり、頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。

 

 ――ギルド職員に懇願(こんがん)し、アマリエはこの鎌鼬を引き取ることに決めた。


「こちらが、鑑定結果になります。これを受付に提出してください」


「わかりました」


 アマリエは書類を受け取り、椅子から立ち上がった。


「あ、その子ですが…魔獣なので飼うには正規の手続きをしてください。それと【服従の(かせ)】が必要になります」


「そうなんですね!ありがとうございます」


 鑑定士に礼を言い、アマリエは部屋を後にした。



   ◇ ◇ ◇



「マリエさん、鑑定お疲れ様です」


 ロビーに戻ると、受付嬢がにこやかに労いの言葉をかけた。


「では、タグをここへ差し込んでください」


 受付嬢が水晶を差し出す。

 アマリエは台座の切り込み部分に、タグを差し込んだ。

 すると水晶はゆっくりと光り出し、すぐにタグを吐き出す。

 手に取って見てみると、タグの階級石(ランクストーン)が無色から銀色(シルバー)に変わっていた。



「鑑定結果からマリエさんの初期のランクは、Aランクからのスタートとなります。

一定の活動がないとランクは下がってしまうのでご注意を。

――それでは、良き冒険者ライフを!」


 こうして、アマリエは予想外の形で『冒険者』として、一歩踏み出したのだった。


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