表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギレイの旅  作者: 千夜
5章
160/561

アーデスを捕まえよう1

 ――それは、黒鬼とアーデスの対戦があった日の数日後のことだった。――


 いつもアーデスに上を行かれるワルツたち。

ワルツは昔はよくアーデスに奇襲をかけていた。

氷の谷でアーデスが物騒なことを言い出した時には、久し振りに闇討ちしようとも思ったが、やることが多かったのと、儀礼の行方を追うことの方が先だったので諦めた。


 しかし、ここ数日なぜかアーデスを捕まえようという作戦が持ち上がっていた。

誰が発案だったか、思い出せない。酒の勢いかなんかだった気がする。

最近のアーデスは生意気だとか、油断してる今なら簡単だとかなんとか。

そうして、ワルツ達アーデスのパーティは儀礼を引き込みアーデスを捕まえよう作戦を決行した。


 とりあえず、いくつも仕掛けを作っておいて、最終的にはアーデスを落とし穴に落として結界で囲ってしまおうみたいなことになった。

フロアキュールのアーデスの研究室前にはどこの遺跡だ、と言うような凶悪なトラップが並べられていた。

そのほとんどの仕掛けを儀礼が作った。「こんなもんでどうかな?」などとにっこりと笑って言った。

少女と見まごう可愛らしい見かけと違って、中身は相当に恐ろしい奴だ。


「巻き込まれると危険だから皆は研究室の中で待機してね」

などと儀礼がワルツ達に言うほどに、危険なのだ。

それ位しなければ捕まえることもできないアーデスもアーデスだが。


「アーデス様が来ました」

杖に白い光を宿らせて、ヤンが言う。

アーデスに感知されずに探索できるのはヤンぐらいだ。

それでもとてつもない集中力がいると言っていた。ヤンの額には汗が浮いている。


 しかし、ヤンがこの計画に加わったのも不思議だ。

アーデスに世話になっているヤンは普段、アーデスの邪魔になるようなことはしない。

アーデスに計画をばらした様子もないので本当に不思議で仕方がない。


 ワルツたちは言われたとおりアーデスの研究室内で待っている。

中には特殊な魔法陣が描かれており、この中にアーデスが入れば落とし穴が発動する。

この魔法陣の中にアーデスを落とすのがワルツとバクラムの仕事だ。

トラップ地獄からここまで追い詰められてきた、抜刀した状態のアーデスを叩き込む。

楽な仕事ではない。


 落とし穴と言っても本物の穴が床に開くわけではなく、別の場所に通じた穴ができるのだ。

まぁ、今回の仕掛けはそのつなげた先が本当に穴を掘った地面なので落とし穴で間違ってないのだが。

魔法障壁で囲ってある土地のため、簡単には抜け出せないだろう。

それで上から結界の蓋をしてしまえばアーデス捕獲成功だ。

何をしている、と言われても困る。本当にそれが目的なのだ。酒の勢いって恐ろしい。


 その後のこと? 考えていなかった。どうする気なのだろう。いつまでアーデスを結界で囲えるのか。

コルロとヤンの二人がかりなら、ワルツの逃げる時間位はあるだろう。


 廊下から、激しい爆発音のようなものが連続して聞こえてくる。

トラップによるものか、アーデスの魔法によるものかは分からない。

魔法で強化されているとはいえ、この様子ではフロアキュールの建物といえども壊れるのは間違いない。

後で盛大な改修工事が必要だろう。本当に、ここまでしてワルツたちは何をしようとしているのだろう。

ワルツの頬を冷たい汗が流れる。


「そういや、儀礼は?」

はっと気付き、ワルツはメンバーに呼びかける。

危険だから室内で待機しろ、と言った張本人がここにはいない。

どこで何をしているのか。

仕掛けだけして帰ったのだろうか? しかし、ヤンもコルロもずっとここにいる。

儀礼にはまだ転移陣の使い方を教えていない。その存在すら儀礼は知らないかもしれない。

なら、どこに? フロアキュールには気を抜けないAランクの冒険者が大勢居るのだ。


「ギレイさんは、アーデス様と一緒です」

ヤンが答える。まだ、探査魔法でアーデスを捉えているようだ。

「一緒って、大丈夫なのかよ、あの音。儀礼が仕掛けたんだけどさ」

廊下にはまだ爆発音と瓦礫の落ちるような破砕音が続いている。

「そろそろ来ます。準備は大丈夫ですか?」

ヤンが言う。その杖から白い光が消えた。今度は魔法陣の方へ意識を集中し始めた。


「いつでも」

ワルツは武器を構え、笑うように言う。

久しぶりに緊張する瞬間だ。こういう緊張はワルツを興奮させる。

獰猛な笑みがワルツの口元に浮かぶ。

「ほどほどにしろよ」

ワルツの兄弟子に当たるバクラムが言った。ワルツの武器よりも大きなハンマーを持っている。

魔獣も、魔物も、その大槌にかかれば柔らかい粘土の様にひしゃげてしまう。

本来、人間に向ける武器ではない。

「そっちもな」

笑ったままワルツは言った。


 破壊音が近付く。

 ドーンッ!!

揺れるような衝動を伴って、研究室の扉は破られた。

蹴破ったのは部屋の主であるアーデス。

ちりやほこりを被ってはいるものの、怪我をした様子は見られない。

「さすがだね」

ポツリと言い、ワルツは飛び出す。


 アーデスの剣をワルツがハンマーで受け止めれば、バクラムがアーデスの背に大槌を振るう。

透明な障壁に阻まれた大槌を再度バクラムは上から振り下ろす。

避けて交わそうとするアーデスに、ワルツは剣を払う勢いでハンマーに力を込め、後方の魔法陣へとアーデスを誘導する。


 宙に浮いたアーデスの体を、魔法陣から出た植物のつたが絡め取る。

コルロが出したそのつたの数、無数。あっという間に巨木に変わりアーデスの姿を飲み込む。

そのまま、ヤンが開いた落とし穴へ引きずり込む。


 しかし、瞬時に巨木が燃え上がるようにオレンジに光り、次いで粉々に砕け散った。

穴の中ではバチバチとイカズチのように、放出されたアーデスの魔力が暴れている。

穴が浅かったのか、巨木の魔力が足りなかったのか。

蓋が閉まる前にアーデスが障壁を破って上がって来ようとする。


「おいおい、やばいんじゃないか? 大丈夫か?」

現段階でワルツにできることはない。障壁を作る二人の魔法使いに任せる。

捕縛してないのに、逃げるわけにもいかず、出てきたアーデスを再度叩き込むためにワルツとバクラムは構える。


 その、警戒した二人の間をすり抜ける白い生き物。

強大なアーデスと言う相手に向き合うがために、背後にあったその小さな気配には誰もが完全に油断していた。


「皆、楽しみ過ぎ」

笑いながら、少年はアーデスのいる落とし穴へ自ら飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ