第十一話 エンキリ姉、降臨
十一、
世界ってものは広いのか狭いのか、俺にはわからない。
広いと思う人がいるのなら世界は広い。
狭いと思う人がいるのなら世界は狭い。
つまるところ、この世界の大きさを決めるのはその世界に住んでいる個人個人のものさしで決められるってことだろう。
俺?俺にとってこの世界は…………今、ものさしあてて考えてる途中ってところだ。
―――
「さぁ、今日も一日よくがんばった………あの退屈な数学の教師の時間を見事に耐えて見せた俺に皆、盛大な拍手を送ってくれ」
「…………霧耶さん、霧耶さんは早退しましたよね?」
「………焔華、お前の師匠はよくやった………そうだよな?」
「いえ、師匠………今日の師匠のがんばり具合は生まれたて小鹿以下だと思います」
そりゃそうだ、小鹿は生まれてすぐに立つ練習をしないと肉食獣に食べられちまうからな…………おっと、冷静な突込みを入れている場合ではない。
あれから………そう、残飯処理と思われるような行為を三人で終え、俺たちは俺、焔華、優の順番に風呂に入って風呂上りのまったりとしている時間を過ごしているのである。本当だったらこの時間は焔華と稽古をしている時間なのだが、姉さんについての予備知識が無い焔華には姉さんの取り扱いについて教えるという時間が必要だったのである。決してさぼりではないということを付け加えておこう。
「………して、師匠の姉上とはどういった方なのですか?」
「そりゃ、俺の姉さんだから………」
「………一言で言うなら変人ですね」
おいおい、優………それじゃ俺も変人みたいじゃないか?
「ああ、なるほど………」
焔華、俺を見て頷くな。俺から言わせたらお前ら二人とも変人だからな。
「ともかく、俺が不在のときに姉さんが来たら………まず、茶菓子とお茶を必ず準備しろよ?へたすりゃお前が食われるぞ、焔華。お前、おいしそうな感じだからな………」
「霧耶さん、変態ですね」
うん、実に夜に楽しみたいおいしそうな体つきだって……
「優、俺は残念ながら初対面の相手でも家から放り出すほどの図太い神経は持っていないが、適当なことをいうと明日の朝からの食事はインスタントになると心がけていてくれ………ともかく、食われるかもしれないから気をつけろとは優、お前にも言っておくぞ」
大真面目に告げる俺に優は
「わかりました」とだけ言って自室へと戻っていった。
それに対して焔華は首を傾げるしかないようだった。
「食われるって…………まさか、化け物か何かなのですか?エンキリなんですよね?」
「ま、れっきとしたエンキリなんだが………ちょっと特殊な感じでね………縁を切るのがエンキリなんだが………俺の姉さんは他人の縁を吸収するっていうありえん能力が付加されているんだ」
ゲームで言う特殊能力だろう。
まぁ、エンキリっていう能力も充分特殊能力だと思われがちなのだが、魔法使いだと思ってくれ。
連中は魔法を使って攻撃するが、それ自体は不思議なことじゃないだろう。だが、姉さんを魔法使いにするなら、まず攻撃して相手の体力を減らしたあとに一度に状態異常と姉さん自信の体力を回復した上に体力の最大限を上昇。さらに攻撃力や防御力なんかもあげちまうという勇者もびっくりなスキルを所持しているのである。
「正直、姉さんは恐いぞ………」
「そ、それほどとは………」
さらに、俺は姉さんの怖いところをあげることにした。敵と戦う前には相手の情報を押さえておくのは常識だろう。
「まず、部屋を散らかすな………ちょっとの間、一人暮らしをしていたんだが………半年後には役所とかテレビ局とかが姉さんの家に来てた。モザイクでテレビには出てたぞ」
「それって………散らかしすぎる人なんですよね?」
恐る恐るといった感じで聞いてくるが、俺は頷いた。
「ああ、ごみ屋敷に早代わり………どういったマジックでごみを増やすのかわからんが………一日に十キロ近くのごみを家に持ってくるんだ。これは恐ろしいぞ………」
「………ゴキとちゅ〜が夜中徘徊してそうですよね」
「いや、姉さんはそういうのが苦手というか、嫌いみたいでな………発見しだい、生体反応が消えるまで戦い始めるぞ………これまでの戦いの中で姉さんから逃げ切った連中は一匹もいない」
「………発見され次第、天国逝きか地獄逝きの列車に駆け込み乗車ということになるんですね?」
さらに徹底しているのが発見されたあとはゴキホイなどがゴキがあつまってそうなところにたくさん設置されていたりする。
「ま、そんなところだ………あと、どんなところでも生きていけると思う」
「と、いうと?」
「さっき俺たちが始末したあの真っ黒な炭みたいなものでも平気に食べる………てか、おいしそうに食べてくれるぞ?俺が小さい頃に初めて料理を作ったときに家族みんなに食べさせたんだが姉さんだけがおいしく食べてくれたからな………」
「へぇ、どんなゲテモノ料理でも大丈夫なんですか………すごいですね?けど、師匠はそこまで料理下手じゃありませんよね?むしろ、上手ですよ?」
誰だってはじめはへたくそなのだ。
「ま、そのおかげである程度まで料理が出来るということになったんだが………姉さんはカビが生えていようが、不思議なきのこが生えていても食べちまうからな」
「………本当にすごい人ですね」
「ああ、ある意味超人だ」
「けど、性格とかはいいんですよね?」
「性格か………」
姉さんの性格………それはちょっと掴みづらいところだろう。
「ま、人によって態度が変わるって言ったほうがいいだろうな」
「え、なんですか、それは?」
「自分に敵対する相手には厳しい………てか、修羅。自分に優しくする相手にはとことん甘える。ああ、先に言っておくが『おねがい、やって♪』とかそういうレベルじゃなくてまるで下僕扱いだな」
あ〜今思えばこうやって一人暮らし出来てほんとうによかったかもしれん………いや、焔華と優がいる時点で一人暮らしじゃねぇな。
俺が考え込んでいるとどうやら焔華も考え込んでいるようだった。
「う〜ん、実際に会ってみないとわかりませんね………ただ……」
「ただ………なんだ?」
「強いんですよね?」
「勿論だ、あれに勝つには鍛え抜かれた連中を一個師団持ってきて対等………いや、一国と対等に渡り合うかもしれん」
「へぇ、霧耶………あれって誰?」
「そりゃ、うちの姉さんだ………」
ベタだとは思うさ………だが、姉さんの特殊能力を忘れていた………
「こ、この人が?」
「ね、姉さん………」
「霧耶、先を続けてくれて結構よ」
大人びた顔に抜群のスタイル…………だが、何故か忍者の格好をしている………漆黒の髪の毛はポニーテールになっており、瞳は強い光をたたえている。
「焔華、紹介しよう………この人が俺の姉さん、縁切節佳だ」
「は、はじめまして………せ、拙者は……」
辺り一帯には禍々しいプレッシャー………焔華はそのプレッシャーに押されたのか、裏声で自己紹介を始めた。
「へぇ、焔華ちゃんか……いい手足となってくれそうでお姉さん、嬉しいわ♪」
「ど、どうも………」
姉さんは一言そういうと姉さんの自室へと引っ込んでいき、俺たち二人は立ちすくんだ。
「た、たっているのも大変だった………あれは敵にまわしたくない」
と語ったのは初対面の焔華の感想だ。
久しぶりの更新となりました。実は、この姉さんの話で縁切は終わりにしようかなって思っています。




