表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギレイの旅  作者: 千夜
6章
182/561

フロアキュール 儀礼の戦い4

 儀礼の言葉で男が激昂したのがわかった。力の限りに男が闇の剣を振るう。

ドラゴンという凶悪な魔物の魔力を込めた、魔剣『ダークソード』。

男の怒気に身を硬直させる儀礼に逃げる手立てはない。


 ガガン、という何かを砕くような衝撃音。

しかし、その剣が儀礼の体に触れることはなかった。薄っすらと紫色に輝く透明な壁に阻まれ、その黒い刃の方が消滅していた。

「ばかな……なぜっ」

男が信じられないとばかりに瞳を見開く。障壁すら切り裂く魔剣『ダークソード』の刃が、防がれただけでなく、消滅したのだ。


「一応、結界のような物を仕込んでたんですよ。成功みたいです」

破れた白衣の隙間から光を放つ宝石を取り出し、安堵したように儀礼は笑う。

「ワイバーンの瞳、だと。『翼竜の狩人』(あの女)か。だがこれは、古代遺産の魔剣だぞ! そんな物で……」

男が言い掛けた所で、儀礼の腕で、腕輪が光る。

「それは、『連撃』の力か!」

知る者になら分かる、極秘扱いのコルロの腕輪。そして、室内の計器が次々と異常を報せる音を鳴らす。

白い線が何本も、儀礼の腕を繋ぐ鎖を走る。

バリン。硬い物の弾ける音がして、鎖は粉々に砕け散った。


 散弾のような勢いで飛ぶ破片に、室内にいた研究者たちは倒れた。

痛みに呻く人々の声。

その中で、『闇の剣士』だけが無傷で立っていた。

男は刃の短くなった『ダークソード』を構える。

今の一撃で決められなかったことに、歯を噛み締めるようにして儀礼は覚悟を決めた。


「お前の味方は『双璧』だけではないと言う事か……お前、何者なんだ」

ようやくアーデスだけでなく、他の者までが儀礼に力を貸しているという事実に気付いた男。

「その質問、何度目です?」

冷や汗をかきながらも、余裕を見せるように笑う儀礼に、『闇の剣士』は片手で、その首を掴んだ。強い腕力が儀礼の気道を圧迫する。

「答える気がないなら、予定通り死体にして調べるまでだ!」

「ぐっ……」

息の止まるよりも先に、男の持つ黒い刃がそののど元を切り裂こうと襲い掛かる。 


 しかし、もう遅い。儀礼は自分を守る覚悟を決めたのだ。

儀礼の持つ武器も薬品も、ほとんどをこの男の最初の一撃で壊されていた。

銃を奪われ、腕輪の攻撃は避けられた。今、儀礼に残されている手段はわずかだった。

普段ふれない、背中側にあった武器。痺れや麻酔ではなく、確実に命を奪う毒の仕込まれた得物。

手の中に収まる小さなそれは、ボタンを押して針を刺すだけの簡単なものだった。

手の届く距離に男を捉えられれば、それでよかったのだ。手の中の武器はやはりあまりに軽い。


 その時、儀礼の足元に白く輝く転移陣が描き出された。

移転魔法ではない、溢れ出るほどの大量の魔力の流れ。

 ドドーン、ガラガラ……。

床や周囲の壁を壊し、アーデスが砂煙りの中に立っていた。

「教える必要もないがな、教えてやるなら、その方はSランクの研究者だ。俺達はただの護衛……」

アーデスが言えば、その後ろにワルツ達が見えてくる。

バクラムの姿はないが、外から建物を壊す時のような轟音が聞こえてきた。


「護衛、だと……」

アーデス達の出現と、その言葉にも驚いている『闇の剣士』に、アーデスは切りかかった。

目で追うことも難しい、容赦のない一撃。見て分かる即死の状態だった。

圧迫されていた首を開放され、力の抜けた儀礼の手から、小さな武器が転がり落ちる。

そのまま、アーデス達は室内にいた研究者達をも始末した。

コルロが何かを唱えれば、男達の遺体が蒸発したように消え去る。

口を閉ざしたまま、儀礼は目を見張る。目の前で人が死ぬことに、慣れていなかった。


「お前が気にする必要はない。こいつらは俺の情報を狙ってきた敵だ。『双璧』のアーデスとして相手をしたまで。俺にも守るべき物がある。お前ならわかるな、ギレイ」

男の死体が消えた場所を呆然と見ている儀礼にアーデスが言った。

襲われたのはアーデスの研究室。絶対不可侵のそこをアーデスは留守の間に好き放題に荒らされたのだ。

アーデスの怒りも、対応も正当な行為。


 狙われるとはそういう事。

いつか、儀礼も自分を狙って来た相手を殺さねばならない時が来る。

今までの様に捕らえるだけではどうしようもない、抑え切れない流れと言うものがある。

「でも……僕が捕まらなければ、あの男は死なずにすんだ。アーデス達はたくさんの人を殺さなくてもすんだ。僕はやっぱりまだ弱いんだよ」

分かってはいても、違う可能性が思い浮かぶだけに、自分の弱さが悔やまれる。


 儀礼が思うところ、『闇の剣士』にアーデスを追う必要などなかった。「アーデスに次ぐ実力」「アーデスには敵わない」と、世間に言われ続け、男は何かを勘違いしたのだろう。

アーデスとヤンの二重の障壁を破る、魔剣『ダークソード』を操り、何百もの人間があの男のために、犯罪という道にすら動いたのだ。

きっと、アーデスに動かせる人間は少ない。アーデスは人を認めない人間だからと、儀礼は感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ