第3話 常闇の反逆
週に1〜2話のつもりでしたが、1章完結まではなるべくあげていきます
思いのほか早く目が覚めてしまったようだ。
窓を開けて外を見てみると日が登ったばかりなのか薄らと明るい。
「いやぁ、最高の気分だ」
待ち侘びたこの日。
誠にとって始まりの日になる今日は迷宮へ訓練に行くことになっている。
確か朝早くから馬車で迷宮の近くの街まで移動して、それから訓練に行くはずだ。
さぞ楽しい訓練になるだろう。
いや、俺がそうするんだ。
「アマノ様、出発の時間です。準備は大丈夫ですか」
「大丈夫だ、直ぐにでも出れる」
「でしたら外に馬車が控えていますので行きましょうか」
誠の部屋に迎えに来たのは一緒に訓練に行くことになっている騎士の一人だ。
他にも数人いるはずだがもう馬車にいるのだろう。
特に待たせる理由もないので誠も馬車へ向かう。
「君がアマノ君だね。今代の『勇者』は本当に優秀だと聞く。よろしく頼むよ」
「よろしくお願いします」
馬車のところで待っていた三人の騎士と軽く挨拶を交わす。
にしても俺が優秀か。
そんな言葉は馬にでも食わせてやってくれ。
だが誠は顔には出さない。
そんなこんなで馬車は迷宮の近くの街――ダリアへ向かう。
王都から見てダリアは南にある街であり、迷宮近くにある街で冒険者の人が多く見られる。
冒険者とは冒険者ギルドに登録をしている人達のことで、依頼を達成しその報酬で生計をたてているのだ。
冒険者は基本的には来る者拒まずの対応で誰でもなれるのだが、その仕事には危険が伴うこともある。
そしてそれは自己責任として処理されてしまうので依頼の最中で死亡してしまうことも少なくない。
それでも大勢の人が冒険者として活動している理由の一つが迷宮だ。
迷宮には時々宝箱があり、中身はポーションの類から高額な物になると魔法道具なども出てくることがある。
そんなことがあり、一攫千金を狙って迷宮探索をする冒険者は増えては減って、減っては増えてという具合だ。
こんな理由で栄えている街がこのダリアだ。
「ついたか」
「準備は大丈夫だろうな?」
「俺達は大丈夫だ。アマノ君は?」
「行けるぞ。時間を無駄にしたくない」
「それなら行くぞ、迷宮へ」
迷宮はこの街の東にある。
大体迷宮付近に冒険者が使うような施設が集中している。
そこには冒険者特有の荒々しいながらも力強い活気が満ちていた。
その喧騒を背にして誠達は迷宮へ向かう。
「ここが『常闇の迷宮』だ。ここは常時夜のような暗さで明かりがないとまともに歩くことが出来ない。……とは言っても上層のほうは整備されているからそんな心配は無いがな」
この『常闇の迷宮』はその名の通りどこにいても暗いという迷宮だ。
技能【暗視】を持っていないものは明かりを無くしてしまうと簡単に迷ってしまう。
だが、長い年月をかけて20層辺りまでの所謂上層と呼ばれる場所は明かりが整備されている。
そして今日は小手調べも兼ねて10層後半まで行くそうだ。
しかし、ここは迷宮。
いくら整備が進んでいるからといっても、そうではない場所があることを誠は知っている。
「いくぞ」
一人の騎士の掛け声で誠達は迷宮へ入っていった。
ここは『常闇の迷宮』第10層であり、初心者の登竜門とされている場所だ。
理由としては単純に魔物が強くなるということもあるが、ここからは状態異常や連携への対応が必要になる。
例えば低級の魔物として知られるゴブリンなんかは、この10層を境に上位種が出現するようになる。
それがいることにより独立して動いていたゴブリン達が連携を取り出すのだ。
それとは別にこの10層が登竜門と言われる理由、それは「パラライズフロッグ」という魔物だ。
名前の通り麻痺攻撃をしてくる蛙なのだが、まず視覚的な攻撃になる。
黄色い体から赤黒い血が流れる血管が浮かび上がり、その目は正気を失っているようにキョロキョロと動き回る。
控えめに言って、かなり気持ち悪いのだ。
次にその攻撃だが、基本的に麻痺攻撃を当てた相手を口から出る消化液で溶かしながら捕食するという具合だ。
だがこれは麻痺にならなければ捕食されることは無い……のだが、如何せん麻痺攻撃が強力だ。
これまでの層では範囲攻撃が出来るものといえば、精々が下級魔法による攻撃だ。
これは直線上の攻撃が多く、距離を取れば比較的回避しやすい。
しかし「パラライズフロッグ」の攻撃方法はどちらかと言うとカウンターとして機能する。
仕組みは単純で攻撃がパラライズフロッグに当たると、放電をするのだ。
よって、何も知らずに近距離で攻撃すると麻痺状態になり、そのまま捕食されてしまうのだ。
「いたいた。あいつは一人でやらせてもらっていいか?」
「ああ、いいぞ。ダメそうなら直ぐにでも助けに入るからな」
誠は左腰の神剣を抜く――のではなく、ポーチに入った投げナイフを取り出す。
理由は今のレベルでは神剣で攻撃しても一撃では無いからだ。
10層まで魔物と戦ってきたことで確かにレベルは上がったが、まだレベル6になったばかりだ。
もしかすれば一撃で倒せるかもしれないが、今は少しでも危険があるならやる気はない。
誠は投げナイフをパラライズフロッグに向けて投げる。
銀の軌跡を描いたナイフはパラライズフロッグの横腹の辺りに突き刺さった。
「ギィィッ!」
そして攻撃が当たったことにより放電が始まる。
パラライズフロッグの周りにパチパチと黄色い線が走る。
待つこと数秒で放電が収まったことを確認し、誠は神剣を首と胴体を斬り離すように振る。
スっと肉が斬れる感触が剣から手に伝わってくる。
それだけでパラライズフロッグは声をあげることなく事切れる。
「見事だな、アマノ君」
「ありがとうございます」
騎士からの称賛をうける誠だが、既にパラライズフロッグの解体を始めていた。
魔物の素材というのは有用な物から、本当に要らないものまで多岐にわたる。
そしてこのパラライズフロッグからは良いものが取れる。
それは顔の頬にある麻痺袋だ。
文字通りの部位だが、これは使い方次第で麻痺回復のポーションになったり、逆に麻痺毒にもなる。
解体が終わった誠は麻痺袋を異界倉庫へ入れておく。
「このぐらいではアマノ君には問題にもならないか」
「本当に優秀だな、流石は『勇者』といったところか」
「そうでも無いですよ、ギリギリです」
騎士達とそんな会話をしつつ、迷宮を進んでいく。
時折遭遇する魔物は他の三人の騎士と連携して処理していく。
その過程で誠のレベルも6から13まで上がった。
ここまでレベルの上がりが早いのは誠の成長補正の値が高いからだ。
普通なら2.0ほどでも天才と呼ばれるくらいだが、あくまでそう呼ばれている人々の数値がそれくらいだと誠が知っているだけだ。
本来ならその成長補正を見ることは出来ないのだ。
そしてここにいる三人の騎士はレベル20後半で成長補正が1.2くらいだ。
騎士としては十分なスペックだが、誠と比べると既に能力値としては追い抜いてしまうくらいになっている。
ステータスだけ見るとこんな感じだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
天野 誠 【勇者】
HP420/444 MP262/262
レベル13
筋力267
体力289
耐久244
敏捷342
魔力320
魔耐308
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3倍以上の成長補正は伊達ではなく、能力値が恐ろしい速度で伸びている。
そして誠には数多くの技能がある。
――そろそろ大丈夫だろう。
そう思い、誠は一つ提案をする。
「訓練なんだから整備されてない道の方も行きませんか?」
「確かにそれは一理あるな。実戦では何が起こるかわからないという体験もしておくべきだろう」
「それなら丁度今いる十字路の右がそのようだ」
「ではそちらへ行きましょう。明かりは俺が」
「頼む」
誠は明かりのない道に入るため、初級の光魔法で明かりを作ることにする。
「【我が道を灯せ】『ライト』」
その魔法で誠の周囲に数個ほどの光の玉が現れる。
それはふわふわと漂い道を明るく照らす。
「それでは行こうか。これは一応アマノ君の訓練なのだから先頭を歩いてみるか?」
「ですね。そうさせてもらいます」
誠を先頭にして暗がりの道を照らして進む。
何度か魔物と戦闘になったが、問題は何も無かった。
というか騎士達が知らないだけで誠は【暗視】の技能を持っているから苦労とは無縁だった。
そして周囲から整備された道が見えないほど奥まで来ると行き止まりになっていた。
「道がない、か」
「一旦戻ろう。アマノ君、先頭を頼む」
ここでまた来た道を戻っていくことになった。
誠を先頭としてその後ろを騎士達がついてくる。
そしてその後ろは行き止まり。
「皆さん、本当にありがとうございます」
「なに、いいさ。勇者の為に働けるんだ。役得ってもんだ」
「本当だよ。アマノ君には期待しているよ」
「期待ですか。……でもそれには応えられそうにはありませんね」
「何を言って……」
ここで誠は騎士達の方へ振り返る。
――そして、明かりを消した
「何をするっ!明かりを消したら見えないではないか!」
「ええ、そうでしょうね。貴方達は、ですけどね」
「どういう事だ……アマノ!」
今まで君とか様とか付けていた騎士に呼び捨てにされて笑いが込み上げる。
そして騎士達が感情的になっている所へ油を注ぐ。
「おいおい、口調が乱れてるぞ?少しは冷静になって考えてみろよ」
「まさか……裏切る気かアマノ!」
「クハッ、ハハハッ!裏切る?先に裏切ったのはお前らだろう?……って言ってもこの世界のお前らには記憶が無いんだったな」
「何を言って……」
「今はそんな事気にしている場合じゃないだろう?」
ニヤニヤしながら三人の騎士を順に見ていく。
「さあどうする?前には俺、後ろは行き止まり。そして俺は敵だ」
「やるしかないですよ、アルさん」
「くっ……お前ら、戦闘準備!」
その一声で三人の騎士は剣を誠に向けて構える。
それを見て誠は薄く笑みを浮かべる。
「ようやくやる気になったか。こいよ、先手は譲ってやる」
「その言葉、後悔することになるぞっ!」




