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ギレイの旅  作者: 千夜
5章
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管理局からの呼び出し

 管理局から、儀礼に呼び出しがかかった。

近い日付けで本部の会議室に来て欲しいと。

その日、儀礼は特に予定が無かった。

行きたくはなかったが、それは延ばしても仕方がない予定。


 獅子は毎日仕事に行く。それについて行くか、管理局の仕事をするか。

睨みつけてくるBランクの冒険者達を思い浮かべる。

「管理局のがましかな」

考えるだけで涙が浮いてきそうだった。


 今日、本部に行くことを管理局の受付に連絡すれば、すぐに迎えの者が来た。

移転魔法の使える管理局の職員。スーツを着た女性が細い金属の杖を持っている。

「お迎えに上がりました」

ビシッとしていて、普通に仕事のできる人みたいだ。

魔法使いと言えば、ローブとか、ヤンの着てるみたいな魔女みたいな服だと思い込んでいた儀礼は少しがっかりした。


 コルロは普通っぽい服だけど、腕輪の数が普通じゃないからやっぱり変で、魔法使いっぽい、と勝手に儀礼は納得する。

「護衛の方は?」

営業文句のような硬い声でその女性が言う。

「今日は仕事でいません」

儀礼が答えれば、女性は変な顔をする。


「護衛の者がいなければ、危険ですので移転はできません。私では妨害に対処する力が足りませんので、護衛を手配してからまた、ご連絡ください」

丁寧な言葉遣いと、冷たい対応で、女性は白い光と共に消えていく。

やっぱり、スーツ着てても魔法使いなのかぁ、と儀礼は妙な納得をする。


「護衛、どうしよう? 獅子はもう行っちゃったしな。と、言うか呼び出しておいて連れて行けないってなんだよ……」

儀礼は膨れる。それを見ていたらしい受付けの女性が笑った。

ごまかすように、儀礼は笑う。


「すみません。護衛の手配ってどうしたらいいんでしょう?」

儀礼はその受付けの女性に聞いてみる。

「どのようなタイプの護衛でしょうか? ギルドに依頼すればすぐに手配可能ですよ」

にっこりと笑って女性は対応してくれる。言葉以上に、声が優しい。こういう方が、儀礼は好きだった。


「えっと、管理局の本部に連れて行ってもらえるような護衛ってどんな?」

たった今、それで断られたので、その条件で聞いてみる。

女性が笑顔のまま固まってしまった。

「あの……?」

儀礼は首を傾げてみる。女性の顔が一緒に傾げられた。ちょっと可愛い。

「えっと、その。本部、ですか?」

はっと、我に返ったように、女性が手元のパソコンを操作し始める。


 儀礼は腕輪が光っていないことを確認する。結構広い待合室だが、結界は作れているらしい。

そのうち、儀礼だけを囲えるサイズの結界を作りたい、と思う。これはなんだか疲れる気がした。

ついでに、腕輪で待合室周辺、次いで、管理局周辺を見る。今の所、不審者はいない。

昨日、獅子があらかた片付けてくれたようだ。

獅子は儀礼に何も報告しなかった。今までも、知らない間に、儀礼は獅子の世話になっていたのだろう。


「管理局本部に行くには管理局ランクAが最低条件になります。さらに護衛の条件ですと、やはり、冒険者ランクAが妥当かと。また、許可を持っていれば、移転魔法で入ることができますので、護衛の方に移転の技術があれば迎えを呼ぶ必要は無いようです」

受付けの女性はにっこりと笑って教えてくれた。優しい人だ。


「でもそれって、AAランクってことだよね。そんな人いるの?」

ここは大きな街なので、いるにはいるだろうが、儀礼の場合は信用できるかが問題なのだった。

「探してみますか?」

受付けの女性が首をかしげて問いかける。優しそうな笑顔に、用が無くても頼みたくなってしまう。

「うーん。どうしよう。でも、信用できないと困るから……」

儀礼は拳を口に当てる。ここで儀礼の名前を出すのは危険過ぎる。折角獅子が怪しい人を減らしてくれたのに、儀礼が増やしたのでは意味が無い。


「今までに本部に行ったことはないんですか? その時に一緒に行った人とか空いてるか確認することもできますよ」

受付けの声に儀礼の頬は引きつる。一緒に行った人。一番最初に思い出すべき儀礼の、管理局からつけられたことになっている護衛達だった。

彼らならきっと、その護衛としての条件に合っているのだろう。

そして、それは受付を通さなくても、メッセージ一つで呼び出すことができる。


 できるのだが、受付けの女性が、指示を待っている。

何かしたそうに待っている。目が合うと、またちょっと首をかしげた。

どうするっ、て感じだ。

「じゃぁ、探してください。えっとヤンさん」

儀礼は受付のカウンターに乗り出すようにして呼びかける。

受付けの女性が何故か目線を下げた。気のせいか、その頬が赤い。


「正式な名前は分かりますか?」

ヤンで検索して数が多すぎたらしい。モニターに大量の名前が並ぶ。

そんなにいるのか、AAランクのヤンさん。


「名前、そう言えばヤンさんの名前知らない。アーデスも知らないって言ってたもんな。二つ名じゃダメ?」

儀礼が首をかしげると、その女性も小さく首を傾げる。こういう鳥が居たなぁ、と思い儀礼は微笑む。

女性が照れたように笑った。やっぱり、面白い人だ。


「二つ名でも大丈夫ですよ。二つ名なら、同じ名を持つ人は居ませんから、より簡単に検索できます」

「誰でも出ちゃうの?」

簡単に検索できると言われ、儀礼は心配になる。これで儀礼を探されるなんて事もあるのだろうか。

「いえ、仕事ができるかどうかですので、登録している方だけになります。今は護衛の任務のできる人を探しているんですよ」


「そうなんだ。じゃぁ、『若き魔女』と『翼竜の狩人』」

儀礼が今、安心して護衛を任せられるのはその二人だけだ。

一昨日、呪いを掛けていった魔法使いと、人を切り刻もうとしてる偽騎士はお断りだ。バクラムはまだあまり会った事がない。見た目に反して優しそうな人だけど、儀礼を軽々と運ぶあたりに問題を感じる。

バクラムが、『持てる物は荷物』だと思っている気がするのは気のせいだろうか。


「『若き魔女の』ヤンさんは今は仕事中のようです。『翼竜の狩人』のワルツさんは護衛の任に就けるようですよ」

受付けの女性はまたにっこりと首を傾げる。

やはり、小さなきれいな鳥に似ている。ありがとう、と儀礼はにっこりと笑った。

「じゃぁ、ワルツさんにお願いしたいんですけど、どうしたらいいですか? ギルドに行けばいいですか?」

管理局の出口を指差して儀礼は聞く。

「以前護衛したことのある方に個人的に依頼するのでしたら、双方の了解があればギルドを通さなくてもできますよ。メッセージを送ってみますか?」

小鳥の色がさらに鮮やかな桜色に変わっている。きらきらと見つめる瞳がきれいで。


「じゃあ、お願いします」

儀礼は試しに小首を傾げてみる。女性も同じように小首を傾げる。

やっぱり、面白い人だ。

「管理局本部への護衛の依頼としてメッセージを送信しました。返事があるまでしばらくお待ちください。時間がかかる場合もございますので、席をはずしても大丈夫ですよ?」

にっこりと笑って、女性がまた小首を傾げる。よく見れば、首までがピンク色だ。

「それじゃあ、待ってますね」

儀礼もにっこりと笑って受付前の待合室のソファーを示した。そこでしばらく待つことにする。

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