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ギレイの旅  作者: 千夜
5章
132/561

魔虫の大量発生1

 この日獅子は、ギルドで魔獣退治の依頼を請けた。同じ依頼を請けた他のパーティに混ざり森の中に入る。

葉が落ち始めていて日の光が入り、紅葉も混ざった明るい森は歩くには気持ちが良かった。

森に入り少し歩くと、大きな虫が集まってきた。


 蜂の姿によく似た魔虫まちゅうだ。魔物化した虫。たいした強さはない。

肉食で、群れて襲ってはくるが、それでもDランクの魔虫。

獅子は剣に闘気をこめてなぎ払う。魔虫は砕け、あるものは飛ばされていった。

何の問題も感じず、獅子達は目的のBランク魔獣の目撃されている、その森の奥へと進んでいった。


 獅子達が探しているのは猿に似た魔獣だ。

普通の猿よりも大型で、木の上を自在に移動する。

1体ならそう強くはないが、この森で複数の群れが発見されたらしい。

その群れ全てを倒すのが今回の依頼だ。


 ところが森の奥へ進めば進むほど、獅子たちの気配を察知して狙っている魔獣は逃げ、魔虫の群れが襲い掛かってくる。

この魔虫、地面に巣を作るタイプのためか、羽のある割には、高い木の上に登った獅子にはあまり襲い掛かってこない。

代わりに、一緒に来たメンバーが大量の魔虫に襲われていた。

剣で切ろうにもすばやく、大群で飛んでいるために的を絞りずらい。

手で払おうものなら、硬化されたその羽で無残に切り刻まれてしまう。

強力な炎のようなものがあればいいのだが、残念ながらそんな準備はしていなかった。あるのはせいぜい松明のみ。


 大量の魔虫にたかられ、一人の女性が悲鳴をあげる。

避けるたびに明るい金髪がふわふわと揺れるのは弓使い。

手持ちの道具と魔虫との相性が悪く、対応に困っているようだ。

「キャーっ、いや、あっちいって」

振り回す手は魔虫に当たり、その手は硬化した羽のために鋭く切れる。

「いたっ。こいつら、羽が切れるわ。気をつけて!」

傷だらけになった手を押さえ、女性は仲間に注意を呼びかける。



 獅子は耳元で大きな羽の音を鳴らす魔虫に、闘気を込めて腕を振り回す。

 当たった魔虫はパラリと崩れて落ちた。



「イテッ、針で刺された。誰か中和剤持ってないか? こいつ、少量だが毒を持ってる」

剣を持った方の腕を大きく腫らして、呻く男が言った。小柄だが筋肉質な体の、盾を持った重剣士だ。

「少しだけなら持って来たわ。でもこんなにいるなんて。誰かこの情報聞いてた?」

松明を振り回して虫を追い払いながら、もう一人の女性が言う。赤茶色の長い髪をした補助魔法使い。

「聞いてたら、準備してきたさ。くっ、こっちにも来た。おいっ松明それしかないのか?」

剣を振り回し、魔虫を追い払いながら一番背の高い男が言う。追い払うだけで倒すことはできず、数は一向に減らない。

「きりがないな、素早すぎて避けられるだけだ。まともに当たらない」

苛立たしそうに言うのは長い鎖を振り回す男。地に着いている方の鎖の先には重そうな鉄球が付いている。速さを出すために本来とは逆にして使っているようだ。


 女二人、男三人のパーティ。そこに獅子は混ざっている。

今回の魔獣退治のクエストはBランクで、このパーティは全員がBランクだと言っていた。

しかし、Dランクのこの魔虫に手を焼いているようでは話にならない。


「イヤーッ! 服に入った! 刺されるっ、イ、ヤーーーーァ!!」

絶叫を上げ無我夢中に駆け回る弓使いの女性。背中に虫が入り込んだらしくパニック状態だ。

これでは元々の目的、魔獣退治どころではない。


「めんどくせぇ」

高い木の上からそれを眺めて獅子は言う。

こういう時、儀礼がいると便利だとつい思ってしまう。

ポケットから何かを出し、プシューッと煙が出れば、はい終了。

「片付いたね」と、何事もなかった様ににこりと笑う。

あいつは、そうやって何でもないことのようにやってのけるから、つい凄さを忘れる。

 こいつらが今、どれだけ苦労しているか。


 近くに来たものを獅子は倒すが、はっきり言って数が多すぎて埒が明かない。

獅子は剣を抜いて闘気を送る。面倒なのでその風圧で一気に切り倒そうというのだ。

 ビューーン!

轟音と突風。魔虫がばらばらと砕け落ちる。

しかし、風に乗って飛ばされただけのもの、素早く避けたものもいて、半分も片付いていなかった。

獅子はむきになって魔虫を追いまわす。


 しかし結局、獅子以外のメンバーが手痛い怪我を負い、この日は仕方なく仕事を諦め帰ることになった。

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