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ギレイの旅  作者: 千夜
5章
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魔虫退治の儀礼編 白く光る腕輪

「冗談だよ、この腕輪と連携するような物が欲しい。さっき使って分かったろ、可能性はある」

まだ笑いながらコルロが言う。しかし、それはもうふざけた笑いではない。

「量産化しないと言う条件なら飲みます」

少し考えてから儀礼は答えた。コルロ一人が使うならいい。

しかし、それは恐ろしい魔法を、杖の代わりに銃という形で撃ちだす物。

それも、『連撃』と呼ばれるコルロの魔法速度を持って。

だいたい、まず魔法を銃の形にする必要はない。これはもう、ただのコルロの趣味だろう。


もちろん、とコルロは楽しそうに笑う。

「じゃぁ、僕にくれる腕輪はその実験用でもあるんですね」

「そうなるな」

紫のワイバーンの瞳と合うものをコルロがいくつか選び出し、ふむふむと二人で腕輪を見比べる。


「攻撃系のがいいですかね」

儀礼が言う。

撃ったら竜巻が起こるとか、撃たれた物が燃え出すとか、面白そうだ、と。


「補助でも面白いと思うけどな」

コルロは言う。

撃たれた人間が次々どこかに転送されるとか、撃ち出した弾が自動障壁になるとか、と。


 半分冗談のように言い合いながら、机の上に並んだ腕輪を選んでいると、一つの腕輪の上を通った儀礼の腕に何かが絡まった。白い、糸のようなもの。絹の糸のように細くて光っているようにも見える。

糸くずでも落ちていたか、とその糸の先を視線で追うと一つの腕輪に辿り着く。

銀色のバンドに白っぽい石が一つ。その石から糸が出ている。


「こういう機能が……?」

腕を動かしていいかも分からず、儀礼は硬直したようにしてコルロに尋ねる。

「ねぇよ」

コルロの声は笑ってはいなかった。引きつったような顔でその動く糸を見ている。


「魔力の塊だな、その糸。どうやらその腕輪がお前を気に入ったらしい。俺も初めて見る光景だ」

難しい顔をしてコルロはその腕輪を手に取る。

糸は石から伸びるように長くなり、儀礼の腕からは離れなかった。

「あ、僕その糸見たことあります。金属の武器使うとよく出てきますよ? 珍しいんですか?」

この間、ソードオブソードとか言う連中と戦ったときにも、ただの金属の網からその糸が出て敵を絡め取っていた。


 物心付いた頃にはそうだったので、そういう物だと儀礼は思っていた。

儀礼にその正体は分からなかったが、魔力の塊だったらしい。

精霊の力なのかもしれないな、と儀礼は思う。しかし、その全容が把握できない。

愛華や英とは違う存在なのかもしれない、と儀礼は考え、その腕輪に意識を戻す。

よく見れば、白い光を放ってはいるが、石自体は透明なようだ。


「それは何の効果があるんですか?」

「基本、補助だな。さっき言った探索の魔法を打ち消したり、この部屋くらいの小さい所なら結界で覆える。言ってみると、今のお前に一番必要な物かもな。ただ、アーデスとかヤンの探索はさすがに切れない。あいつらの移転魔法とか、探索の時には白く光り続ける」


「切れないんだ」

少し残念そうに儀礼はその腕輪を眺める。

「無理だな」

きっぱりとコルロは言った。

「でも、わかるならいいや。それ、本当に貰っていいんですか?」

儀礼は確かめるように聞く。


「ああ。むしろ俺はもうこれ持ってるのはイヤだな。呪われそうだ」

コルロは腕輪を儀礼に手渡す。

「そんな呪いのアイテム渡さないで下さい」

儀礼の顔が引きつる。


「いや、呪いじゃないよ。お前が持っていないと、俺が呪われそうだってこと。多分、ギレイが持ってる限りは悪いことは起こらないだろう」

儀礼は勇気を出し、腕輪を左の手首に通す。糸の消えた透明な石が、白く輝く。

 儀礼は袖をまくって、ぶかぶかの腕輪を持ち上げる。二の腕まで通った。腕輪は白く光っている。


 儀礼は腕輪から手を離して立ち上がる。腕輪は儀礼の腕からするりと抜け落ち、床に落ちる。

瞬時に白い糸が数本石から現れ儀礼の腕に駆け上る。


「……ちょっと怖いです」

儀礼は素直な気持ちを吐き出した。

コルロはゲラゲラと笑い出した。


 腕輪のサイズはすぐにコルロが直してくれた。コルロの腕輪自体、全てコルロの作ったものらしい。

魔法使いと言うか、職人だと儀礼は思った。


 そう言えば、儀礼の機械も簡単に理解したようだった。

もしかしたら、アーデスよりもこちらの分野に詳しいかもしれない。

気をつけなければ、と儀礼は緊張を新たにする。

 コルロの前では穴兎への連絡はしないことにしようと、儀礼は黒い指なし手袋を外す。

すでに、左手袋のキーにも気付かれているかもしれないが。

穴兎からのメッセージが来ても気付かれないよう、儀礼はモニターの電源も落とした。


 日が暮れる前に、残りの機械も鳥に付けてしまわなければならない。

次に来る群れが今日、最後のチャンスだろう。

いろいろ余計なことを挟んでしまったので、結局一人でやるより作業が遅れてしまっている。

いや、危険への対応ができたので実は充実していたか? 儀礼は心の中だけで首を捻る。


 窓の側まで歩いていき、儀礼は静かに外を見た。

何ができるの、と腕輪に問いかけるようにして儀礼は窓際で銃を構える。

腕輪の石が白く輝いた。

 たちまち、儀礼の視界が開ける。

離れた所から飛来する渡りの群れ、見えるはずもない上空からの景色。

広い、広い範囲。まるで、世界全てを覗けるような――。


「うわっ」

慌てて儀礼は銃を下ろす。儀礼の銃弾ではあんな距離には届かない。しかし、もしそれが魔法なら……。

儀礼は何か、恐ろしいものを作ろうとしているのではないか。

冷や汗を流しながら見た左手首では、白い光が色を消し、ただの透明な石と銀の腕輪に戻っていた。


 結局、儀礼は腕輪の力を使わずに残りの作業に没頭した。

最後の弾をつめた弾倉を銃に戻し、鳥を見定め引き金を引く。このチャンスを逃すわけにはいかない。


 なのに、腕輪が光っている。

白く、黄色く緑に、青く。さらには赤く光り、銃が勝手に炎を吹き出した。

「なるほど。ふむ」

何か言いながら、コルロはメモを取っている。

勝手に人を実験台にしてデータを取るのは止めて欲しい。儀礼は本気でそう思った。


 儀礼はそっと腕輪を外す。窓枠に置き、銃を構える。

置かれた腕輪から白い糸が大量に発生し、儀礼の手首に絡まる。気付けば、儀礼の左手首に腕輪は装着されていた。

「これほんとに呪われて……」

「いや、悪い。俺が作って、俺が使ってた物だが本気でわかんねぇ。ま、頑張れよ」

じゃっ。と笑いながら片手を挙げ、コルロは白い光と共に帰って行った。


 アーデスほどでないにしても、やはり油断できない人物だと儀礼は心に刻み込んだ。

なんだか儀礼は、一日で物凄く疲れた気分だった。

これなら、同じ護衛でもワルツやヤンが側にいる方がずっといい。

次にコルロが来た時には丁重にお断りしよう、と儀礼は作戦を練り始めた。


 やることが一気に増えて儀礼は本当に忙しい。

儀礼は管理局で最初にやろうとしたことをすっかり忘れていたのだった。

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