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ギレイの旅  作者: 千夜
5章
134/561

魔虫の大量発生3

翌日、儀礼のアドバイスを受けた獅子は昨日のパーティと共に再び魔獣退治の仕事に出た。

獅子は森の中を歩きながら儀礼に言われたことを思い出す。

いつの間にか使うのが当たり前になっていた背中の剣。

その重みを感じて、まだ一つ、獅子には気になることがあった。

昨日の、会話の最後の儀礼の含みのある笑い。あれは絶対何かを考えている。


 そう思いながら獅子は手近な木に飛び乗る。

他のメンバーが歩くのに合わせ、その木の上からまた次の木へ。


 あの儀礼の笑いは、きっと『光の剣を使えばもっとうまいやり方があるけど、黙ってよう』とか、そんな感じだった。

いつも儀礼の思考は獅子のずっと先を行く。

 しかし、それだけ頭が良くて中身が昔から変わらない気がするのは何故だろうとも思う。


 周りの景色に、森の中にいたことを思い出し、獅子は狭まっていた意識を広げると、それが普通の移動であるかのようにまた木の幹を飛び移っていく。

実際、考え事をしていた獅子が木の上に飛び乗ったのはほとんど無意識の行動だった。



 それを見た他の冒険者たちはぽかんと口を開ける。

黒髪黒マントの少年がただ者ではないとようやく気付いたようだった。



 さっそく、昨日の魔虫の大群が獅子達に襲い掛かってきた。獅子は背中から光の剣を抜く。

儀礼に言われた通り、剣に闘気を送り込む。

剣が白く輝き出せば、魔虫達はそれを恐れたように、一定距離以上近付いてこない。

 さらに獅子は剣に気を込める。

煩わしい羽の音を鳴らす大量の魔虫を意識し睨みつける。何故か心の中で、捉えたという実感がわく。

 口端を上げて獅子はそれを口にする。


「『去れ』」


たったそれだけ。

それだけで、魔虫たちが一斉にどこかへと凄い速さで飛んで行った。

昨日、獅子が追い掛け回したその速度。

 やはり、本気で魔虫が逃げているところを獅子が追いかけ回したらしい。


「な、何をしたの……?」

赤茶色の髪の女性が呆然と獅子を見上げている。

何を、と言われても獅子にはよくわからない。儀礼に言われた通りにやってみただけだ。

 強いて言うなら、剣の力か。

「魔虫の追っ払い方はわかった。仕事始めようぜ」

木の上から声をかけ、獅子は落ち葉に埋まる地面に降り立つ。


 ふわりとしたその感触も、懐かしい。村に居た頃は周り中が森だった。

そこを庭のように駆け回り、道場の友人達と腕を試すように魔獣を狩りに出かけた。

その頃は武器を持たないことに困ったことなどなかった。


「あっちにいるな」

周辺の木を見回し、獅子達の気配を察して逃げた魔獣の邪気を察知する。

2時の方角を睨み、獅子は言った。

また逃げられては面倒なので獅子は自分の気配を消す。

「付いて来れるなら来い。一日予定が遅れてるからな、早く終わらせたい。遠慮はしないぞ」

一応、パーティーのメンバーに断っておく。


 あんまり儀礼を一人で放っておくとだめな生活を送る。

管理局の研究室で倒れていたのだって、一度や二度じゃない。本人は寝ていただけだと言い張るのだが。


 儀礼の借りている部屋を特定するのは意外と簡単だ。

まず、受付がその部屋番号をやたらと気にしている。

そりゃ、Sランクなんかが入ってくれば普通ではいられないだろうな。

次に、ドアや窓の前に人だかりができ、中を覗こうとしている。

研究室は極秘事項も扱うから覗き込むのも違反らしいのだが、とてもよくいる。


 窓の外には、でっかい布袋持った怪しい二人組ってのもよく居る。

毎回人は違うのだが。そういう奴は二人組で動くのが決まりなのだろうか?


 一番やばいのは、視界に入らない距離からずっとその部屋を観察している奴だ。

殺気を持ってたり、武器を持ってたりはまちまちだが、儀礼が狙われる立場にいると言うことはわかった。

そういうのを倒して、研究室の中に様子を見に行くと、儀礼は大抵床に眠りこけている。

叩き起こせば何事もなかった様に、「あ、獅子おはよう」だ。暢気すぎる。

おそらく、儀礼の持つ何かを狙ってきた連中にそれを渡さないために、儀礼は短期間で何かの仕事を終わらせようとしているのだと思う。


 しかし……、まったく理解できない分野なために、手伝えない自分が獅子は歯がゆい。

あいつを、Sランクの位置に一人で置き続けてはいけない。焦燥感が、木の上を走る獅子の脚を速める。


 気付けば、一緒に来たパーティのメンバーをかなり引き離していた。

「あ。ま、いいか。断ったし」

連中の気配は騒がしい。

しゃべったりするわけではないのだが、そこそこに強さがあるからこそ気配が強い。

それを、隠そうともしないから、今回の猿型魔獣のように気配に敏感で賢さのあるタイプにはうまいこと逃げられる。


 まず、足音を消せと獅子は思う。枯葉の上だって、もう少し静かに歩けるはずだ。

事実、獅子は足音をさせない。儀礼だって、それ位はやる。

Dランクに負けてどうする、お前ら。と思うが、逆なのかもしれない。

儀礼にBランクの実力があるのではないか。


――――「朝ごはん、いらなーい」「やだ、まだ寝る~」

 「ん~、これ終わったら寝るから……明日の朝には」――――


だめだ、あいつをBランクの冒険者としては見れない。

確実に世間から反感を買う。Dランクの今以上に。


 がしがしと獅子は頭をかく。

その不要な行動で、獅子はようやく追いついた標的の魔獣に気付かれてしまった。

慌てたように甲高い鳴き声を上げ、木の上を散っていく猿の様な魔獣。

猿型とは言うが、頭は狼や狐の方が似ていた。

鳴き声を上げる口には鋭い牙があり、頭の上に尖った耳がついている。

その体は全身茶色く太い毛に覆われ、猿のように長い手足、木の枝を掴んで移動できる長い指。

その指の先にはまた、黒く鋭い爪がついている。

明らかに、肉食の魔獣である。


 しかし、獅子にとってはこの程度の魔獣、視野に入れば相手が木々を伝って逃げ出そうが問題はない。

そこはすでに、獅子の間合いだった。

獅子は速度を上げる。

木々の間を跳びながら、剣に闘気を送り込めば、それはすべるように滑らかに、狙った魔獣を切り倒す。

獅子は次々と木の上にいる魔獣の体を切り裂いていった。

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