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第2話 前夜

なんか色々説明足りてない感凄いのですがどうなのでしょうか......

「それじゃあ水と食糧からいっとくか」


 誠は王都に買い出しに出ていた。

 元々は他に騎士が数人ついてくるはずだったが、それは断ってきた。

 その方が何かと都合がいい。

 この買い出しは迷宮での訓練に備えたものでは無いからだ。

 なるべく見ている人は少ない方がいい。




「やっぱり異界倉庫は便利だ。量も大きさも気にしなくていいのがここまでとはな。これだけでもこのクソみたいなところにいた甲斐があった」


 誠の異界倉庫には既に最低一週間分の水と食糧が詰め込まれていた。

 しかし容量はまだまだ空いている……というか実質的に無限なのだ。


「次はポーション類と野営用の道具一式とロープ、解体用のナイフも必要だな。袋もあったほうがいいか。幸い金には困らないからな。あとは……親父のとこにも行ってみるか」


 そう呟き、次々と必要なものを揃えていく。

 ここまででも金貨1枚と少しといった具合だった。

 なるべく必要なものを揃えて、その上で金は残しておきたい。

 そう考えれば無駄に物を買うのは得策ではないが、見ておきたい顔があった。


「懐かしいな……」


 誠がやってきたのは王都にある武器屋だ。

 特に品揃えがいいと言うわけでも、掘り出し物があるという訳でもない武器屋。

 それでも誠はここには思い入れがあった。

 一度目の時には、装備の調整や足りないものの補充など何度も世話になった場所だ。

 それだけに一度は顔を見ておきたかった。

 次にここに来るのが何時になるかわからないから。


「いるか?」


 扉を開いて中に入ると鉄製と見える剣や槍、斧などが目に入ってくる。

 昔と変わらない時が流れていた。


「誰だお前は。何の用だ、ここはお前みたいなのが来るようなとこじゃねぇぞ。わかったら回れ右だ」

「それはないだろ……一応客だとは考えないのか?」

「おもしれぇ冗談だな、小僧。……ほれ、客だっていうなら振ってみろ。採点してやる」


 そう言って武器屋の店主は誠に一本の剣を渡してきた。

 何の変哲もないただの両刃直剣を手に取って感触を確かめる。

 ……何も 変わっていなくて安心するな。


「そんなに見たいならしっかり見とけよ?」


 誠は剣の握りを強め、構える。

 何度も何度も繰り返してきた動作を確認するようになぞっていく。

 上段に構えていた剣を袈裟、そのまま跳ね返すように左から右へ水平の軌跡を描く。

 この二太刀を見た武器屋の親父は「ほぅ」と感嘆したような声を漏らす。

 しかし誠は止まらない。

 逆袈裟で剣を上段に持っていき、両手持ちに切り替え唐竹を繰り出す。

 そこでようやく誠は動きを止める。


「どうだよ、満足か?」

「……お前、何者だ? そこまでの使い手ならこれまでに見たことがあるはずだが」

「あんたが思っているより世界は広いってことだよ、親父」

「こりゃ一本取られたな。間違いなくお前は客だよ」


 親父は笑って誠に近寄ってくる。


 ――良かった、変わってないみたいだ。


 誠も渡された剣を親父に返す。


「ご丁寧にどうもな。それで何がいるんだ? 見たところ全部足りてないように見えるが?」

「いや、剣と防具は大丈夫だ。それよりもその辺の小物を見繕ってくれないか」

「それなら……この辺はどうだ?」


 そう言って持ってきたのは剣帯と簡易ポーチ、薄手の指貫手袋だった。

 どれも見たことがあり、お世話になってきた装備の数々だ。


「やっぱりここに来て正解だったな」

「ん?なんかいったか?」

「ただの独り言だ。それで幾らだ?」

「要らねぇよ。久々に良いもん見せてもらったからな」

「こっちとしては節約できるならしときたいが……」


 それではあまりに親父に悪いと柄にもなく思ってしまう。

 そこで改めて店を見回す。

 手持ちは金貨1枚に満たない程度だが、ここで買い物をする程度なら大丈夫だろう。


「そこの短剣とそれの鞘、革鎧を一セット。

 あと、投擲用のナイフみたいなやつもあるか?」

「おう、あるぜ。つってもナイフの方は精々5本だったはずだが」

「いや、十分だ。幾らだ?」

「短剣と鞘で銀貨10枚とナイフは一本あたり銀貨1枚だ。革鎧の方は銀貨5枚ってとこだな」


 決して安いという訳では無いが高いという訳でもない。

 この世界の通貨は主に銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順で価値があり、銅貨が10円程の価値だとすると、そこから通貨が変わるごとに0が二つずつ増えていく感じである。

 ナイフを5本買うとして合計で銀貨20枚になる。

 これぐらいなら許容範囲内だ。


「わかった、ナイフは5本くれ。……ほら、足りてるか?」

「ひぃふぅみぃ……おい1枚多いぜ?」

「世話代って事で取っといてくれ」

「そりゃありがとよ。ちょっと待ってな」


 そう言って先に代金を置いてから物を持ってきた。


「着け方はわかるか?」

「大丈夫だ。そうだ、親父」

「なんだ?まだ何かあるのか?」

「そういう訳じゃ無いんだが……まぁ気をつけろよ」

「何に気をつけるんだよ……ほら、用がないなら帰れ」

「そうするよ」


 誠は武器屋を出て独り溜息をつく。

 結局言いたいことは言えなかった。

 でもそれでいいだろう。

 どうせ死ぬのはこの王国の兵士達だけだろうから。

 一度目では、誠が迷宮に訓練に行って王国に帰ってきた後に魔物の襲撃があった。

 しかしこれを初陣の誠を始めとする王国の兵士たちで撃退したのだ。

 その際の誠の功績は魔物の半数以上の殲滅だ。

 もし誠が今回その侵攻に参加出来ないとしたら王国には多数の犠牲者が出るだろう。


「でも流石に避難はしてくれるだろ。というか避難しなかった時の事は考えたくないな、あの親父に限っては」


 あの武器屋の親父は、誠が前回追われていた時も味方をする訳ではなかったが、平等に扱ってくれた数少ない人の一人だ。

 たとえ世界が違くても死んでは欲しくない人だった。


「兵士に限れば別に幾らでも死んでくれていいんだが」


 誠からしてみればこの国もこの世界も殆どが敵なのだ。

 それに末端まで一々殺して回っていたら流石に疲れる。

 だからこうして数が減ってくれるのは有難いとも思っていた。


「にしてももうこんな時間か。そろそろ城に戻って神剣の振り具合だけでも確認しとくか」


 空を見上げると既に茜色だった。

 王都には至る所に明かりが灯っている。

 暗くなる前に王城に帰って明日の準備をしよう。

 誠の足取りは軽かった。





 王城に帰った誠は夕食をとり、王女の元へ向かっていた。


「どうせなら防具の方も受け取っておくべきだったな。一日に二度もあいつと会って話すとか厄日か?」


 誠は買ってきた装備をつけての動きに慣れる為に訓練場に向かおうとしていたが、防具を受け取ってないことに気づいたのだ。

 あの防具は国宝級でミスリル製の魔法道具(マジックアイテム)なだけあって、防御力はさることながら特殊効果が凄まじい。

 付いている効果は【変形】【自動修復】だ。

 このお陰でサイズや形状が自由自在になり、整備要らずという何とも便利な性能なのだ。

 速度重視の誠のスタイルでは軽装備で良さを殺さないような装備を選ぶ必要がある。

 その点で言えばこの防具は何としてでも手に入れておきたかった。


「ついたか……天野だ。入っていいか?」

「ええ、どうぞ。アマノ様、どうかされましたか?」

「防具なんだが、今持っていくことは可能か?」

「この部屋に置いてあるので大丈夫ですが、何をするのですか?」

「ちょっと調整をな。万全で動けなければいくら装備が良くても意味が無い」

「なるほど、わかりました。それでしたらどうぞ」

「助かる」


 こうして誠は無事に防具を入手することに成功した。

 元々明日の朝に取りに来る予定だったが、特に怪しまれることは無いだろう。

 誠は手早く装備をつけて、訓練場へ向かうことにした。




「よしっ、いつものコートは無しだが大体いいだろ」


 誠のその姿は黒のインナーと革鎧、その上に胸元だけを覆う銀色のチェストプレート、下は黒のボトムス。

 そして左腰に神剣を下げ、ポーチを右腰の辺り下げて腰に短剣を装備している。

 勿論異界倉庫の指輪も右手の人差し指に装備して、殆ど一度目の世界での装備と同じである。

 闇色のコートを除いては、だが。

 あれは邪龍を討伐した時の素材で作った逸品で、薄い革製でありながら圧倒的な属性耐性と伸縮性を誇るのだ。

 欲を言えば欲しかったが、無いものをねだっても仕方がない。


「意外とそのまんまだな。親父の改良が入る前のやつだから若干使いづらい気がするがそれでも十分だ。その気になれば自分でも改造出来るしな」


 そしてこの装備のまま、感触を確かめるように剣を振る。

 それぞれの型を10回ずつ振ってみて、少しだけ休むことにする。

 空を見上げると星が輝いている。

 人工的な明かりが少ないからこそ星の明るさがよくわかる。

 その星の光はこれまでみたどんなものよりも綺麗に見えた。


「遂に明日だ。俺は俺の手で世界を変える、今回はもう迷わない、止まらない」


 誠は空へ手を伸ばし一際輝く星を握る。





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