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第8話 黒の囁き

 目が覚めた誠が見たのは王城の部屋の天井……ではなくダリアの宿の天井だ。

 そしてもう一つ変わったことがある。

 隣に寝ているディアだ。

 その姿は薄いワンピースのような服だが、寝ている間にはだけてしまっているのか雪のように白い太ももが見えている。

 しかしそんな状況は知らないとばかりに、すぅすぅと寝息を立てて起きる気配はない。


「……おい、起きろ」

「んっ…………っ、おはよう、ございます……」



 眠っているディアの肩を揺するようにすると、まだ眠たげな目を擦りながら起き上がってきた。


「俺は外に行って顔を洗って、飯を作ってくる。ディアも準備をしておいてくれ」

「わかりました……にしても昨日の夜は凄かったですね……」

「妙な言い方をするな。俺は飯を作ってやっただけのはずだぞ」


 そう、俺はただ夕飯を作ってやっただけなのだ。

 しかしそれが美味しかったらしくこんなことになっているのだ。


「もしかして朝も作ってくれるんですか?」

「暫くはこんな食事は出来ないと思えよ」

「そうですね……それなら味わって食べることにします」


 その言葉を聞き届け、俺は準備を進める。




 そして、朝のひとときを終えて迷宮へ向かうのだが、その前に誠は昨日行った防具屋へ行くことにした。


「いるか?」

「ん? お前は昨日の……」

「ああ。だが、今日は別件だ。俺の予備と相方の分の革鎧が欲しい」

「おう、任せな」


 そう言って店主は店の奥へ消えていった。


「マコト様、いいのですか?」

「何がだ」

「だから、私のために――」

「だれがお前の為って言ったんだ? 俺は必要だと思ってこうしてるだけだ」

「そう、ですか。そういうことにしておきます」


 少しだけ話をしていると、店主が戻ってきた。


「どうだ、これでいいか?」

「ああ。幾らだ」

「1セットで銀貨5枚……と言ってやりたいが昨日のやつのおかげで稼げたからな。3枚でいいさ」

「そうか。それはよかったな」

「全くだ。それよりそっちの嬢ちゃんは着け方大丈夫か?」

「大丈夫だ、俺が教える。どっか部屋貸してくれ」

「そういうことなら裏でやってもらっていいぜ」


 どうやら店の裏で着替えさせて良いと言うので借りることにした。


「…………よし。違和感はないか?少しでもあったら言えよ」

「いえ、大丈夫です。強いていえば胸元がちょっと……」


 手でその辺りを調整しているようだったが、少しすると満足したらしい。

 その際にちらちらと誠の方を向いていたのは気の所為だろう。


「すみません、時間がかかりました。もう大丈夫です」

「時間が無い、行くぞ」

「はい」


 遂に二人は迷宮に挑む時が来た。

 これから先は失敗は許されない。

 そもそも俺達が躓いている余裕は無いのだから。




「まずはお前の戦闘能力が見たい」

「成程、ではそこのパラライズフロッグからにしましょう」


 誠達は今、迷宮の10層に来ていた。

 何故このタイミングでディアの力を見ておきたいと言い出したかは、レベルと魔物の強さがようやく噛み合ってくるのがこの辺りということだった。

 実際にそれまでの層は殆どが一撃で相手にならなかった。


「マコト様、魔法も使ってみていいですか?」

「当たり前だろ。渋る理由なんて無い」

「ですね。それでは――」


 距離を取って、ディアは魔法を放つ。


「【魔を断つ風よ】『ウィンド・カッター』」


 ディアが選んだ魔法は初級の風魔法である『ウィンド・カッター』だ。

 この魔法は直線上に飛ぶ風の刃を放ち敵を切り裂く。

 そして標的のパラライズフロッグも例外なく風の刃で真っ二つになる。

 どうやらまだまだ余裕がありそうだ。


「どうでしょうか?」

「申し分無いだろう。それなら一先ずは整備されている層の限界までいって、そこでレベル上げにしよう」

「わかりました。……けど、そんなにゆっくり進んで良いんですか?」

「焦って進んで死んでも仕方ないだろ」


 死んでしまったら意味は無いのだ。

 功を焦って死んでしまう話は何処でもあるが、そんなのは馬鹿がやることだ。

 俺達はそんな様では駄目なのだ。

 甘さは身を滅ぼす、その事を知っているから。


 それからは誠が【探知】で敵を発見し、殲滅していくやり方でレベルを上げていった。

 誠は剣主体、ディアは魔法と短剣を上手く組み合わせて戦闘をこなしていった。

 意外にもディアの身のこなしは良く、五感にも優れるため非常に戦闘向きとも言えるだろう。

 恐らく長い間森で過ごしていたお陰なのか【探知】や【暗視】についても十分と言えるレベルだ。


「そう言えば気になっていたんだがひとついいか?」

「どうしました?」

「いやな、俺の記憶だとエルフは弓を使っているイメージだったんだが、なんでディアは短剣を使っているのかと思ってな」


 ディアは少し困惑しているようだったが、誠に頷いてみせた。


「確かに大抵のエルフは弓を使えます。ですが私の場合はその練習をする機会は無かったので。恐らく練習すれば私も使えるとは思いますけど」

「成程な、それなら魔法は?」

「魔法はお姉ちゃんに教えてもらいましたから……」


 遠くを見るような目でディアはそう語る。


「そうか。なら機会があれば弓の使い方を教えようか?使えれば戦術の幅が広がる」

「確かに使えるならそれに越したことは無いですね」


 誠は【弓術】の技能(スキル)も勿論持ってはいるが、あれはどうにも性にあわない。

 しかし魔力を感づかれる可能性がある魔法よりも有用な状況があることは確かだ。


「今は気にしても仕方ないな」

「そうですね。今の優先事項はレベルを上げることですから」

「今は17層だったか……なら20層までは一通り片付けていくぞ」




 現在の二人の場所は20層の所謂安全地帯と言うべき場所だ。

 というのもこの場所には魔光石という光源になる石がある。

 更に誠が【解析】で調べてみると、魔物を寄せ付けないようにする効果があることも分かった。


「ここは安全そうだ。食事を取ってさっさと休むぞ」

「わかりました。それなら私は水を作っておきましょうか」

「そうか、水魔法も使えるんだったな。なら飲水の確保は心配ない、か」

「風魔法程では無いですけれどね。それと『ピュリフィケーション』も使えるので体の浄化もこれで済ませられますよ。昨日はマコト様の優しさに甘えて使わなかったですけどね」

「……そうか。ならそっちは頼む」


 少し残念な人を見るような目になった誠だったが、直ぐに準備に取り掛かる。

 迷宮の中だからというのもあるが、多少は味気のない食事になってしまうことは仕方がない。


「うーん、やっぱりマコト様が上で作ってくれた食事の方が美味しいです」

「こんな所じゃろくな調理は出来ないからな、我慢しろ」

「だとしても十分に美味しいですけどね。今度教えてくれませんか?なんだか悔しいので」


 ディアは誠が作ったハムサンドを頬張りながら、じぃーっと誠を見る。


「それは別にいいが、兎も角上に戻ってからだ。それより早く食べて少しでもいいから寝ておけ」

「そうしますね。でもマコト様はどうするのですか?ずっと起きてるわけではないでしょう?」

「俺は寝ていても敵意を持ったやつが近づいてくれば起きるからな。そうならなきゃ生きていけなかったからな」


 誠自身は世界をやり直す前は一人で逃げていたため、このような睡眠が板に付いてしまった。

 けれど魔光石があるこの場所ならそれ程警戒する必要はないだろう。

 そう思いながら、誠は意識を落とした。


「マコト様、もう寝てしまったのですか。……無警戒のように見えてそうではないんですよね。……仕方ないですから私も寝ましょうか」


 壁にもたれかかるように寝ている誠に寄り添うように座り、ディアもまた意識の海に沈んでいった。





 気づけば私は森の中にいた。


「あ、れ?私は迷宮にいたはず……それにマコト様は?」


 不安感に駆られて五感を総動員して探すが、見つかる気配はない。


 ――私はまた裏切られた?


 そんな邪推ばかりが私を支配しそうになる。

 でもそんなはずはない、そう考える私もいる。

 マコト様には私を裏切る理由がない。

 それが希望的観測とはいえ、今の私の柱だ。


「……大丈夫、きっとマコト様はいます」

「えぇ、そうよ」


 突然私のものでは無い声が聞こえた。

 記憶を漁ってみるが、何処にも該当しない声音だ。


「誰ッ! マコト様は何処!」

「そんなに騒がなくても何処にもいってないわ」


 森の奥から捉えどころのない黒い靄として現れた()()はディアにそう言う。

 よく聞けばそれは女性の声だと分かるが、それ以外には何もわからない。


「……なら、どこにいるんですか」

「貴女の隣に居るはずよ。でもここは私が創り出した夢のような場所。だからわからないだけ」

「それを信じる根拠は何処にあるんです?」

「ならこう言えばいいかしら。私は『嫉妬』。ちょっと目が覚めるくらいだったのだけれど、懐かしい気配がしたからちょっかいをね」


 フフフッ、と不気味に笑うその黒い靄はそう言った。


「『嫉妬』?私はそんなの知らないですけれど兎に角早くここから出してください」

「そんなに焦らなくてもいいのよ?元々私は貴女に危害を加えるつもりなんてないから」

「なら早く出してください。時間がないんです」

「そんなに大切なのかしら、あの人のこと」


 あの人というのは誠のことだろう。

 だけど何故そんなことを聞く必要がある?


「……貴女には関係の無いことです」

「照れなくてもいいのに。でも、そんな貴女を私は面白いと、そう思うわ」

「そうですか。私は全く面白くないですが」


 不機嫌さを露わにしてその黒い靄――もとい『嫉妬』に抗議する。

 それでも『嫉妬』は態度を崩すことがない。

 それどころか楽しんですらいるようにも見えた。


「で、話はそれだけですか?いい加減飽きました」

「そうね、ごめんなさいね。じゃあ女子会はここでお開きにしましょうか。――私は貴女を待っているわ」


 その一声と共に私の視界は明るくなっていく。

 そして待ち侘びた声も聞こえる。

 私が居るべき場所はマコト様の隣、それは誰に何を言われても揺るがない。

 だから行こう、立ち止まっている暇は無いのだから。


こちらの作品なのですが、流れとしては復讐×バトルといった形を目指していますが、章によってはどちらかに偏ることもありますのでご了承ください。

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