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[0f]上の人の証言

 わしの国は海沿いにあり領土も広いベスティア国の国王アルフリード・シール・ベスティアだ。

 領土は確かに広いのだが、困った事に東側にある魔王が封印され魔獣うようよ魔族うようよな、人の住みにくい土地も多いのだ。

 その為、人の住める地は他の国とさほど変わらぬだろうな。

 今から話す事は、わが国で起こった重大事件に不幸にも関わってしまったある男の子の話だの。


「ねぇ父さん、僕もその祭りに参加しなきゃダメなの?」

「当然だろう。レオルも知ってるだろ?この祭りの参加条件は国中の10歳以上の男で、その開催地であるこの町の者は絶対参加で、お前ももう10歳なんだからな」

「でも、僕はどうせ選ばれないし参加するだけ無駄だと思う。それに祭りの間はうちの宿にもお客いっぱいだし忙しいでしょ?宿の手伝いをその分頑張るから、いいでしょ?」

「ダメだ。レオルが選ばれるかもしれないだろ?宿の事は母さんに任せてお前も参加するんだ。なんたって父さんの子なんだからな」


 このレオルという男の子は、現宿屋の店主にして元腕利きの冒険者だったレグニスの実の息子らしいの。

 ふむ、わしの国の超有名な祭りを知らない訳はないだろうからその辺の話は端折るとするか。

 え?知らんの?またまたぁ、そんなカワイイ嘘言わんでも・・・・・・。マジ??わし超ショックなんですけどーーー!!

 おっほん、取り乱してすまなんだ。祭りの広報担当のやつめ仕事に手を抜きおったな・・・・・・?

 仕方ないの。この場はわしが説明するとしよう。

 わが国の一大イベントと言うべき祭りは勇者聖誕祭という祭りでの。

 この祭りは初代勇者の誕生を祝う祭りで・・・・・・。え?そんなの名前だけで分かるって?ちっちっちー、わが国の一大イベントがそんなショボたんなわけなかろう?わしが国王になってからその誕生祭に一工夫し一大イベントにまでにしたのだよ。

 その工夫はの、勇者選定の儀式を祭りに組み込んだのだ。

 開催地であるこの町の中央広場にある台座に先代勇者が差し込んだ勇者の剣があって、普段はお触り禁止で近寄れぬよう柵を設けているのだがの。この祭りの時に柵を外し国中から男を集め引き抜かせるのだ。

 というても、簡単ではないぞ?真の勇者でなければ抜く事は出来ないのだからの。チャンスは一人一度きりで3分間のみ。勇者の強さと栄光を求め集まった男達が6日にわたり昼夜を問わず休む間もなく挑戦し続け、いい男をゲットしに来た女子等も集まり滞在費用や土産など多くのお金をおと・・・・・・。ゴホン!

 まぁ、そんな祭りだの。最近は魔王復活した事もあって参加者が増えているビックイベントなのだ。


「父さんは僕が武器もって戦えるような体つきに見える?ムリでしょ?せっかく転生したんだし、危険な事せずにゆるやかに過ごしたいんだよ」

「お前はたまにそうやって訳のわからん事を・・・・・・、男なら勇者に憧れるもんだろ?父さんの若い頃は勇者にも憧れたし、冒険者としてバリバリ魔物を倒したもんだ。その血をお前は引いてるんだからやる気になればあっという間に強くなれるさ」

「きっと、僕は母さん似なんだよ。勇者より安定した安全な仕事がしたいの!」


 レオルはそう言って自分の部屋に向かった。というか逃げた、じゃな。


「はぁ・・・・・・。困ったやつだ・・・・・・」


 レグニスはガックリした様子で頭を掻き、息子をどう説得し祭りに参加させるか悩んだようだの。

 反抗する息子の苦悩わかるぞ!レグニスよ!


「レグニスおじさん、こんにちはー。レオルいる?」

「こんちわミリーちゃん。レオルなら自分の部屋にいるな」


 ミリーとはレオルの住む宿の隣の家に住む、レオルと同い年の女の子らしい。

 幼馴染の女子がいるとはうらやまじゃ。

 しかし、こんな女の子まで事件に巻き込まれるとは不憫な話だの。


「おお、そうだ!ミリーちゃんちょっといいか?」

「何かあったんですか?」

「実はな。レオルがな聖誕祭に出たくないって言って聞かなくてな。できればミリーちゃんからもあいつに言って貰えないか?」

「え?レオル聖誕祭やりたくないんですか?」

「ああ、そう言って聞かないんだよ。お願いできないか?」

「お役に立てるか分かりませんが、やるだけやってみます」

「おお!ありがとう。いやぁ、流石はレオルの未来の嫁だ頼りになるなぁ」

「はい、任せてくださ・・・・・・。えっ?お、おじさん!何言ってるんですか!」

「さぁて、俺は客室の掃除をしてこないとなー。ミリーちゃんレオルの事よろしくなー。末永くー!」

「・・・・・・もう、レグニスおじさんったら。レオルに聞かれてたら・・・・・・、私が恥ずかしいじゃない」


 初々しいの。魔王さえいなければこの平和を維持できただろうにの。

 ミリーはレオルの部屋の前でノックをした。


 コンコン!


「レオルー、ちょっといい?」

「また、今度ー」

「今暇じゃないの?」

「暇だけどね」

「ならいいでしょ?」

「はぁ・・・・・・。仕方ないか、でも聖誕祭の件は無し」

「き、聞いてたの・・・・・・?」

「父さんは声が大きいからね。で、用件はなに?」

「ちょっと、お使いで買う物が多いから手伝って欲しいの」

「まぁ、それくらいならいいけど。僕そんなに力ないよ?」

「私よりあればいいの!」


 レオルとミリーは宿を出て市場の方に向かった。


「そっかー、ミリーの家は食堂やってるんだよな」

「祭りが近いからだと思うんだけど、客が多くて食材が足らなくなりそうなの」


 レオルとミリーは市場で買い物を済ませた。


「ミ、ミリー・・・・・・。これ多すぎでしょ重いし前が見えない」

「ごめんね・・・・・・。でも、安心して私がすぐ隣で前を見ててあげるから」

「ま、任せたぞ」

「任せて。あ、そこ左に行って」

「わ、わかった」


 ミリーの指示で左に右にとぐにぐに道を曲がって進んでいく。


「な、なぁ。この道って明らかに方向違わない?」

「レオル着いたわ。荷物を置いてちょっと休憩しよ?私も腕が疲れたし」


 レオルは近くのベンチに荷物を置いて気付く。


「って!ここ中央広場じゃないか。こんな回り道してたら腕も疲れるはずだよ・・・・・・。大丈夫なのか?」

「レオルは優しいね。ちょっと騙すような方法でここまで連れて来たのに・・・・・・。怒らないの?」

「怒らないよ。だって悪いのは父さんでしょ?」

「そういえば、話聞こえてたんだよね・・・・・・。でも、ちょっと違うの」

「違うって何が?」


 少し困ったような顔をしながらミリーは言った。


「私がね。レオルに祭りに出て欲しいって思ってるから」

「どうしてそんな事を?」

「だってレオルは本当は強いじゃない。いつもはそんな風に見えないし、他の男の子に比べても非力に見えるけど。本当は強かったんだって私・・・・・・、あの時知っちゃったから」

「あの時は火事場の馬鹿力が出たというか・・・・・・。あの時の結果も知ってるだろ?結局ボコボコやられたし・・・・・・」

「あれは私が悪いの。私が止めに入ったせいで、隙を付かれてそのまま殴られて蹴られて・・・・・・。でも、ボコボコになったのにレオルは私を責めなかったよね。私、その時思ったの。もしかしたらレオルみたいな人が勇者なんじゃないかって」

「それは買いかぶりだよ。僕みたいな非力な勇者じゃ結局魔王とは戦えないって」


 ミリーは広場にある勇者の剣を見ながら言った。


「ねぇ、レオル」

「なに?」

「レ、レオルは私のこと好き?」

「いきなり何を・・・・・・」

「私はレオルが好き。私もね勇者のお嫁さんに憧れてたの。強くて優しくて格好良い、絵本にも出てくるような勇者のお嫁さんに。だから、これは私のわがまま。剣が抜けなくてもいいから、あの台座で剣を持つ姿が見たいの」

「抜けなかったら結局勇者になれてないんだけど・・・・・・」

「いいの。私の中では私の勇者になってるから。・・・・・・ダメ?」

「わかったよ。祭りには出る」


 不安そうに上目遣いで聞いてくるミリーに、レオルは少しばかり頬を赤くし視線をそらしながら答えた。

 うおおい!子供なのにすごい青春してるのぉ!正直うらやましい!!わしなんぞ、ただの政略婚だぞ?色気も何もなかったわい!

 まぁ、わしの妻はわしがぞっこんなほどに美人じゃし不満はないがな。欲を言えばって話だの。


「よかったー。断られたら、私泣いちゃうところよ」

「ただ、僕の好み的にはこう・・・・・・。もう少し出るとこ出てて欲しいかな」


 レオルは冗談気味に言いつつ、自分の胸の前で手を使ってジェスチャーをした。

 わしの妻もなぁ、もう少しあってもいいと思うのだがの。

 おおっと!今の無し!今の無し!今のは禁句じゃった!妻に知られたら殺される。


「はぁ・・・・・・。そういう所はレオルも男の子ね。分かった、私も頑張ってみる。・・・・・・でも、何をどう頑張ればいいんだろうね?」


 ミリーは自分の胸の膨らみに自分の手を置き感触と大きさを確かめる。

 そして、男の子が好きそうなサイズに届いていないことに頭を悩ませた。


「そ、それは、僕に聞かれても困るかな。それより、そろそろ帰ろうか」

「そうね。遅くなると怒られちゃうしね」


 ミリーとレオルは荷物を持ち並んで歩いていく。

 そこに、ミリーとレオルの同世代と思われる男の子と出くわす。


「レオルじゃねーかよ。荷物が多くて大変そうだなぁ。笑える」

「・・・・・・」


 どう反応しようと相手の思う壺なので、レオルは無視を決め込む。


「笑わないで!私がお願いして荷物を持ってもらっているの。レオルは悪くないわ」

「ちっ。ミリーさぁ、こんなもやしにお願いするくらいなら俺にお願いしなって。俺の方が体も大きいし力もあるんだから、あっという間に運んでやるぜ?当然ミリーの分の荷物もな」

「必要ないわ。レオルと私で十分だもの」


 ミリーは嫌そうに後から現れた男の子に答え、もう無視するつもりでその男の子を避けて歩いて行く。


「おい!なんでそんな弱いやつ構うんだよ!俺の方が絶対強いだろ!ミリーだって見ただろ?俺に負けたレオルの姿をな!」

「・・・・・・」


 ミリーは何も言わずに耐えるレオルを見て、悔しい気持ちで胸が一杯になり堪える事ができず言葉が口から溢れ出てしまう。


「レオルは弱くない!それに、私が見たのはあなたの卑怯な姿よ!これ以上レオルに悪い事言わないで!」


 ミリーはそう言い返すと、再び前を歩きだした。

 その後に小声でこう付け加えるように言った。


「・・・・・・悪いのは私なんだから」

「ミリーは悪くないよ」


 ミリーの小声を聞いてしまったレオルはつかさずそう答え、ミリーは独り言を聞かれてしまったと少しばかり驚いた顔をした。


「でも、私が止めに入らなければレオルが勝っていたはずでしょ?それに痛い目にも、今みたいに言われる事もなかったのに・・・・・・」

「ミリーが止めに入らなければ勝っていたかもしれない。けど、その代わりにあいつが大怪我してた。言いたい放題言われて頭に血が上ってたからね。もし、大怪我させてたらそっちの方が後悔してた。それに、さっきの事もミリーが代わりに言ってくれたから、むしろ感謝してるよ」

「・・・・・・ほんと、レオルは優しいね」

「ミリーはほんともてるよね」

「男の人にもてる魅力は欲しいけど、私がもてたい男の人は世界に一人だけなのにね」


 ミリーはレオルの肩に自分の肩をくっつけた。


「それは・・・・・・、歩きにくいからなしで頼む」

「ご、ごめんなさい」


 くそぅ!なんじゃこのレオルとかいうガキは!女の子にここまで言って貰って置いて、そんな対応ばかりしおって!

 わしならもう即落ちで、その日のうちに夜這いもんじゃぞ!

 つ、妻がいなければの話じゃがな・・・・・・。


「いよいよだなレオル」

「はぁ・・・・・・。お客さんいっぱいいるのにこの列に並ぶのか。お母さん大丈夫かな」

「心配性だな。すぐ戻れば大丈夫だ。それに、お前は別の心配した方がいいんじゃないか?」

「別の?」

「ミリーちゃんだよ。見に来るんだろ?いいとこ見せないと、他の男に取られちゃうかもな」

「どれだけ格好つけても勇者には劣ると思うけど・・・・・・」

「はぁ・・・・・・、お前ってやつはもっとやる気を出せよなぁ。俺の目から見てもミリーちゃんはいい嫁になるぞ?料理はうまいし優しいしな、それにありゃ将来美人になるな」


 祭りの5日目の夜、レグニスとレオルが勇者の剣に挑戦する時が来た。

 祭りの5日目の昼までが外の町や村からやって来た男達が挑戦出来る日で、5日目の夕方から6日目がレオル達の住む町の男達が挑戦する日なのだ。

 夜でも明るく松明の火が町の正面の門から中央広場までいくつも並べられ、挑戦する男達が列を作り、広場には出店も並ぶ。昼は見ないが夜だと、男を誘うような色香を纏った女性もちらほら見られる。結婚相手を探しに来たのか、はたまた娼婦なのかは不明だ。


「でも、僕的にはあそこの女性みたいにこう大きい人が・・・・・・」

「なるほどなー。お前はああいうのが好みか。なかなか・・・・・・、直球というかませてるというか。こりゃ、ミリーちゃんも苦労するなぁ」

「レグニスおじさん、何が苦労するんですか?」

「うぉお!ミ、ミリーちゃんいたのかちょっと驚いちゃったぞ」

「驚かせてごめんなさい。でも、順番はまだ先みたいで安心しました」

「おう!ぜひ、うちの馬鹿息子の勇士を見てやってくれな」

「もちろんです。私は広場の屋台の辺りで待つつもりだけど、レオルは何か飲みたい物ある?買って来てあげる」

「喉は渇いてないから大丈夫だよ」

「そ、そう?」

「ったくこいつは・・・・・・。ミリーちゃん悪いけど、バルドア果汁のジュースを2つ頼めるか?こいつはミリーちゃんに遠慮してこう言ってるだけでな、並びっぱなしで喉が渇いてきてんだよ」

「分かりました。おじさんありがとうございます。それと、レオル・・・・・・」

「なに?」

「私に遠慮なんてしないでね?レオルに遠慮されたら、私が悲しいから」

「わ、分かったよ。次からしないようにする」

「うん。そうしてね。えっと、レグニスおじさん?」


 ミリーはレグニスに小声で話しかけた。


「ん?どうしたミリーちゃん」

「レオルの、こ、好みの人について後で教えて・・・・・・」

「おう!任せろ!」

「おじさん声大きい!しー!」


 くそぉ!

 もう、うらやま通り越して憎らしくなってきおったぞ!そうか、これがリア充爆発しろか。

 なるほどの。

 ミリーは広場の出店の方へ向かって行った。


「レオルお前なぁ。ああいう時は何か負担の少ないやつで良いから、頼んでやるのが礼儀だぞ?」

「どうしてさ?」

「いいか?好きな相手にはちょっとは頼って欲しいもんだからだ。まったく頼りにされないと不安を感じたりするんだ。覚えておくんだぞ」

「「うんうん」」

「父さん・・・・・・、声大きい」


 レグニスとレオルが並ぶ列の前後の大人達が話を聞いていたらしく大きく頷き、レオルは恥ずかしそうにしていた・・・・・・、とな?

 えっ?そうなの?

 ・・・・・・わし、妻に頼られたことないんだけど・・・・・・。マジ?

 わしの方が不安になってきたぞぃーー!!


「はい、レオル。バルドアのジュースね」

「ミリー、いつもありがとう」

「いつでも私を頼って良いからね。レオル」

「で、レオルちゃんはいつミリーの婿に来てくれるのかしら。楽しみだわ」


 ミリーが飲み物を持って戻って来たら、ミリーの母親も一緒だった。

 ま、当然じゃな。安全な町とはいえ夜に子供を一人にする筈はないわな。


「おいおい!何言ってやがる。ミリーちゃんがレオルの嫁に来てくれるんだろうに!」

「あらあら、これだから元脳筋冒険者は。あんたのとこより私の食堂の方が稼ぎが多いんだから店を継ぐなら私のとこでしょ?ね?レオルちゃん」

「えっ?」

「ちょ、お母さん!」

「けっ!馬鹿言うな!稼ぎはそっちは上かも知れねぇがな、それはそっちがそんだけ単価を高くしてるからじゃねぇのかよ?うちは、安値で提供しこの祭りでも常に満席。この町に一番貢献してるといっても過言じゃねぇ!存続させていくなら俺のとこだろう?なぁミリーちゃん!」

「え、えーと・・・・・・」

「まだ子供なんだしミリーを困らせないでくれ。父さん・・・・・・」

「こ、子供じゃないもん!」

「ああ、ミリー可愛いわ・・・・・・。だからこそ!私の元を離れるなんて許可しないからね!」

「お母さん!それじゃ、私いつまでも子供扱いじゃない!」

「何を言ってるの?親にとって子供はね、大人になろうと子供は子供で自分よりも大切な家族なのよ」

「レオルもだぞ。そこだけは俺も同意だな」

「「うんうん」」

「いい話なところ悪いけど・・・・・・。すごく恥ずかしい。・・・・・・すごく」

「うんうん!」


 うんうん!!まったくその通りじゃな。

 わしの息子もこれまた可愛くてな。王の座をよこせって言ってきてな。まだ早いと言ったらぶっ殺すぞクソ親父と返されてな。これが世に聞く反抗期!実にすばらしい!

 順調に成長してるようで嬉しい限りじゃ。

 そんな感じでうなずく周囲を見て、ミリーとレオルはとても恥ずかしそうにしていた。


「だからレオルは譲らん!!」

「当然ミリーも譲らないわ!!」

「これが・・・・・・、大人になろうと子供は子供か」


 レオルは自分の親を見てそう思ったようだ。


「「うんうん」」

「「なんだとぅ!!」」

「そのぉ、どっちかと言うと私はお嫁に行きたいかなーって・・・・・・」

「なんでよぉぉぉぉ!!」

「お嫁に行く方が、私を家族として受け止めてくれるんだなって思えるし。そのぉ・・・・・・、私は好きな人の色に染まりたいなって・・・・・・」


 ミリーは顔を赤くしもじもじしながら言った。


「「ひゅー!ひゅー!!」」

「おっしゃ!!」

「だから恥ずかしいから!やめてってばーーー!」


 ミリーとその母親は先に広場の方に行き、レオルとレグニスは列で自分の番を待った。


「レオル、いよいよだな」

「やっとだね」

「そのやっと終われるみたいな顔はやめときな。ミリーちゃんも見てるぞ?」

「そんな事言われても・・・・・・」

「はぁ・・・・・・。後ろを見てみろ」


 レグニスは自分達が歩いてきた列の後ろの方を見るように言った。

 レオルは後ろを見て、ゴクリと息を呑んだ。


「前ばかり見て並んでたから気付かないだろ?あれが並んでる男達の顔だ。みんな俺が勇者になるんだって気持ちでここにいるんだ。たとえ、昨日まで無理だーって思っていてもな」


 レオルのようにつまらなそうにしている男はいなかった。

 その男達の顔、その迫力に圧倒される。


「勇者の剣に触れるからには、俺こそが勇者だって思って引き抜くんだぞ。それが、この儀式の礼儀だからな」

「わかったよ。真面目にやる。でも無理だとは思うけどね」

「はぁ・・・・・・、ほんとにお前ってやつは。ま、少しは真面目になっただけよしとするか。すでに可愛い嫁候補もいるし、勇者にならなくてもモテモテだもんな」

「モテモテなのはミリーの方だと思うけどね。正直僕よりいい男が他にいるだろうにと思う」

「かーーー!お前には女を幸せにしてやろうって気持ちが足りねぇ。男なら大事なもんだぞ!」

「そんな事ないと思うけど、僕よりいい男を選んだ方が幸せでしょ?」

「ダメだ。いいか?身近な人の幸せを他人任せにするな。んでもって、お前がいい男を目指してなれ!でなきゃミリーちゃんだけじゃない。他の子もこの先の未来の誰かも誰も幸せに出来ねぇ男になるぞ!!それじゃぁダメなんだよ」

「転生前はそんな事言ってくれる人いなかったな・・・・・・」

「お前はほんと、よくわからん事言うよな・・・・・・」

「父さんを尊敬したって事だから気にしないで」

「いや気になるわ!尊敬してくれんなら俺も嬉しいからな!」


 尊敬か・・・・・・。今は反抗期状態じゃしなぁ。

 わしもいつかは尊敬されたいわい。


「レオル。俺が先にやってくるわ」

「どうぞどうぞ」

「俺が剣を抜いちまったらとか考えたりはしないのか?」

「去年もやってるんだし、たぶんそれはナイかなって」

「くっそー!意地で抜いてやらぁぁぁぁ!」


 レグニスは力の限り剣を引き抜こうとする。

 わずか3分で、顔からは大粒の汗が流れ、冒険者時代に鍛えられた筋肉はフル稼働し震えた。

 だが、レグニスも抜く事は叶わなかった。

 そして、レオルの出番となった。


「まるで、日の出を目指して登る富士登山者の列みたいだ・・・・・・」


 勇者の剣の刺さる台の上に立ち、周りを見渡しレオルが並んできた行列を再度見た。


「自分こそが勇者のつもりで、か」


 覚悟を決めて剣を掴んむ。

 あとは全力で引き抜くだけだ。


「こんのぉーーー!!」


 ビクともしない。

 多くの男達が挑戦してもダメだったのだ仕方ない事だった。


「やっぱりダメか・・・・・・」


 残り1分弱。

 レオルは諦めて手を離そうとした。


「レオル!頑張って!」


 ミリーの声援が聞こえた。

 諦めようとしたのを見抜いた訳ではないが、その声援で力の抜けた手に力が入った。


「そういえばミリーのお願いでここにいるんだよな。せめて時間一杯がんばるか!」


 レオルは目を閉じ再び全身の筋肉に力を込めて引き抜きにかかる。


「うおぉぉぉぉ!!」


  キンッ!!


 そして甲高い音が響き、レオルの両手は剣を持ったまま空へと掲げられた。

 不思議な事に歓声はない。広場にいたすべての人がその剣を見たまま固まり、静寂があたりを飲み込んだ。


「なんだろ?勇者の剣って案外軽い?」


 レオルは剣を見て驚愕した。

 勇者の剣と言われるだけはある装飾の施された剣。

 だが、その刀身は途中までしかなかった。

 これが、わが国で起こった重大事件の流れじゃ。

 毎年毎年・・・・・・。国中の男を集めて勇者の剣を抜かせようとしたのじゃ。いかに勇者の剣といえど耐えれる物ではなかったのだろうのぉ。

 それに気が付かずに祭りにこの儀式を組み込み利益を得ようとしたわしのミスじゃ。

 だが、素直にそれを認めることは出来ない。なにせすでに魔王が復活してしまっておる。

 勇者の剣が失われたとなれば、国民の不安は相当なものになる。それにわしの後継の問題もあるのじゃ、正直跡を継がせるには早すぎる。

 わしがすべての責任を負い王の座を降りれば、我が国はたちまち荒れて魔王に蹂躙されかねん。

 他の国々からも非難もあるじゃろうな。なにせ、危険な為に封印されたのは魔王だけではない。悪魔やドラゴンに魔獣の王等の封印もあるし、その封印を見て回るのも勇者の仕事じゃが・・・・・・、世界に勇者は一人しか出て来ぬ。

 他の国々にも対応していかなくはならぬからの、酷じゃがわしが責任のすべてを負う事はできぬのだ。


「それでの、レオルとやら。お主がこの勇者聖誕祭に参加した理由と、した事は以上で間違いはないのだの?」

「・・・・・・はい。間違いはないです。すべて僕の責任です」


 ここは、我が城の謁見の間じゃな。

 今回の重大事件の関係者を集め話を聞いておる所じゃ。


「すべて・・・・・・か。子供とは思えぬ言葉じゃな。いや、これは褒めておるのじゃ。我が息子にも学ばせてやりたいくらいのな」

「まて!レオル!お前は子供だろうが!お前に責任なんてあるか!10年早いんだよ!王様!責任は俺にあるレオルには何もしないでくれ!!」

「王様!私がいけないんです!私がお願いしたからレオルは・・・・・・」

「ミリーは黙ってなさい!子供の責任を負うのも親の役目なのだから。王様、私からもお願いします。どうか子供達は許してあげて下さい!お願いします!」


 耳が痛いわい。気持ちは分かるが情勢が許してはくれぬだろうの。


「そうだの。ミリーにその母親のおぬし等は何の罪もない、何もせぬゆえ安心せい・・・・・・」

「・・・・・・ありがとう、ございます」

「ま、まって!そ、それじゃぁ――」

「ミリー今は黙ってなさい!」


 ミリーは唇をかみしめるように口を噤んだ。

 賢い娘じゃな。そう、わしはみなを無罪にはせぬ。というよりできぬのだ。

 本来であればわしに責任があるというのにの。


「レオルの父。レグニスよお主にも罪はない。よって何もせぬゆえ安心せい」

「・・・・・・」


 レグニスは何かを察して無言で王を睨んだ。

 子を大事に思う心は尊いの。だが、わしは非情にならねばならない。

 せめて、わしなりに誠意を見せねばな。


「・・・・・・王様なにを?」

「レオルよ。これからわしがお主へする事の謝罪じゃ」


 わしはレオルとレグニスの前まで歩き両手を床について頭を下げた。


「つまり・・・・・・俺の息子に罪をかぶせようってか!!」

「・・・・・・すまぬ」

「てめーーーーーーーー!!」


 レグニスはわしを横から殴り飛ばした。とても痛かった、だがそれ以上に罪悪感でわしの心も痛かったの。


「俺が罪を背負うつってんだろうが!痛いだろ?殴った俺が憎いだろ?さぁ!俺に罪をかぶせやがれってんだ!!」

「父さんやりすぎだ!!こんなの、何か訳があるはずだよ!」

「レオルは黙ってろ!これが親の役目ってやつだ!!」

「・・・・・・すまぬな。そこの兵士達よ!この狼藉者を別の部屋で落ち着かせるのじゃ!ただし丁重に扱うように!乱暴な事は許さん!」

「「はっ!!」」

「はなせーーーー!!」


 レグニスの怒りは当然じゃ。だが、あの者がいては話が進まぬのでな心を鬼にして退場してもらったんじゃ。


「レオルよ。すまぬが今回の件は、わしとお主だけの責任という事にさせてくれ」

「訳を聞かせてください・・・・・・」

「だ、だめだよ!聞かなくていい!だってレオルは悪くない!私が悪いの!!」

「ミリー・・・・・・やめなさい。レオルちゃんが困ってるわよ」

「困ればいい!困って悩んでちゃんと気付くべきよ!レオルは悪くない!!」


 この子はレオルを本気で好いておるんだの。痛いほどに伝わってくるわい。


「そうじゃな。まず、本来であればおぬし等は誰も悪くはない。それだけははっきり言っておこう。あの祭りを考え、毎年当然のように行ったわしにすべての責任があるのだ」

「つまり政治的な問題で僕を・・・・・・?」

「そうじゃ」

「そんな・・・・・・」

「王様、レオルちゃんに責任を押し付けて終わりではないですよね?」

「順を追って話す」


 わしは話した。

 今の状況とこれから起こるであろう他の国々の対応等をな。


「そして、レグニスに責任を負わせる事はできない。あやつは冒険者時代の武勇があるからの。一部では英雄視もされとるくらいにな。国民が魔王の存在によって不安に怯えてる最中に、国の英雄が罪人になったとなれば余計に不安をあおる事になりかねん」

「だから僕に・・・・・・?」

「そうじゃ。我が国民だけでない、他の国々からも非難されよう。じゃが、その原因が幼き子供となればその非難も少しは柔らかい物になろう。卑怯な手段じゃが子供ゆえ罪を軽く出来るのだ。ゆえに、レオルよ・・・・・・。頼む」


 わしは再度レオルの前で両手を床に着けて頭を下げた。


「・・・・・・」


 レオルは言葉が出てこないみたいだったの。

 無言でわしを見ておった。


「だめだよレオル!こんなの間違ってる!」

「私も娘と同意見です。子供にこんな事すべきではありません」

「・・・・・・もし、もしも断ったらどうするんですか?」

「すまぬな。断れないようにさせてもらうだけじゃ」


 わしは手でその場に残っていた兵に合図を送った。


「僕を殺すんですか?」

「生きて責任を負うか、死んですべての責任を負うかじゃ。残念じゃがその場合は・・・・・・」

「い、いやぁ」

「正気ですか!レオルちゃんやミリーも手にかけると言うんですか!!私だけならまだしも、相手は子供ですよ!!」


 武器を構えた兵がレオル達にその武器をつきつけた。


「・・・・・・口封じかつ人質なんですね」

「賢い子じゃな。普通に暮らせれば将来有望な人材じゃったろうな。だが、わしには他に選択肢が思い浮かばぬ。わしは国民の命を背負っておる・・・・・・、その重みには勝てぬのだ」

「・・・・・・わかりました。最初にすべての責任は僕にあると言った時に覚悟はしてました」

「だめ、だめだめだめ!こんなのってないわ!!」

「ミリーやめなさい!私達にはもうどうしようもないのよ!」


 ミリーの母親はミリーを抱きしめ、母親の腕の中でミリーは泣き出した。


「ただし、条件があります」

「当然じゃな。出来る限りその条件を呑もう」

「僕が大人しく従ってる限り、ミリー達やお父さん達が不利になるような事は何一つしないでほしい」

「わかった」


 わしは勇者の剣が折れた件の責任は、祭りを企画し行ったわしと直接折ってしまったレオルという少年にあると公表した。

 当然じゃが話はそれで終わらぬ。その責任を取らねばならないからの。

 わしはレオルにある指輪と旅に必要になるものを渡し、勇者を見つけ出す事で責任を取るよう命じた。

 わしは勇者が見つかるまでの間、魔王への対処と他の国々への対応、折れた勇者の剣を直す事が出来ないかの調査等に全力を尽くす事になったの。

 そして勇者が見つかった時には、国王の座を降りる事を国民達に約束したのじゃ。


「レオル・・・・・・。あなた本当に一人で行く気なの?」

「母さん心配しすぎ。大丈夫だって」

「あなたまだ10歳の子供なのよ。心配しない方がおかしいわ。私が付いて行きたいくらいよ」

「だめだよ。母さんには帰る場所を守ってもらわないとね。帰る所がなくなっちゃうでしょ?それに父さんだけ残してもいけないしさ」

「ほんとっにあの人ったらどうしようもないんだから。お城で大暴れして2日間の牢屋行きなんてバカよ・・・・・・」

「あ、あれは僕の為にやった事だから許してあげて。それに、父さんが冒険者で良かったよ旅に必要な物とか揃ってたしね」

「無事に・・・・・・、無事に帰ってきてね」

「さっきも言ったけど大丈夫。僕は歳以上に経験豊富だからね」

「レオルはたまに訳のわからないこというわね」

「い、行って来ます!」


 レオルは家を出て町の外へ行くための門に向かった。


「町を出ての一人旅をするはめになるなんてなぁ。親の宿屋継いで安全かつ安定した暮らしをして、こうボンキュな嫁を――」

「その嫁は当然私よね?む、胸の方はまだ努力中だけど・・・・・・」


 ミリーは自信がまだ持てない自分の胸に手を置き視線を胸元に落とした。


「ミ、ミリー?い、いつからそこに・・・・・・」

「ついさっき。レオルが家を出るのを見て、そのまま隠れて付いて来たんだから」

「なんで隠れるのさ」


 ミリーはレオルのその言葉で顔付きを変えた。

 眉の端を吊り上げキッ!と睨み、涙目で感情を爆発させた。


「私だって隠れたくなかったよ!レオルが私の家に少し寄る位してくれると思ってたけど、嫌な予感がして隠れて来たんだからね!!ほんとに、何も言わずに行こうとするなんて思わなかった!!レオルずるいよ。私ね、言いたい事いっぱいあったんだよ?謝りたい事も、私達の為に責任を負ってくれたお礼だって言えてなかったし・・・・・・」

「ミリー・・・・・・」


 ミリーは涙を服の袖で拭き決意を固めた。


「だから今決めたわ」

「えっ?」

「私もレオルに付いて行く!」

「ええっ!だ、ダメだよ危ないし、それにミリーのお母さんが許可するわけないし」

「お母さんなら大丈夫よ」

「なんでわかるのさ?」

「私の後をこっそり追って来てたからよ。ね?お母さん?」

「ギクリ・・・・・・。えーとその奇遇ね」

「なんで付いて来てるんですか・・・・・・」

「だってー、可愛いミリーの記念すべきキスシーンとか見れるかもしれないじゃない!むしろしなさい!今すぐに!」

「・・・・・・レオルはしたい?」

「し、しないからね?言われてする様なもんでもないしさ。というかそう言う話じゃなかったですよね?」


「「ちっ」」


「そ、それで、いいんですか?ミリーが付いて来るって言ってますけど」

「親としては当然反対よ」

「お母さん・・・・・・」

「でもね?同じ女としては賛成」

「えっと、それはどっちなんですか?」

「レオルちゃんは、いつからミリーがレオルちゃんを好きだったか知ってる?」

「えっとー、僕がボコボコにやられた時だろうから2年前かな?」

「ハズレ、5年前よ。もうそれから毎日のようにレオルちゃんの話聞いてたのよ?だから分かるの。ミリーは本気で言ってるんだって、もうこうなったら反対しても無駄よ。私がミリーだったらそうでしょうから。だから反対したいけど賛成するわ」

「でも、何があるか分からない危険な旅ですよ?」

「私もミリーも、レオルちゃんに命を助けてもらったようなものだもの。いいわ、いざというときが来てもレオルちゃんの為になるなら・・・・・・」

「うんうん!」

「遠慮なくミリーを押し倒して抱いちゃいなさい!子供には早いけど、いつ死に別れるか分からないご時世だもの。私が許可するわ!!」

「ちょっーーーーーーーー!!」

「そ、それはまだ心の準備が・・・・・・」

「何を言ってるの!まだ子供とはいえ、男と二人で旅をするのよ?それくらいの覚悟なくてどうするの!」

「わかった。がんばる・・・・・・」

「イヤイヤイヤイヤ・・・・・・。おかしい、何かがおかしいから!!」


 レオルはこうしてミリーと共に町を出て勇者探しの旅に出たようじゃ。


「王様。例の少年とミリーという少女が一緒に門を出て行ったそうです」

「そうか」

「よろしいのですか?人質を兼ねていたのでは?」

「そんなもの、あの場だけのハッタリのつもりじゃし、構わんよ」

「はっ!了解しました!」

「レオルよ。勇者が早期に見つかる事を願っておるぞ」


 ただ、この時のわしには予想も出来んかったのじゃ。レオルが後に勇者を探す亡霊だの指輪の悪魔だのと言われるようになるとは・・・・・・。

 そして、そうなってしまうまでの苦難の日々をわしは想像すらできなかったのじゃ。

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