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変わり映えのない平日が終わり、ロケテストの日がやってきた。
ロケテスト当日、休日にしては珍しく早く起きて準備をしているとチャイムが鳴った。
「ちょっと待っててくれ!すぐ行くから!」
急かされるように高速で準備を終わらせて玄関へ急ぐ。
さっきからチャイムが5回ほど鳴らされている。そんなに押さなくてもいいだろう・・・。
ドアを開くと、綾香が6回目の呼び出し音を奏でようとしているところだった。
「もぉ~、遅いよ慧斗!」
「いやいや!そっちが来るの早すぎるんだって!」
「それは、だって・・・楽しみだったから・・・」
そんなにロケテストを楽しみにしていたのか・・・。
そこまでゲームに関心がないんだと思っていたので意外だが、楽しみにしてくれていたのならそれに越したことはないだろう。
「へぇ、そんなに楽しみだったのか、ロケテスト」
「うん・・・って、ん?」
「いやぁ、ゲームにそこまで興味持ってくれるとは思ってなかったからちょっと感動してるよ。さ、行こっか!」
「や、ちょ、そうじゃなくて!・・・もー・・・」
後ろの方で綾香がぼやいていたがよく聞こえなかった。
─────────────
途中のコンビニで軽く朝食を済ませつつ、バスを乗り継ぐこと数十分、目的地のビルに辿り着いた。
やけに人気が少ないが、「会場はこちら」と書かれた看板が立っているのでここで間違いないだろう。
自動ドアを抜け、少し進むと社員らしき男が立っていた。
その人物はこちらに気付くと声をかけてきた。
「お待ちしておりました、アンドウケイト様。と、そちらは?」
「私、伊藤綾香っていいます」
「俺の友達なんです。ロケテに一緒に参加出来たらなって思ってたんですけど・・・ダメですかね?」
社員A(仮)は綾香をじっと見つめ、少し考えたのちに
「ええ、問題ありませんよ。イトウアヤカ様ですね、登録しておきます」
いいんだ・・・。まぁ問題ないならOKだろう。
「申し遅れました、私は今回の担当オペレーターを務めます、カトウと申します。よろしくお願いします。それでは早速ですがついてきてください」
カトウと名乗ったその男は俺たちを先導してビルの中を進んでいく。
途中のドアはすべて閉まっており、他に社員がいるのかは分からなかった。
少なくとも、ロケテストを行うであろう部屋に着くまでの間にすれ違ったものはいなかった。
「こちらになります。お入りください」
ドアが開く。部屋の中には人が一人入るくらいの大きな丸い形の機械が5台ほど設置されていた。
これが筐体なのだろう。そう思うといっそう高揚感が増してきた。
「後部のボタンを押すとハッチが開きます。中のシートに座ったら扉が閉まります。後は画面の指示に従ってください」
そう言いながらカトウさんが球体の後ろにあるボタンを押すと、球体の一部が上にスライドして内部の操縦席が露わになった。
「すげぇ!アニメとかでよく見るやつだ!」
すっかりテンションが上がってしまった俺は我先にと操縦席に乗り込みシートに腰を下ろす。
するとシートが動き、座るのが苦にならない角度に調整される。
続いて、上がっていたハッチが閉じ始めた。微かな音を立てて入り口は完全に閉じ、一瞬の静寂と暗闇に包まれる。
それも束の間、キィィィンという音とともに周囲のモニターが点灯し、正面に文字が浮かび上がる。
そこに表示されたのは・・・
【ヒトガタ 起動確認】
「"ヒトガタ"・・・?」
これが操作するものの名前だろうか。名前はすぐに消え、砂漠と岩の風景が現れる。
チュートリアルから砂漠地帯とは、なかなかの難易度だ。
操縦桿を握ると画面に操縦方法が表示される。
しかしそれは非常にシンプルなもので、移動方法と手足の動かし方、武装一覧と操縦桿のボタン配置しか載っていなかった。
「おいおい、ステップとかガードとかのボタンは無いのか?」
若干の不安を覚えながらも操作の確認をする。手を上下させたり、少し前後に歩いてみたり。
「次は武器、かな」
レバーを動かし武装を確認する。
といっても所詮はシミュレーション機体といったところか、武装スロットには太刀とライフルのたった二種類しか装備されていなかった。
「太刀って・・・初陣で持たせるような武器か?」
俺はそんな愚痴を口にしながら、腰にマウントしてあったもう一つの武装であるライフルを装備する。
FPSにはそこまで詳しくないが、見たことのあるようなないような形をした銃だった。
銃口を空に向けて引き金を引いた。
ダダダッ!
反動が伝わったようにコックピットが少し振動する。
よく出来ているじゃないか、臨場感が今までのゲームと段違いだ。
ピピッ
通信を伝える音とメッセージが表示される。送信元は「Ayaka」となっている。
操縦桿に付いている通信スイッチをONにすると、モニターの隅に小さく画面が開き綾香が映し出される。
「慧斗~・・・よく分かんないよぉ・・・」
「確かにこのゲームは初心者にはちょっと難しいかもしれないな・・・」
説明少ないし。ソシャゲだったら絶対低評価のレビューが付くんだろうな・・・
気付けば隣には綾香の機体が立っていた。手足が動いていない様子を見るに、操作方法がいまいちわかっていないのだろう。
「とりあえず基本の操作は教えるよ。俺もそれしか分かんないし」
「はい、先生!」
「まずは歩行のやり方からだ!」
まぁ、教えられた操作方法を簡単にして伝えるだけなんだが。
─────────────
十数分後、基本的な操作は覚えてくれたようで、動きも悪くない感じにはなってきた。
この調子なら二人でいる限りは大丈夫だろう。
唐突に警告音が鳴る。
「敵が来ます。準備はできていますか?」
「この声は、カトウさんか?敵って・・・レーダーとかないのか?」
「申し訳ありませんが、目視での会敵になります。私についてきてください」
カトウさんはまたしても俺たちを先導してくれるようだ。
というか、レーダーがないって・・・やっぱりこのゲーム難易度高すぎだろ!
目を凝らして前方を見ると、数機の敵がこちらに向かってきていた。
「数はそこまでじゃない・・・。小隊一つってところか」
あまり操作に慣れたわけではないが、戦闘で困らないレベルにはなったと思う。
俺はカトウさんに続くように、武器を構えつつ前進操作をする。
「綾香!俺から離れないようについてきてくれ!」
「う、うん!」
綾香は少し遅れてついてくる。
後方なら敵に狙われる可能性も低いだろう、そもそも俺が守ればいいだけの話だ。
「接敵します!戦闘が始まりますよ!」
カトウさんの通信を受けて、操縦桿を握る手が少し汗ばんできた気がした。
しかし俺はそれ以上の興奮を隠すことが出来なかった。
「よっしゃ!行くぜ!」
俺はライフルを構えなおし、敵に向かって高速で前進する。
敵もこちらに気付いたようで武器を用意し始める。
しかし先手を取ったのは俺だ。敵集団の中で一番動きが遅かった機体に銃口を向ける。
ダダダダダダダダダダダダッ!
接近中にバーストからフルオートに切り替えたライフルの連射は、狙った機体を確実に捉えていた。
敵機は黒煙を上げ、膝から崩れ落ちた。
「よし、1機撃破!」
敵は3機だった。残りの2機は武器の準備を済ませていた。
ここは一旦下がるべきだろう、合流してから再び攻めるのがセオリーだ。
「といっても、簡単には下がらせてくれないよな・・・っと!」
ダダダダッ!ダダダダッ!
2機からの集中砲火を受けるが、左右に動きながら危ない弾を盾で防いでいく。
だがそれも限界があるだろう。いずれ押し切られて撃墜されかねない。
ふと右腕が腰の太刀に触れる。
「・・・!そうだ、こいつが使えるかもしれない」
俺はライフルをマウントし、入れ替わりで太刀を抜いた。
非常に無骨なデザインだ。逆にかっこいい・・・というのは今は重要ではない。
「逃げさせてくれよっ!」
腰を落とし、地面スレスレに弧を描くように斬撃を放つ。
風圧で大量の砂が舞い上がる。作戦、目くらまし──
なおも砂埃の奥から銃弾が飛んでくるが、狙いはついていない。
どうやら俺の作戦は成功したようだ。
「流石ですね、ケイト様」
いつの間にかカトウさんはここまで来ていた。
綾香はその後方で銃を構えて棒立ちしていた。
「たまたまですよ。それより相手はあと2機です。協力して確実に仕留めましょう」
「ええ、もとよりそのつもりです」
「あ、あの、私、どうしたら」
「綾香はとりあえず止まらずに動いててくれ、無理に撃たなくてもいい」
「わかった、がんばるね」
的になってしまうよりは数倍マシだしな。
「さて、どうしたものか・・・」
会話の間に砂埃は収まり、敵も態勢を整えていた。
「私とケイト様で1機ずつ相手にするのが最適かと考えますが・・・大丈夫でしょうか?」
「ああ、問題ない。それでいこう」
「では私が隊長機を相手取ります。残った1機を頼みます」
「了解した。綾香!回避に集中しとけよ!」
「オッケー!」
「よし、行くぞ!」
掛け声を合図に散開する。
カトウさんが2機の間を狙って射撃。反対方向に回避運動をとった敵機の距離が開いたその瞬間を俺たちは見逃さなかった。
二手に分かれ各機で撃破を狙う。
「こんなのはどうだ!」
左手に持ったライフルで敵機の足元に弾をばら撒く。
再び立ち昇る砂埃。俺はそこに突っ込み右手で太刀を構える。
砂の幕を抜けるともう敵は目前だった。慌てて照準をこちらに合わせるが、もう遅い。
ガィン!
突き出した太刀は装甲を突き破って敵機を貫いた。
機体は少し軋んだ音を立てたのちに、動かなくなった。
「うまくいったな・・・。そうだ、カトウさんは?」
そちらを見やると、鍔迫り合いになっていた。
隊長級ともなると一筋縄ではいかないのだろう。急いで加勢しなければ。
「すぐ向かいます!」
全速力で接近する。ライフルで射撃して牽制すると、後方に飛び退いていった。
「ありがとうございます。一人では足止めが精一杯だったもので」
「十分です!ここからは数の差で押していきましょう!」
再び散開、左右から挟撃する作戦だ。
俺は射撃で回避を誘う。敵が避けた方向からカトウさんの機体が現れ、太刀を振り下ろす。
惜しくも盾に防がれてしまったが、大きく凹ませることが出来た。
あれでは盾はもう使い物にならないだろう。チャンスだ、俺はライフルを構える。
同時に敵もライフルを構えた。しかし銃口が向いているのは俺でもカトウさんでもない。
──その先には綾香の機体がいた。何故かライフルを持ったまま棒立ちしている。
動いとけって言っておいただろう・・・!
敵がトリガーを引く刹那、俺は射線に飛び込みつつ撃ち返す。
ダダダダダ!ダダダッ!
俺の銃撃が敵機の頭部を捉えたのが見えた瞬間、衝撃とともにモニターがブラックアウトした。
「おいおい、いいところで故障かよ・・・」
とりあえずここから出てカトウさんに報告しないとな・・・。
座席の後ろにあったボタンを押すとハッチが音を立てて開き始める。
「・・・え?」
そこにあったのは無機質なビルの一角ではなく、一面の砂漠。
破損したロボットの残骸と俺たちの機体。
──そこにあったのは、ゲームで見ていた光景と同じものだった。
導入部分終了です。ここから始まっていきます。




