第4話 黄色の悪夢
※グロ注意
今回はいつもより短めです。
「この狭い道では不利だ!俺とギルが前でカインは後ろで補助にまわれ!」
「「了解!」」
三人の中で隊長格だったらしいアルが他の二人に指示を出す。
流石は王国の騎士なだけあって、よく訓練されているようだ。
淀みのない動きで後衛のカインは二人に強化魔法をかけていく。
「『パルース・パワー』『パルース・ディフェンス』」
この二つは筋力と耐久を強化する初級魔法だ。
これはそれぞれ対象の能力値に+5%の効果を与える。
……だが、正直この程度では相手にならない。
「初級魔法か。随分余裕だな?」
「……挑発には乗らんぞ。先手をくれるんだったな。――いくぞっ!」
「こいよ、俺がお前達に訓練してやる!死んでも文句言うなよっ!」
アルとギルが二人で誠に斬りかかる。
狙いは両腕のようだ。
その程度の動きなら【解析】を使うまでもない。
誠は左半身を後ろへ動かし半身になって左腕を狙う剣を回避、そのまま右手で神剣を引き抜き正面に迫る攻撃を神剣の腹で受け流す。
誠はそこで止まらずに一回転し、速度を乗せた水平斬りを二人にお見舞いする。
それは二人の胸元に一筋の傷を刻み込んだ。
「チッ、カイン!」
「わかってるさ!『ヒール』!」
「嘘だろ……」
「先手は譲ったぞ?にしても生きていて良かったな。どうやら傷が浅かったようだ」
誠からすればこの結果は当然と思える。
二人の【剣術】のレベルは2、対する誠のレベルは6。
言い換えれば達人と子供が撃ち合っているようなものなのだ。
「俺達の【剣術】はレベル2でお前も同じはずだ!何故あれだけの動きが出来るッ!」
「そういえばそうだったな。そういう事にしたからな」
「確かにお前の技能を見た時はそうだったはず……何をした!?」
「敵に問われて素直に種明かしをする奴がいるかよ。その弱っちい頭で精一杯考えたらどうだ?」
実際の種はそれ程難しくはない。
【隠蔽】と【偽装】の技能で、元々は【完全模倣】しかステータスに表示されないようにしていただけだ。
そして訓練をして技能を覚える風に見せて【偽装】と【隠蔽】を解除していっただけ。
それだけだが、訓練で身につけさせていない技能のことは考えもしないだろう。
それから見合っても騎士達は攻撃を仕掛けてくる様子が無い。
だが、何かコソコソと話しているようだ。
様子からして未知の敵と戦うのは危険だと判断したようだ。
それは賢明だと言えるだろう。
そして彼らが取った選択は、
「クッ……転移石を使え!撤退する!」
その声で騎士達は転移石と呼ばれる青い石を手に取る。
これは例外は存在するが手に握って場所の名前を言うだけで、その場所に転移することが出来る貴重な道具だ。
確かにそれを使ってこの場所から離脱出来れば、誠が裏切ったという情報が伝達されて直ぐにでも討伐軍が編成されるだろう。
だが転移までの数秒は致命的だ。
「「「転移!王都クレイベ―――」」」
「逃がさねぇよ!」
誠は瞬時に投げナイフを一人一本、転移石を構えている腕に突き刺す。
その痛みで転移石を落とし、全員が転移できずに床を這う結果となる。
「こんなナイフ程度で……」
「そのナイフ程度で全員倒れてるじゃねぇか。流石に拍子抜けだろ。全員が転移するんじゃなく一人に足止めさせて残りが転移して情報を伝えるべきだ。減点だな」
「クソっ!……なんでだ、体が動かねぇ!」
「こっちもだ!何しやがった……」
「さっきお前らの頭で考えろって言ったよな?また減点だ。王国の騎士様がそんなのでいいのか?民が泣くぞ?」
床に這いつくばって立ち上がる気配のない三人を誠は上から見下ろして毒を吐く。
正直本当に残念だった。
もう少し楽しませてくれるかと思ったが、誠の技能レベルの暴力はそれを許さなかった。
しかし騎士の一人――カインが口を開く。
「そうか……パラライズフロッグの麻痺毒、だな?」
「ほう?正解だよ。そのナイフにはパラライズフロッグの麻痺袋から作った麻痺毒が塗ってある。カイン……だったか?お前にはご褒美をやろう」
誠は正解を口にした騎士の元へ歩み寄る。
カラカラと引き摺っている剣から音が鳴る。
誠はゆらりゆらりと近づく。
そして笑顔を浮かべて
「お前へのご褒美は――安らかな死だ」
騎士の首元に閃光が走ったかと思えば、それは二つに分かれて命の源の赤を垂れ流すばかりになった。
一瞬の出来事だった。
実際にカインは自分が何をされたのか理解せずに死んだだろう。
しかしこれからの事を考えると幸せなことだと誠はは思う。
「やっぱりご褒美はあげないとなぁ?で、お前らはどうしてやろうか?」
「ひ、ヒィッ!」
「い、いや、嫌だッ!」
「そんなに嬉しそうな声で鳴くなって。順番にやってやるからどっちからやるか決めろよ?」
誠がそう言うと途端に身の売り合いが始まった。
「お、俺は隊長だ……生かしておけばおま…アマノ様の元で絶対に役に立ってみせます!だからどうか命だけは!」
「お前ッ!こんな仲間を売るような奴は信用出来ねぇ!アマノ、お前も裏切られるぞ!」
「全く、やっぱりこうなるのか。これだから本当に嫌になる。所詮人間なんて自分の命と他人の命を天秤にかけたらどれだけ残酷でも生き残ろうとする」
「あ、当たり前だろう!」
確かに当たり前といえば当たり前の事だ。
他の人の命の為に自分の命をかけるやつは馬鹿だと思う。
それでも生き残るためとはいえやってはいけないことだってある。
それが仲間を売るなんて選択肢なら、それは論外だ。
だから俺はこう思う。
――どちらも死ねばいいと。
死ぬのが嫌で身を売るくらいならどちらも死んだ方がマシだ。
「だよな、お前らも死ぬのは嫌だよな」
「あ、あぁ。考え直してくれたか……なら早く解毒薬を――」
「何を馬鹿な事を言ってるんだ?ここから生きて帰す訳が無いだろ。ただ俺はこれ以上は手を出さないことにした」
「な、何だとッ!?」
誠の衝撃的な言葉に思わず反応してしまう。
しかし気にするべきところはそこでは無い。
誠が手を下さずに自分たちが死ぬ可能性を考えるべきだった。
誠がもつ技能の中には【探知】と【隠密】というものがある。
効果は前者が生命反応や魔力反応を探す技能で後者がその対抗策となるものだ。
そして誠の【探知】はこの場所に近付いてくる幾つかの反応に気付いていた。
「ほらお前達、良かったな。お迎えが来たぞ」
「何を言って……」
「あれはまさか……さっきの言葉は嘘だったのか!」
「さっきの言葉ってもしかして、俺は手を出さないってやつか?実際そうだろ。お前達を殺すのは俺じゃない、あいつらだ」
それは黄色いボールが転がってくるようにも見える。
その正体はパラライズフロッグだ。
こいつらは麻痺袋の毒につられてやってきたのだ。
そして既に麻痺状態の餌が二つ。
当然に黄色い悪魔に捕食されてしまう。
「グァァッ!腕が、ウデガァッ!!」
「痛いイダいいダィィ!!」
「どうだ、痛いか?苦しいか?それが生きてるってことだよ!ほら、もっと、もっと叫べよッ!」
体が麻痺した状態で喰われると言うのは、王国の騎士でも体験したことがないだろう。
そして意識を失うことが出来ない痛みで、自分の体が喰われていく過程を見届けることになる。
人としては耐え難い光景だろう。
二人の体はパラライズフロッグの消化液によって、少しずつ溶かされながら喰われて骨が剥き出しになってきている。
その骨に舌が触れる度に悲鳴があがる。
しかし相手は魔物。
言葉が伝わるはずもなく彼らの食事は続く。
――ペチャ、ペチャ、ペチャ……ズッ、ジュルッ、ジュルッ…………
血を啜る音がようやく止んだ頃に、そこにあったのは一人の死体と白く綺麗な骨だけだった。
章題付けようと思っていたのですけど、あれ先の展開見えないようにするの辛いのでもう少しかかります……
修正:誠の成長補正の値を間違えていたので変更しました。話の流れには影響ありません。