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ギレイの旅  作者: 千夜
6章
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儀礼を追う者達

「アーデスに借り作ったままだから……」

走りながら儀礼は言う。

黒鬼に追いつかれた時に、儀礼はアーデスに頼った。

しかも儀礼は、アーデスが自発的に来ることをわかってて、呼び出すことをしなかった。

さっさと返しておかなければ、後々何倍に膨れ上がるかわからない。

相手は世界レベルの冒険者で研究者だ。儀礼には、借りを命で払う気はない。


「借り、ありましたか?」

あごに手を当てアーデスは考えている。

儀礼が本気で走っていると言うのに余裕ある態度。

しかし、借りがないと計算されるのはまずい。

借りを返そうとしたそれで、儀礼は借りを作ることになる。

これだから、アーデスは食えない。


「じゃ、いいや。僕が黒鬼の情報流したってことで」

儀礼はそう言って、人通りのない方へ道を曲がる。さらに階段を下りれば完全に人気がなくなる。

「こんな所に何の用です、儀礼様?」

「あれ? アーデスこそ何の用? 僕はこの部屋借りただけ。荷物置きっぱなしだったから取りに来たんだ」

言って、儀礼は借りていた地下の研究室へ入る。当たり前のようにアーデスも続く。


「俺はここに預けていた資料を取りに来ただけだ。用はもう終わってる。追われてる護衛対象を一人で放っとくわけにもいかないだろ。黒獅子はどうした?」

「獅子ね。仕事に行った。噂のせいできっと大変なことになってると思うよ……」

儀礼は顔を背けるようにして言う。獅子に対しては朝、戦闘を強制終了させて逃げてきた負い目もある。

「何かしたんですね?」

ニヤリとアーデスが笑う。

「別に。……『光の剣』の力の話が広まると折角減った追跡者がまた増えるから。『黒鬼』の息子、黒獅子の力にしただけ」

儀礼は俯いて言う。その噂のせいで獅子が迷惑しているだろうことは確実だ。それは怒っているだろう。


「それで逃げ出そうって言うんですか?」

アーデスが研究室内にある備品の薬を並べかえている。そう言うのが気になるタイプのようだ。

「違うよ。獅子は怒っても仕方ないから。それよりちょっと邪魔されないで寝たいなって」

言いながら儀礼は荷物をまとめる。

ここも、さっきの連中にいつ突き止められるかわからないので出た方がいいだろう。

人気はないが、この部屋は窓もないので最悪の場合に逃げ出すのが難しい。


儀礼にしては、今朝は珍しく早く起きたし、探索や遠視の魔法の存在を知ってしまうと、腕輪の光が気になってあまり熟睡できない。


「場所くらい貸しますよ。それに、やっぱり切ってきましょうか?」

扉の外を睨むようにしてアーデスが言った。纏う空気が変わる。Aランクの冒険者の顔に。

「いいってば。人違いだもん。あいつら女の人探してたから」

儀礼は憮然として言う。間違えられたのも、それを言うのも嫌だった。笑われるから。

やっぱり。アーデスは口元を隠した。


 まあ、冗談はおいといても、最近本当にああいう連中が多い、と儀礼はため息を吐く。

どこから涌いて来るのか。

儀礼は研究室にいる時は常に結界を張るようにしていた。

難点は結界を張る間中、魔力を使うらしいこと。いつもより疲れるのが早くなる。

 もう一つ、儀礼には探索を切ることはできても、相手に反撃することはできない。

結界に触れた者に対しても同じ。コルロのように気絶させることはできなかった。


 儀礼を追っている者、その可能性を考える。

儀礼の持つ情報を狙う者、見た目からくる人身売買系。『シャーロット』なる人物と儀礼を勘違いするゼラードのような危険な玄人。穴兎によれば何者かによって、その人物の情報に儀礼の情報が上書きされたらしい。意味不明だ。

それから、儀礼を倒せば『勇者』の称号を本気でもらえると信じて、踊らされてる人達……。


 考えていて、片手の指では足りないことに気付いた。儀礼は考えるのをやめた。

儀礼は、いったいどれだけの人に追われているのか、雲隠れしたくなってもおかしくない。

生きている人間の入らない場所。装置の構造上、魔法で内部を覗くことも難しいらしい。

脱水症状に注意し、全細胞を分解されるような解析力を理解していれば、そこは儀礼には理想的な寝床のような気がしてきた。

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