第七話 驚くべき情報
放課後、飯田と共に一年の女子からうちの神社に関する噂話を聞きに行く。
わざわざ時間を作ってもらったので、購買部の横にある自販機で苺ミルクを三本買った。俺と飯田の分も含まれている。
仲良く苺ミルクを飲みながら、はなしを聞こうというわけだ。
指定された場所は、中庭のピンク色に塗られたベンチ。ちょうど今、明るい紫色の紫陽花が咲いていて綺麗だ。
男二人ベンチに座り、ぼんやりと紫陽花を眺める。
ふと、思い出す。ここは恋人同士で座ると、幸せになれるというジンクスがあった。
なぜ、俺は今、飯田と二人で座っているのだろうか。
すぐ隣に座った飯田から、距離を取ったところで話しかけられた。
「なあ、トム、ここの紫陽花ってさ、去年青だったよな?」
「いや、覚えてない」
「青だった。友達が写真撮って、彼女に見せるってスマホで撮影していたんだ。すげー悔しかったから、覚えてる」
飯田の友達は彼女に、中庭の紫陽花が綺麗だから今度二人で見に行こうとか、そういう内容の文章を読んでいたらしい。
「それがどうしたんだ?」
「いや、紫陽花の下に死体を埋めると、青から赤になるっていうじゃんか」
「ああ~、なんか、聞いたことがある」
土が酸性なら青、アルカリ性なら赤くなる。授業でも、そんな感じの話を聞いたことがあった。
火山大国である日本は、弱酸性の土が多いらしい。さらに雨が多い日本は、紫陽花のアルカリ性の成分を流してしまうようだ。そのため、青い紫陽花が多いのだとか。
「なあ、トム。あそこに、行方不明になった人が埋まっているとかないよな?」
「飯田。お前、サスペンスドラマの見過ぎだろう」
「だって、毎年青だったのに、いきなり赤くなるとか、おかしくないか?」
「まあ、それは確かに思うけれど、ありえないだろう」
死体が紫陽花を赤く染めているわけではない。
人の体内にあるリン酸と呼ばれるものが、青くなる成分の吸収を阻み、その結果紫陽花は赤く染まるらしい。
「もともと、紫陽花は赤い花らしい。いろんなものが吸収されて、青くなると。海外だと、赤いほうが多いんだとよ。色が固定されている紫陽花もあるから、一概には言えないんだろうけれど」
「へえ、そうなのか。トムは物知りだな」
「いや、授業中に聞いた話を、そのまま覚えていただけだよ」
「謙遜すんなよ、紫陽花博士」
そんな話をしているうちに、一年の女子がやってきた。
一人で来ると思っていたのに、三人でやってきたようだ。
「トム、苺ミルク三本用意しておいて、よかったな」
「まあ」
異性の先輩に呼び出されて、一人で来るわけがない。
俺が三年に呼び出された場合も、きっと友達についてきてくれと頼むだろう。
飯田のバイト仲間は、大人しそうな吉井さんという女子。一緒に来ていたのは、友達の増岡さんと萩山さん。
みんな、なんだか警戒している。
見知らぬ女子が来て、飯田は急に無口になった。
普段お喋りで、彼女欲しいを口癖にしているが、シャイなところがあるのだ。
猫を被った飯田氏に代わり、挨拶した。
「あ、ごめんね、突然呼び出して」
「いえ」
「俺、二年の水主村勉」
自己紹介すると、「知っています」と返された。
「一時期、二年に金髪碧眼の留学生がいるって、噂になっていたんです」
「あ~、よく言われる。っていうか、二年の奴でも、たまにいつ国に帰るんだ? なんて聞かれるし」
鉄板のネタを話すと、女の子たちはコロコロと笑い始めた。
警戒も、緩んだように思える。
「ここ座って。あとこれ、ほんの気持ち」
苺ミルクを差し出すと、嬉しそうに受け取ってくれた。
なんと言って話を始めようか。
飯田はまったく仕事をしてくれそうにない。
いきなり確信を突くのもどうかと思い、適当な話を振ってみた。
「今年の紫陽花、綺麗だよね。去年は青だったけれど」
「あ、そうですね。ここのピンクのベンチのジンクスに乗じて、お世話する園芸部が赤くなるように、アルカリ性の肥料を撒いたらしいです」
「ああ、なるほど」
これは赤くなるように、狙って咲かせた花らしい。
「綺麗な花が咲いているって噂になっていたのですが、ここは恋人同士で来る場所で、先輩たちがいたら気まずいかなと思って近づけなかったんです」
「なるほど。それで、今回の呼び出しに使ったと」
「す、すみません」
「大丈夫、大丈夫。俺も、飯田から面白い話を聞けたから」
紫陽花の下に死体が埋まっていると騒いでいた話をすると、クスクス笑われる。
「おい、トム! 話すなよ!」
飯田が突っ込むと、余計に笑われた。
空気が和んだところで、本題へと移る。
「それで、うちの神社の噂について、詳しく聞きたいんだけれど」
なぜ、一年の間だけで広まっていたのか。
その核心に迫る話を聞くことができた。
「噂はみんな大森さんから聞いたって人が多くて」
「大森さん?」
俺は頭上に疑問符を浮かべていたが、飯田はピンと来たようだ。
「飯田、大森さんって誰?」
「お前、大森歌恋を知らないのか?」
「知らない」
信じがたい、という目で見られる。大森歌恋とは、いったい誰なのか。
「一年に美少女が入学してきたって噂が、四月くらいにあったじゃんか!」
「初めて聞いた」
四月はじいさんが亡くなった月だったので、上の空だったのだろう。
続けて、驚くべき情報がもたらされる。
「今まで何人もの男子が告白して玉砕してきたのに、突然に二年の男子と付き合い始めたんだ」
「へえ~」
「聞いて驚くなよ? その幸せ過ぎる男の名は──山田修二だ」
「え!?」




