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ギレイの旅  作者: 千夜
5章
133/561

魔虫の大量発生2

 宿で借りた部屋の中、ベッドの上に胡坐をかき、獅子は腹立たしさのあまりに、儀礼の前で、昼間の森での出来事を愚痴る。

そして、ベッドの横で機械をいじっていた儀礼はその怒気に固まっていた。


 実はその魔獣退治に出る前にギルドでひと悶着あったのだ。

儀礼と獅子の二人でその魔獣退治の依頼に行こうとしていたら、別のパーティから譲ってくれないか、と申し出があった。

譲るも何も一緒に行けばいいだけなのだが、彼らの目が儀礼に留まっているのに気付いた。


 獅子の冒険者ランクはB。儀礼の冒険者ランクはD。

パーティランクはBになっていた。

今回の依頼はランクB。パーティとして受けた二人に問題はないのに、ありえない、ずるをしている、そういう目が儀礼を睨む。


「私達、パーティでAランク目指してるの。冒険者やるんだったら、人の力なんか当てにしないで、自分に見合ったランクの仕事して実力をつけなさいよ」

それがいい男よなどと続けて、赤茶色の長い髪をした女性が儀礼に向かって言う。気の強い感じはするが、その少しつりあがった目は印象的だ。美人の部類に入るのだろう。


「そうね。自分の力が上がらないと、ランクだけ上がっても後で苦労するわよ」

明るい金色の髪でおっとりしたイメージの弓矢を背負う女性が優しそうに言うが、その言葉には咎めるものが含まれている。

儀礼が、獅子の力を当てにして自分のランクを上げようとしていると思ったようだ。

実際には、獅子の経験からすると、儀礼は獅子を上に仕立て、自分の姿を消そうとしている気もするのだが。


「お前、一人でBランクの魔獣倒せるのか? いきなり襲われたらどうする」

がたいのいい男が自分の盾を手の平で叩きながら言う。自分の身を守れるのか、と言うことだろう。

白衣に身を包む儀礼には、盾を持つ力があるようには見えない。


「今回はBランクの魔獣がたくさん出るんだぞ。Dランクの冒険者なんか入っちゃいけない。町の人にも警戒するよう言われてるんだぞ」

ぐるぐると巻いた鎖を肩にかけた男が言う。この男も力のありそうな筋骨たくましい体をしている。


「その顔、傷つけたら親御さん悲しむんじゃないか?」

背の高い男が、背中を曲げるようにして、儀礼の顔を覗き込む。儀礼の顔が引きつった。

しかし、儀礼に何かを言い返そうとする気配はない。

 自分の思い込みだけでものを言う連中に、獅子の中には怒りが湧いてくると言うのに。


「じゃぁさ、獅子。僕、管理局の仕事やってるから、獅子だけ行ってきたら? どうせ僕はたいして役に立たないし」

割り込んできた連中に遠慮したように両手の平を前に向け、儀礼が獅子を見て言う。

引きつったような笑顔に、額には冷や汗を浮かせている。

今も儀礼を睨み続けるパーティのメンバー。

あんな怒気の塊の中に儀礼はいたくもないのだろうが、そんな儀礼の態度にまた獅子は苛立つ。

堂々としていればいいのに、と。


 そうして結局そのパーティの奴らと魔獣退治の仕事に出たのだが、あのざまだ。

魔獣退治の前に連中が魔虫にやられて帰って来た。



「何かいい方法ないのか?」

獅子はベッドの上で胡坐をかいたまま、床に座り込む儀礼に聞く。

目を向けてみれば、儀礼が硬直しているようだったので仕方なく獅子は大きく息を吐き、怒りを納めた。


 獅子が予定より早い時間に仕事から戻ると、管理局に行ったはずの儀礼は宿にいた。

そう言えば儀礼は昨日は管理局から帰ってこず、今朝早くに帰ってきていたので、一日宿で寝ていたのかもしれない。

また時間を無視する奴め、この様子だと昼飯も食べていないだろう、と獅子は確信する。


 儀礼は床の上にたくさんの機器や道具を並べ、大量の小さい機械を調整していた。

丸っこくて小さいその機械が何で、儀礼が何をしているのか、獅子にはさっぱりわからない。

 しかし、地べたの好きな奴だな、と獅子は思う。

本を読む時も、機械をいじる時も儀礼はよく床に座り込む。

他人の家の前に座り込んで本を読んでた時にはさすがに呆れた。


「そんなの簡単でしょ」

硬直の解けた儀礼が顔を上げて獅子を見る。

儀礼の作業は終わったようだった。

手元を見もせずにポケットにドライバーや機械などを片付け始めている。

本当に、器用な奴だ。


「獅子なら、つるぎ持って、闘気まとって、『去れ』って言えばいいよ。『光の剣』なんて持ってるんだから」

当たり前のことのように真っ直ぐに瞳を向け儀礼は言うが、獅子にはその意味がよくわからない。

「できるのか? そんなんで」

疑うような視線は、低い位置にいる儀礼を睨むようになってしまった。


「古代遺産の光の剣だよ。世界の宝が虫ごときに手こずってどうすんだよ」

あきれた、と言うよりは単純にくすくすと笑っている儀礼。周りに置いてあった道具類は跡形もない。あるのはいつも着ている白衣だけ。……今さら何も言うまい。


「でも魔虫討伐の時はどうしたらいい? あいつら素早くて」

昼間の魔虫の動きを思い出し、背中を伸ばすように天井を見上げてから視線を戻せば、儀礼が驚いたように目を開いていた。


「獅子より速いわけないじゃん、どんな魔蟲だよそれ。ここの森に出るのDランクだよ? 倒したいなら剣には闘気を送らないで、身体強化だけにしなよ。剣の魔力で逃げちゃうから。獅子の攻撃を避けてるんじゃなくて、必死で逃げてる所を獅子が追いかけてたんじゃないの?」

おかしそうに声を上げて儀礼が笑う。それを想像したのだろう。

言われてみると確かに、それはこっけいだ。


「じゃなければ他の武器使うか、いっそ素手。昔はそれでバキバキ倒してたろ? 忘れたの?」

儀礼は手刀の形を作って腕を振って見せる。

確かに、そうだった。獅子はいつの間にか光の剣を使うことに慣れ過ぎていたようだ。

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