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ギレイの旅  作者: 千夜
6章
172/561

解析装置起動

 儀礼とヤンが会話していた所へ、武器を持ち、鎧を装備したバクラムが入ってきた。

バクラムが鎧まで装備しているのは珍しい。鎧などなくても大抵の仕事はクリアできると言う。

「ヤン。至急で移転魔法のできる奴を集めてる。ここは俺が代わるから行ってやってくれ」

少し、早口でバクラムが言う。

「はい。わかりました。では、ギレイさんをお願いします」

行ってきますね、と言って軽い礼をすると、ヤンは白い光と共に消えた。

同じ拠点内の移動に移転魔法を使うほど、魔力に余裕があるのも、微細な着地点を測れるのもヤンぐらいらしい。


「バクラムさんも行かなくていいんですか? 僕は大丈夫ですよ。結界も張ってもらいましたし、入り口にトラップでも仕掛けて置きますし。稼ぎ時なんですよね、その格好」

儀礼はバクラムの鎧を指差す。


「気にするな。今、お前を一人にする方が危険だ」

真剣な顔でバクラムは言う。何か重大な事が起きつつあるのではないか。

儀礼は手を組むようにして穴兎へメッセージを送る。何か変わったことは起きていないか、と。


穴兎:“ノープロブレム”

問題なしと帰ってきた。

何もない、ではなく問題ない。儀礼には被害が及ばないと言うこと。

さらに詳しく穴兎に聞こうと思ったところで、アーデスが帰ってきた。儀礼はキーを押す指を止めた。


「手続きは終わった。取り敢えずお前を、と言うか、生きた者を入れることは非公開にしてきた。その方が、邪魔の入ることもないだろう」

言いながら、アーデスは装置の最終調整を開始している。

儀礼も、操作パネルに近付きその数値に異常がないことを確認する。


「ギレイ、俺以外にも黒鬼と戦った奴を見たのか?」


アーデスの手元を覗き込む儀礼に目を止め、アーデスが言った。冒険者の目。

黒鬼の情報が欲しいらしい、と儀礼は考える。

「見てません」

儀礼がそう答えるとアーデスは眉を寄せる。儀礼の言葉を信用してないらしい。

「黒鬼が本気で戦った後、生きた人は見てません。僕の知る限りで生存率0%です」

ようやく儀礼の言う意味を納得したらしく、アーデスは装置の操作に戻る。


「なるほど。借り、な」

アーデスの口の端が上がった。

儀礼は冷や汗を流し装置の上に戻る。つまり儀礼は『必ず死ぬ状況』にアーデスを送り込んだのだ。



「見られたくない機械の類いは外しておけよ。全部解析されちまうからな」

操作盤を操るアーデスの言葉に、少し考えてから儀礼は白衣を脱ぐ。

攻撃されない状況下にいるなら武器も防具も必要ない。

さらに考え、儀礼は色つきのモニターと指なし手袋を外して白衣に収納する。

「それ。何かあるって言ってるようなもんじゃないか」

アーデスが手で顔を隠し声を殺して笑い出した。

「ギレイ、お前そんなに素直で管理局でやっていけるのか?」

心配そうにバクラムが言う。


 儀礼は考える。この人たちは、儀礼の持つそういう物を守るために管理局からつけられた護衛ということになっているはずだ。

それともやはり、上位の研究員は管理局からつけられた護衛は信用しないものなのだろうか。

アーデスやバクラムにも知られたくはないが、存在を知られるのと、解析され全てを知られるのとでは大きな違いがある。

『アナザー』に繋がる道を彼らに知られてはいけない、と儀礼は判断した。



「それで、アーデスは行かなくていいの? 外の騒ぎ」

儀礼のいる研究室からでは外の騒ぎは聞こえない。

しかし、ワルツやコルロが呼び出され、ヤンに出動がかかった。

バクラムは鎧姿で、アーデスの手続きは予想以上に早かった。十分何かあることが分かる。

笑っていたアーデスの頬が僅かに引きつる。


 これは、儀礼には何かを隠そうとしていたらしい。お見通し、と小さな声で呟いて儀礼は笑う。

アーデスが諦めたように溜息を吐いた。

「いってらっしゃい。僕、寝てるから」

儀礼は枕を息で膨らませると、装置に寝転がる。

「そんなものを持ち込んで」

アーデスが完全に呆れたように儀礼を見る。今度は別の何かを諦めたようだ。


「装置に危険がある限り、私はここを離れられませんから。バクラム、もういいぞ。行って来い」

最終調整を終わらせて、アーデスがバクラムに言った。バクラムは頷くと研究室を出て行く。

「アーデスさんも行ってきていいですよ。何かあったらワルツに渡したスピーカーで呼びます。じゃ、僕6時間くらい寝るね」

小さなマイクをアーデスに見せると、儀礼は器用に足だけを使い両方の靴を脱ぐ。

それを装置の外に落とすと、儀礼はポケットから取り出した薄い布を布団代わりに被った。


「儀礼様、夜には程遠いですが」

幾人もの強人達が狂っていった機械に入り、儀礼は眠ろうという。図太い神経というより、もはや鋼鉄並だ。


「おやすみ」

アーデスの言葉は無視するように言って儀礼は目をつぶると、手探りで装置の蓋を閉めた。

ずっしりとした棺のように解析装置は閉じられ、動き出した。

はー、と息をつくと、アーデスはヤンの結界と障壁の上からさらに障壁と結界を張り二重にする。

そして、解析装置が正常に動き出し、内部に異常がないことを確認すると、フロアキュールを騒がせるその事件へと足を向けたのだった。

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