表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギレイの旅  作者: 千夜
5章
138/561

魔虫の大量発生7

 そして翌日。ギルドには魔虫討伐の依頼が追加されていた。

大量発生した魔虫にさすがに町の人も手を焼いたらしい。

魔虫自体はランクが低いため、依頼のランクはDだ。


 獅子と儀礼はその依頼を請けることにした。儀礼がいれば楽勝だ、と獅子はにやりと笑う。

だが、またしてもあのパーティの連中が割り込んできた。

「黒獅子! 頼む、俺達も連れて行ってくれ。絶対に、そんな奴よりは役に立つから」

重剣士の男が顔の前で両手を組み、祈るようにして獅子に近寄ってきた。


 獅子は無意識に数歩下がる。

ひどいことを言われているのに、儀礼は吹き出すように笑っていた。

「懐かれたね」

口元を拳で隠し、笑いを隠すようにして儀礼が言った。

これを懐かれたと言うのか、獅子にはわからない。


「昨日のことは本当に反省しているの。私達にチャンスをちょうだいっ」

弓使いの女性が目立つギルドの受付け前で跪くように獅子の前に座る。

儀礼が部屋の隅まで行き、声を抑えたまま腹を抱えて笑っている。

「ええい、やめろっ!」

獅子は腕を振り払うようにして怒鳴る。

これでは恥をかくだけでいい迷惑だ。


「儀礼が一緒でいいなら、お前らも請けてくりゃいいだろっ」

途端に、その連中が儀礼を睨み、儀礼の笑いが止まった。目障りだったのでちょっとすっとした。

「あいつが一緒じゃなきゃ、俺は行かねぇよ」

儀礼がまた断り出す前に、獅子は先に言っておく。

この仕事は儀礼を頼りに請けたのだ。儀礼がいないなら面倒なだけの仕事になる。

「わかった。黒獅子にも事情があるのだろう。俺達は黒獅子と一緒に仕事ができるならそれでいい」

鎖を肩に巻いた男が言う。こいつが、このパーティのリーダーらしかった。

そうして、獅子と儀礼は熱心に『黒獅子』を慕ってくるパーティのメンバーと、魔虫討伐依頼を請けることになった。


 その5人は森の中を歩きながらも、何かと獅子に話しかけてくる。

それを獅子は適当に流しながら昨日見つけた森の中心部にある魔虫の巣へと向かう。


「じゃ、儀礼。軽くやっちまってくれ」

焼け爛れた森の中心部まで歩いて来ると、獅子はにやにやと笑いながら儀礼に言う。

それは獅子にとってはとても楽しみないたずらだった。

何故獅子がこんなに上機嫌なのか、儀礼にはわからないだろう。


 ついてきたパーティメンバーの邪魔だという苛立ちの気配に、儀礼はずっと体を強張らせながらここまで歩いてきていた。

おとといの魔獣討伐に行くのを儀礼が断った時に獅子が怒ったので、今回は参加したからだ、とか思っているかもしれない。


 昨日獅子は、魔虫は退治はせず、追い払っただけだ。

猿型の魔獣の群れは壊滅させたが、魔虫に関してはその場凌ぎなだけで数はほとんど減っていない。

「じゃ、ハンカチで口を塞いでください」

緊迫感も何もなく儀礼は一緒に来たメンバーに言う。

その笑顔がまた、討伐の仕事に来たとは思えないほどのんきなのだ。

 獅子が剣の効果を発動しているので、ここまで魔虫に襲われることはなかった。

それでも他のメンバーからすれば非常識な態度なのだろう。

儀礼が作業を始めるようなので、獅子は剣に闘気を送るのをやめる。


「何を偉そうに」

みたいな事を言っているが、獅子が素直に口を塞げば、仕方なくというように真似をする。

(いっそ、ハンカチさせないでこいつらが、ぶっ倒れるとこ見るのも面白そうなんだけどな)

口元を隠して獅子は笑う。

全員が口をハンカチで覆ったのを確認して、儀礼はポケットに手を入れた。

何かのスイッチが中にあるのだろう。


 プシュー

盛大な音と共に、大量の白い煙が出現した。それも、儀礼の周りだけでなく、森中から。

辺り一面が霧に覆われたようになる。さすがに獅子も驚いた。

それを目線で読み取った儀礼がにこりと笑って答える。

「来る途中の道と、飛んでる鳥にも付けといたんだ。鳥には昨日のうちにね。うまいこと森中に散ってくれたよ」

儀礼は煙の出ている一円玉ほどの小さな機械を指し示す。

それは、一昨日獅子が儀礼にアドバイスを求めた時に、儀礼が調整していた機械。

その時には、この魔虫対策をしていたことになる。


 討伐に来たメンバーに襲い掛かってきていた魔虫が、ぽたりぽとりと地面に落ちていく。

1分もかからずに、全てが終わっていた。煙が噴出すのが止まり、辺りから霧が晴れる。

儀礼がハンカチを口から外した。

「ほとんど聖水の効果だから、害はないはずだよ。あ、でも魔物は出にくくなるかも。冒険者の仕事減らしちゃったかな」

ちょっと困ったと言う感じに笑う儀礼。

「料理焦がしちゃった」などと言っている少女と変わらない。

それも、顔は愛らしいと言える美少女。


 参加したパーティメンバーの驚きよう。顔色を失くして困っている。

獅子は気付かれないようハンカチの下で笑う。


「大丈夫ですか? もしかして気分悪くなったりしましたか?」

動かないパーティの面々を心配して、気遣うように言う儀礼。

焦った様子から見ると、自分の機械がまた人を傷つけた、とでも思っているのかもしれない。

大きく首を横に振るメンバー達。

安心したように、本当に嬉しそうに儀礼は笑う。

それを見た全員の顔が真っ赤に染まる。男女共に、だ。

(ああ、大声で笑いてえー!)

獅子は心の中で叫ぶ。


「獅子、みんな大丈夫そうだし、仕事終わりだよ。帰ろっか」

何事もなかったように儀礼は言う。たぶん、奴らの変化にも気付いてない。

帰りの道へ向かう儀礼の足取りが軽くなったところを見ると、きっと「仕事が楽に終わって機嫌良くなったのかな、皆から怒気が消えたー」なんて喜んでいるのだろう。

(ランクがDだってだけでバカにした連中。さあ、思い知れこの破壊力)


 にやけてしまう顔を見られないよう、獅子は高い木の上を行く。

心なしか、燃え残った木から生命力のようなものを感じる。

そして、本当に魔獣まで減っているようで、見回しても小さな邪気すらない。


 それをやった当人は周りの景色を見ながら紅葉狩りの気分らしい。

あまりに能天気だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ