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第13話 地上への帰還

読んでくれている方のことを考えたらエタった時の事は考えたくないな……と常々思いますが、見守っていただけると幸いですっ。

 無事にディアは『嫉妬』のレヴィアと契約を終え、地上へ戻ろうとしていたのだが――


「なんで転移石が使えないんだ……? あぁ、そういえばここって結界の中だったか」

「そうですよ。レヴィア、何とかならないですか」

(私もすっかり忘れていたわ。…………よし、これで結界は解除されているはずよ)


 どうやらここの結界はレヴィアの意思で解除出来たらしい。

 仮に解除出来なくとも入ってきた場所から戻れれば、転移石が使えるようになるのであまり問題ではなかったが。


「それなら早いとこ戻るぞ。やることは多いし何より早く寝たい」

「そうですね……でもマコト様は散々私の膝枕で寝ていませんでした?」

「安心の宿の柔らかベッドで寝るのとは別の話だ」

「……ならそういうことにしておきます」

「もういいか、じゃあ、帰るぞ。――転移、ダリア」


 手に握られた青色の石が光だし、魔力で目的地への経路(パス)を繋ぐ。

 ディアも同じように転移石を使い、二人は光へ消えていった。





「ふわぁぁ……光が眩しい…………」

「そうですね……夕方ですけど」


 迷宮から脱出した二人は久方振りの陽の光に照らされて、間の抜けた声をあげていた。

 中にいた時は砂時計で時間を見てはいたが、時折ひっくり返すのを忘れていて詳しい時間まではわからない。

 恐らくは2、3日程しか経っていないとは思うが、まず確かめた方がいいだろう。

 それと宿の確保だ、これは絶対である。

 安心安全の睡眠は数少ない誠の譲れないものだ。


「色々と行きたいとこもやりたいこともあるが、今日は休もう。それで明日の朝にでも行けばいいだろう」

「そうしましょう。それなら今日こそは私が食事を作りますね。迷宮では出来ませんでしたから」

「ん? そうか、ならそうしてもらおうかな」


 どうやら今日はディアが食事を作るようだ。

 少しだけ楽しみにしながら、誠達は宿へと向かった。


 泊まることになったのはこっちに来てから初日に来た宿だ。

 別のところでもよかったが、特に変える必要性もあるとは思えなかったのでここになった。


「あぁ……ベッドを見ると戻って来たって感じがあるな〜」

「だらしないですよ、私も寝るのにそんなにして」

「えっ? ベッドもう一つあるけど……」

「…………」


 この部屋はベッドは二つある部屋のはずだ。

 それなのにどうやらディアは一緒に寝る気満々だったようだ。

 さっきから酷いジト目で射殺さんばかりの視線が誠に突き刺さるが、こと睡眠に関しては誠も譲る気は無い。

 それに一緒に寝るとなると色々と面倒事も発生してしまうため、なるべくは避けたい。

 ……俺はチキンな訳では無い、草食系とそう呼んでくれ。


「いや、俺は睡眠に関しては誰にも邪魔させる気はないぞ。それがお前でも、だ」

「…………はぁ、仕方ないですね。マコト様は我儘の様なので別々に寝ることにします」

「いやそれはディアが……あぁー、もういいや。それで今日は何を作る気なんだ?」

「そうですね……まだ秘密です。少し買い物に行ってきますね、楽しみにしていてくださいね」

「そうか、それなら俺は冒険者ギルドの方に行ってくるかな。素材の換金とかは早めにやっておきたいからな」


 ディアの料理は時間がかかりそうなので、明日にしようと思っていた用事を先に済ませようとする。

 二人はそれぞれの目的のために暗くなりつつある街へ足を伸ばした。




 冒険者ギルドはどうやら込み合っているようだ。

 それ自体は仕方ない、元々この暗くなるくらいの時間は迷宮から戻って精算などをしている時間だ。

 そしてそのまま酒場へいってバカ騒ぎというのが大抵の冒険者……もとい馬鹿たちの過ごし方だ。

 どうにかその自分に酔った冒険者達に絡まれることなく用事を済ませたいと本当に思う誠である。


「あー、やっぱ混んでるよなぁ。やっぱり朝にするか? でもそれはそれで二度手間だしうーむ」


 多少待つくらいならそれでも良かったが、ここまでとはちょっと予想外だったのだ。

 あまりの騒々しさに耳が痛くなるのを堪えながらギルドの前で唸っていると、


「おい、あんたあの時の……」

「嘘、本物!?」

「お前らは……あれか、ヴァンパイア・スパイダーの時に逃げていた奴らか?」

「「「そうだよっ!」」」


 その三人は亡霊でも見るような目で誠を見ていた。

 ……正直少しだけ傷ついた、ぐすん。

 気持ちは分からないでもないが……だからその目はやめて欲しい。


「にしてもお前らも生きていたんだな」

「「「お前にだけは言われたくない!」」」

「……そろそろ辞めてくれマジで泣くぞ?」

「いや、スマン。あの時あんたも逃げるもんだと思ってたからちょっと心配だったんだよ」

「ねぇ、まさかと思うけどあんたヴァンパイア・スパイダーは……」

「そりゃあ斬ってきたけど、じゃなきゃここにいないだろ」

「「「………………」」」


 だからその死人を見るような目は辞めて欲しい。


「…………俺達ってこれでも金級(ゴールド)だよな?」

「そのはず……よね」

「……お前何者なんだよ」

「冒険者ってのは手の内を明かさないんじゃないのか?」

「それもそうだな、悪ぃ。その代わりなんか困ってることあったら言ってくれよ。この街じゃそこそこのランクだから何か力にはなれるかもしれねぇからよ」

「そうか、それなら素材の換金を済ませたいんだが時間が惜しくてな。受付の方と交渉頼めるか?」

「おう、それぐらいでいいならちょっと待ってな」


 どうやら三人の中でリーダー格と思われる男が交渉をしてくれるらしく、ギルドの雑踏の中へ消えていった。


「ちょっと悪いことしたかな……」

「そうでも無いわよ、強い冒険者とコネがあるってのは何かと使えるからね」

「あー、それは一理あるな」

「おーい、兄ちゃん。直ぐに換金できるようになる交渉してきたぜ、すぐでもいけるぞ」

「そうか、ありがとう。なら俺はいくよ、待たせてる人がいるからな」

「ん? それってあの可愛い子か? いいもんだなぁ、俺もあんな子と冒険したいもんだぜ――っいってぇ!」

「あんたねぇ、よくも私の前で言えたね……」

「いや、すまん、だから辞めてっ、痛てぇよ!」


 何やら内輪もめが発生しているようだが、こういうのには関わらない方がいいことを俺は知っているのでそそくさとギルドへ消えることにした。


「えっと、貴方が――」

「そうです、聞いているとは思いますけど素材の換金をお願いしても?」

「えぇ、わかりました。それで素材は?」

「今から出します、それなりに量があるので」


 そういって異界倉庫から大量の魔物の素材を取り出す。

 内容はパラライズフロッグの麻痺袋、ブラックサーペントの毒腺、ロックワームの目玉等々の素材になるものや討伐証明部位を山のように積み上げていく。

 そのままケルベロスの耳を出したあたりで受付嬢の顔色が変わってきた。

 普通は金級(ゴールド)程の冒険者くらいしか倒すことの出来ない魔物で、それがいくつも積み上がっているのだ。


「えっと……そろそろいいですか?」

「ん? まだあるにはあるけどいきなり出されても困るよな。取り敢えずここのやつだけでも頼めるか?」

「えっ、えぇ! わかりました、少々お待ちください!」


 やけにハキハキとした声で受付嬢はギルドの奥へ全速力で消えていった。


(やっべ、これミスったか……? 明らかに悪目立ちしたな、でも金は必要だからどうしようもない、か)


 面倒事を避ける為に目立ちたくはなかった誠だが、今となってはもう遅い。

 もう十分にギルドの中にいる冒険者の視線がこっちに向いているのを気づかないわけがない。

 それは必ずしも好意的なものばかりではなく、明らかに敵意を剥き出しにしたものや品定めのようなものも混ざっている。

 正しく冒険者という職業を体現しているような光景がそこにはあった。

 とはいえこの程度では蚊に刺された程度の気持ち悪さしかない。

 鼻歌を歌って待っていようかと思ったが、どうやらさっきの受付嬢が戻ってきたようだ。


「あっ、あの! こちらが納品と換金分の報酬になります。それとギルド証の提示をお願いします」

「ん、あぁ、そうか。……っと、これでいいか?」

「大丈夫で……って、え? 銅級(ブロンズ)ですか……?」

「悪いか」


 きっとこの受付嬢は俺の事を最低でも金級(ゴールド)以上だと思っていたのだろう。

 そのせいか銅色のギルド証を見せた時の反応は混乱しているのが手に取るようにわかるような様子だった。

 しかしそんな態度を取られれば流石の誠も機嫌を悪くする…………と思わせるために少し低い声で脅しをかける。


「い、いえ! ですがあのレベルの納品量と質なら直ぐにでも金級(ゴールド)に昇級出来ると思うのですが……」

「って言ってもまだパーティ登録もしてないしな」

「でしたらそちらも済ませていきますか?」

「なら頼む。メンバーは俺ともう一人、ディアって女の子だが」

「あぁ、あの変わった方ですか。わかりました、それでパーティ名はどうしますか?」

「そうだなー、じゃあ『ゴースト・ゴート』でお願いします」

「わかりました。それではお二人のギルド証を更新してきますので少々お待ちください」


 またまた受付嬢はギルドの奥へ戻っていった。

 いやはや、忙しいことだ。……仕事を作っているのはこっちなのだが、あまり気にしないでおこう。

 にしてもディアのことが名前だけで伝わるとは思っていなかった。それにあの口振りだと二人分のギルド証を更新してくれるのだろう。

 嬉しい誤算に頬を緩ませているとさっきの受付嬢が二枚の金色の板を持って帰ってきた。


「こちらがマコト様とディア様のギルド証になります。そして納品の報酬はこちらになります」

「助かるが、いきなり金級(ゴールド)にしてしまっていいのか?」

「寧ろあれだけの素材を納品する冒険者を銅級(ブロンズ)なんかにしておけませんから」

「そうか、ならいい。こったは……確かに受け取った」

「ありがとうございます。今後の活躍をご期待しております」


 報酬の入った袋と二枚の金色のギルド証を持って誠が立ち去ろうとすると、綺麗なお辞儀で送り出した。

 誠も軽く手を振ってギルドを後にする。


「あー、危ねぇ。妙に気がざわついて仕方なかったな、なんだこれ」

(それは契約の効果だろうな。魂と魂で結ばれるため、相互に感情が昂ると片方にも伝わってしまう)

「ってことはディアがなんかやってるってことだよな…………様子でも見に行ってみるか」


 時間は既に夜の闇が支配する時間だ。

 まだ冷たさの残る風を全身に浴びながら、誠はディアの元へ向かう。



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