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ギレイの旅  作者: 千夜
6章
175/561

召喚されし敵

 グオオオォ!

魔力を侵されたドラゴンが瞳を怒らせ口の奥に炎を溜めこむ。

「さぁ、もっとその炎、吹いてみろよ」

笑うように口の端を上げて、ワルツはドラゴンの顔に向かい走りこむ。

二度目の炎が、ドラゴンの口から巻き起こった。

しかし、ワルツはその炎の海をものともせず、ドラゴンの顔の前に辿り着くと、強大なハンマーを振り下ろした。

ガーン

硬い音がして、ドラゴンの顔が歪む。

グギューッ

唸るような、呻くような、小さな声がドラゴンののどもとで鳴った。


直後、ドラゴンの額にある怒れる瞳が見開かれる。

放たれた紫色の閃光に包まれ、ワルツの体が超低速移動に変わる。

「なっ……!」

一人、時の流れに乗り遅れたように、ワルツの動きはスローモーションとなり驚きの表情すら、遅れて表れる。

重力に抗うように浮いた片足は地に着かないまま、ワルツの体は思うように動かない。

今、顔を殴りつけたワルツの眼前でドラゴンが牙をむく。


「紫の瞳。現段階で全てを解き明かされていない属性か」

動けずにいるワルツと、三つの凶悪な眼を興味深く見つめ、剣に魔力を込めるアーデス。

「時、重力、または両方を内包するものか」

言いながら、アーデスは走り出す。

何かを唱えながら飛び上がれば、ドラゴンの額の瞳にその長い剣を突き刺す。

ギーィァーッ

全ての瞳を閉じて、ドラゴンは苦痛に暴れ回る。

跳ね回る巨体に巻き込まれぬよう、アーデスはすぐに剣を抜き取りドラゴンから距離を取る。


 紫の光が消え、ワルツの体にも自由が戻った。

「よっしゃ、動ける」

「ワルツ、下がれよ」

言うと、コルロが何かの詠唱を始める。

両腕の腕輪が一斉に輝きだし、ドラゴンの体の下に何かの陣が浮き上がった。

ドラゴンを囲むほどの大きな円の魔法陣。

「強制送還だ、家へ帰りな」

コルロの言葉と同時に、陣から様々な色の光が飛び出し、ドラゴンに襲い掛かる。

その光りが触れた部分から、つぎつぎと、ドラゴンの体が消えていく。

魔力により分解し、異界の地へ強制的に送り出す。

そこが、魔物たちの本来の住処と考える者と、まったく別の世界と言う者とがいるが、コルロに取ってはどちらでもいい。

その世界に行ったものは、ある手順を行えば呼び出すことが可能になるのだ。

貴重な存在を捕らえた事になる。


「異界閉鎖します」

コルロの呪文が終わりきる前に、ヤンがその扉を閉める作業を始める。

満身創痍のドラゴンの姿が消えていくと共に、端の方から地面の魔法陣が欠けていく。

他人の呪文に干渉する力。そして、壊さずに速度を速めるという補助。ありえない、とコルロは笑う。


「ん?」

コルロは足元を見た。

魔法陣の形がわずかに消え残っている。

しかし、コルロの作った陣は完全にヤンが消したはずだった。現にコルロは自分の魔法の力をもう感じてはいない。

では、これは何の陣の残りだろうか。


「おい、アーデス。これわかるか?」

コルロは記憶力のいいリーダーを呼ぶ。

「陣の残りだな。消えなかったのか? ……いや」

アーデスは目を細めてソレを見ると、真剣な顔で言い直した。

「違うな、これは復元されたようだ。おそらく以前使用された魔法陣に同じ形式部分があって、さっきの魔法に反応したんだろう。完全に消されていなかった陣の一部が呼び起こされたんだな」

その陣の欠片をアーデスは睨むように見る。


「どういう意味だよ」

ワルツが消え去ったドラゴンに戦闘態勢を解き、ハンマーを肩にかつぐ。

「以前に似たような魔法を使った奴がいて消し損じたものが、コルロの異界転送で魔力が流れ込み、見えるようになったんだろう、ってよ」

バクラムが説明する。

「はいはい、兄弟子さんはものしりだねぇ」

一人意味の分からなかったワルツが拗ねたように、ぶんぶん、と強大なハンマーを手首を利用して片手で回している。

ステッキやかさでやってる人なら、よく見るが……。


「誰かが異界へ魔物を送ったのか」

バクラムの言葉に、アーデスが口の端を上げた。

「この形状、見たことがある。この三つの文字が表す魔物は決まっている。そして、これは――」

「送った、じゃなくて『召喚した』だな」

その陣の欠片を見つめ、笑うアーデスの言葉を、同じように口元を歪めてコルロが継いだ。

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