4話 結果
「測定不可」
無機質な声が、淡々と告げた。
「……え?」
アマリエは、何が起きたのか理解できず、ただ唖然と立ち尽くす。
「ちょっと待っててください!」
鑑定士は血相を変え、部下たちの元へ駆け寄った。
「測定不可なんて…どういうこと?」
「機材に異常はありませんが…」
「一時的な誤作動では?」
鑑定士たちの声が重なり、場がざわつく。
――ひょっとすると大事なのでは?
アマリエは、思わずざわつく胸を抑えた。
しばらくして、鑑定士が険しい顔のまま戻ってきた。
「マリエさん、もう一度、魔力を送ってもらっていいですか?」
「は、はい」
言われるまま、アマリエは再び石板に魔力を流し込んだ。
「測定不可」
「測定不可」
「測定不可」
機械的な音声が、何度も同じ結果を返す。
「ど、どうして……?」
鑑定士の顔から、明らかに余裕が消えていた。
(やっぱり…神力のせい?)
アマリエは、直感していた。
自分には、魔力とは別に、神から貸し与えられた【神力】がある。
それを持つのは、聖女と呼ばれる者だけ。
測定が正常に行われない理由として、思い当たるのはそれしかなかった。
(でも…そんなこと言えるわけもないし…)
「と、とにかく! 別の方法を試してみましょう!」
鑑定士は無理やり明るく言い、アマリエを促して部屋を出る。
(……よかったわ。他にも方法があるのね…)
ほっと胸を撫で下ろした、その直後。
「………」
案内された先には、畑にでも立っていそうな藁の案山子が一本、ぽつんと立っていた。
――どこの農村ですか?
思わず、そんなことを言いたくなる光景だった。
「えっと…」
アマリエは、思わず鑑定士の顔を見た。
「マリエさんが、使える最上級の“攻撃魔法”を、この案山子に当ててください!」
「……え?」
聞き間違いか?と、鑑定士の顔を見る。
「最大魔法の“レベル値”で、おおよその魔力量を判断します」
(ア、アバウトすぎる……!)
整った鑑定設備から、一気に原始的な方法へ逆戻りするとは思わなかった。
魔法には、大きく分けて、初級、中級、上級の三段階ある。
当然、レベルが上がるほど消費する魔力も増える。
例えば、火の属性なら、初級魔法『火球』は消費魔力は少なく、上級魔法『業火』ともなれば、消費する魔力は段違いだ。
鑑定具が普及していない時代には、こうした“使える魔法の格”で魔力量を測っていたらしい。
「あの…すみません」
アマリエは、おずおずと手を上げた。
「はい、マリエさん。どうしました?」
鑑定士が、教師のような調子で促す。
「私…攻撃魔法は…その…一切使えません」
「………え」
鑑定士は、完全に固まった。
「…治癒魔法しか使えないんです」
「光魔法でも攻撃魔法はありますが…本当に、一つも?」
「……はい。すみません」
アマリエをまじまじと見つめた後、鑑定士は我に返ったように頭を下げた。
「あっ、失礼しました。驚いてしまって」
「いえ。…普通は、初歩ぐらい覚えますから」
アマリエは、気にした様子もなく答える。
聖女の教えには、『人を慈しみ、故意に他者を傷つけてはならない』という信条がある。
そのためアマリエは、あえて攻撃魔法を身につけてなかった。
護身用の魔道具は、持ってはいるが――。
「……魔道具では、正確な魔力測定はできませんね」
「ですよね…」
アマリエは、しょんぼりと肩を落とす。
「案山子に、治癒魔法をかけても無機物なので効果が出ませんし……困ったわね」
二人が黙り込んだ、その時。
「あの…」
これまで沈黙していた男性鑑定士が、控えめに口を開いた。
「先ほど、怪我した魔獣を捕えたと聞きました。その魔獣の治癒をしてもらい、回復量で判断するのはどうですか?」
「それは、いいアイディアね!!」
鑑定士は、ぱっと顔を輝かせた。
「すぐに係の者に確認して!」
パチンと指を鳴らし、指示を飛ばす。
「はい!」
男性鑑定士は元気よく返事をすると、勢いよく部屋を飛び出していった。
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