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ギレイの旅  作者: 千夜
5章
158/561

透明人間になったら

時間軸的には少し遡ったあたりの話です。

穴兎:“ギレイ、透明人間になったら何する?”

チラリと目に入った噂話から、穴兎は別方向へと話しかけた。


儀礼:“それは不可視になるってこと? それとも不可触状態にまでなるってこと?”

予想外の質問が返ってきた。不可触状態さわれないってなんだ。

幽体離脱とでも言うつもりだろうか。

穴兎:“不可視だな”


 穴兎が見た、元の噂ではその状態の話だったはずだ。

儀礼:“不可視ってことは、光の粒子を反射させて周囲に見えない状態を作るのか、光を完全に透す素材を……”

なんたら、かんたらと儀礼の講釈が始まる。


 単純に、他人に見えないって条件下での欲望の話しだってのに、別の方向に火がついてしまったようだ。

穴兎は今回の『蜃気楼』の情報収集を諦めた。



*********************


 所変わって、フロアキュールのアーデスの研究室。


 儀礼はそこへ来ていた。

今日はワルツや他の面々も居る。儀礼に危険はない、と儀礼は一人頷く。


「透明人間?」

なんだそれは、とワルツが言う。

「透明人間になったら何する? って、友達と話しでなって。僕じゃ相手にならないから他人に聞いて来いって言われた」


 ナゼ聞いて来い、なのか、儀礼には意味が分からない。そんなに重要だろうか。透明人間。

なり方が分かったって話ならいくらでも聞くが。その摂理は是非解析してみたい。

魔法でしかできないと言われたら、儀礼は一から魔法を勉強しなければならないが。


「友達って、黒獅子か?」

アーデスが聞いてくる。そこは予想済み。儀礼は顔色を変えない。

「ううん。ネットの。……大丈夫、向こうは僕の正体知らない」

アーデスが眉を動かしたので、儀礼は早口で安全性を継ぎ足した。いらないところで不審を抱かれるのは面倒だ。

友達と言い表したのが『アナザー』だとばれるのは危険。


「透明人間って言ったらあれか、どこでも入れるとか、人に見つからないってやつだろ」

コルロが言う。

「何するよ?」

ニヤニヤと笑ってコルロは言う。


「そんなら、あたしは妹の家でも覗いてくるかな。一回入ると出づらいんだよな。妹の旦那とか子供はあたしに怯えてるのに妹の奴、なかなか帰るって言わせてくんなくてさ」

ワルツが頭の後ろをかくように言う。

「妹の子の笑ってる顔、まだ一回も見てないんだよな」

溜息と共に言う。どれだけ怯えられてるんだ、と儀礼はワルツに見えないように苦笑した。


「ヤンは?」

コルロがヤンに振る。

「わ、私ですか? 私はその、そのっ」

慌てたように杖を握り締め、考えるようにヤンは瞳を左右に振る。

「見つからないのでしたら、動物の群れの中に……入ってみたいです」

恥ずかしそうに、顔を俯けそう言った。ヤンが何をそんなに照れているのか、儀礼には理解できず、首を傾げる。


「私っ、逃げられるんですっ」

泣きそうな顔で、ヤンは儀礼に訴えた。

「小さな鳥とか、猫とかは大丈夫なんですけど。草食の動物にはどういうわけか近づけなくて。のんびり草を食む鹿とか、羊とか象とかゆっくり見てみたいんです。遠視魔法でもダメなんです。逃げられちゃうんです」


儀礼には、理解できない世界だ。鹿ならわかる、敏感な生き物だ。しかし、小さな鳥や猫は大丈夫なのに、飼いならされた羊が逃げるのは理解不能。

やはり、ヤンさんワールドというものがあるのだろう。儀礼は無理矢理に納得した。


「そう言うコルロは?」

ワルツがコルロに振る。ニヤニヤ笑ってるから儀礼はわざと振らなかったのに。

「そりゃーなぁ、バクラム」

ニヤニヤ笑ってコルロがバクラムに振る。


「俺はうちの町の町長の裏帳簿だな。絶対怪しいところがあるのに、まったく証拠が掴めん。子供一人当たりいくら税金を取るつもりだ。少しも町の役に立たん。アーデス、お前うちの町長になれ」

腕を組み、顔をしかめたバクラムが言う。バクラムにはたくさんの子供がいる。生活がかかっているのだろう。

しかし、おかしな話になった。


「俺があそこの町長になってどうすんだよ。せめて領主ぐらいにならなきゃ根本的な解決にならないだろ」

呆れたようにアーデスが笑う。アーデスの普通の話し方が、儀礼には新鮮だった。


「儀礼はどうなんだよ」

何故か、イライラしたようにコルロが儀礼に言う。

「僕? えっと、アーデスならどの程度を透明人間、て定義する? ただ透明なだけ? でもそれじゃ、簡単に見つかるよね。気配あるし、臭いもあるし、魔力探索ってどの程度わかるの?」

儀礼はアーデスに振り換えた。


「そうだな。魔力の探索に引っかからないなら、最低限ステルス魔法が必要だな。体温、呼吸、心音、放出される魔力、物体としての質量……」

アーデスが腕を組んで、数えるように指を動かす。


 あーだ、こーだ、と儀礼とアーデスの間で長い話が始まった。


「お前らっ! もっと単純な話があるだろっ」

部屋の中を丸く囲うようにバチバチと黄色い電気のようなものが走った。コルロのつっこみは物騒だ。

「女湯を覗きたいとか、貴重な情報盗むとか、嫌な奴殴り飛ばしたいとか! 一般論を言え!」

コルロが叫んだ。一般論など言ってどうするのだろう。この質問は個人の意見を聞きたいのではないのだろうか? 儀礼は首を捻る。


 そんな犯罪を示唆することを言えば、儀礼やアーデスにその能力がないと言っても、世間に信じてもらえずあらぬ疑いをかけられるだけだ。


「覗きたいんですか? 女湯」

にたり、とアーデスが笑う。わが意を得たりみたいな。これは、コルロを嵌めるものだったらしい。

「ああそうなんだ」

儀礼もアーデスに便乗する。ふーん、と言ってコルロを見て笑ってみる。

「一般論だっ!」

怒ったコルロが叫んだ。


「入れてくれますけどねぇ。ねえ、儀礼様?」

アーデスが悪意ある爽やかな笑みを浮かべている。儀礼にも振ってくるとは。

しかし、儀礼はすでにコルロの怒りで涙目だ。


「連れ込まれて、逃げ出す方のが難しいんだ……」

泣きたい気持ちで儀礼は言った。「女湯はこっちだよ~」と言われて複数人に腕を掴まれ引き込まれ、違うと言って、散々説得して、やっと出て行けると思えば、「また来ていいよ~」などと言われるのだ。言われるのだ。言ってくるのだ。


 儀礼は流れ出た涙を袖で拭った。見えない人間ならば、引き込まれることもないかもしれない。

臭いや魔力で存在に気付かれてもいい。

『透明人間になりたい』。そう思う気持ちが儀礼にもようやくわかった。

なんだか最近少しアーデスを沈めてみたい気がしてきました……

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