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ギレイの旅  作者: 千夜
4章
131/561

精神年齢の違い

(獅子が成長してる)

早朝の町の中を一人で歩きながら儀礼はなんとなく、最近思うことを考えていた。


 歩く足先の地面がどんどん後ろに流れ去っていく。

道の周りに建つ家はそれに比べてゆっくりと、儀礼の視界から消えていく。


(獅子が落ち着いた、って言う表現の方が合ってるかもしれない)

人工的に固められた茶色い土の道は、歩き続ける儀礼の足元で、嵐の後の濁流のように見えた。

時折現れる白い石はそれに流される漂流物。

儀礼は道に濁流を起こしながら、管理局からの道を歩く。

広い商店街にも人通りはまだなかった。


 最近の獅子は、儀礼が食事を抜けば文句を言うし、寝ないでいても、大きくなれないぞ、とか叱るように言うし、人に迷惑をかければ怒るし、あげくに儀礼の保護者かのように相手に謝る。

(……獅子は僕の母さんか!)

儀礼は思わず立ち止まって視線を上げた。

周囲はまだ薄暗い。が、その上げた視線がたまたま、店の開店準備を始めるらしいおじさんと合ってしまった。

ものすごいタイミングだ。儀礼は気まずくて、笑ってごまかすように会釈してまた早足に歩き出す。


 歩き出せばすぐに、儀礼はまた自分の思考に没頭する。

(それも、獅子は怒って殴ったりするけど、それがまた、手加減されてるのがわかるし)

儀礼はポケットの中で拳を握り締める。それが子供の頃のケンカとは違う事が、儀礼の心に焦燥を呼ぶ。


(まぁ、獅子が本気で殴ったら僕は確実に死ぬけどさ。そうじゃなくて、なんと言うのか……)

軽い頭痛を覚え、儀礼は左手でこめかみを押さえる。かれこれ24時間起きたままだった。

そのまま管理局で寝てしまっても良かったのだが、日が昇りきる前に宿に帰って、獅子に渡さなくてはならない物があった。


(やっぱり、獅子が成長してる、だよな。僕を置いて、身長だけでなくて心ん中まで)

ギルドに一人で行って仕事を請けるのも慣れ、他のパーティに混じるのもお手のもの。

Bランクながら、Aランクの実力を持つ『黒獅子』はどこに行っても頼りにされる。


 勉強もできない、世間も知らない獅子を儀礼は面倒見ているつもりがあった。でも、いつの間にかそうではない。

(置いてかれそうで、焦るよ)


 明るい光を放つ太陽がその姿を現し始めた。儀礼はまぶしそうに目を細める。徹夜の目にそれは染みた。

(獅子はどんどん強くなってる。光の剣を追う者も減ったし、本当はもう村に帰ってもいいんじゃないかな。利香ちゃんの待つシエンの里に)

 でも、獅子は帰るそぶりを見せない。


 宿に辿り着き、儀礼は他の客の迷惑にならないよう、音をたてないようにそっと扉を開ける。

廊下を歩き、階段を上がれば、一番手前が儀礼と獅子の借りた部屋だ。

(きっと、僕は獅子に心配されてる。こいつを一人にしたらだめだって)

その扉を開ける前に、儀礼は一瞬動きを止めた。

「信用ないなぁ」

はぁ、と儀礼は大きなため息を吐くのだった。



「はい、獅子。今日も利香ちゃんから挨拶来てるよ」

部屋に入った儀礼はあくびしながら小さなスピーカーを獅子に渡す。それは、「おはようございます、了様」と利香の声を奏でていた。

護衛機からの呼びかけだ。利香はそれを定時報告か何かと勘違いしているようだった。

毎朝、ほぼ日の出と共に挨拶の声が聞こえてくる。


「おう」

獅子は、慣れた様子でそれを受け取る。向こうから呼びかけるだけのそれに、獅子はいつも真剣でも、にやけてるんでもない表情で向き合っている。

何を考えているのかは、わからない。利香ちゃんの声はいつも楽しそうだけど。


 獅子はもう身支度を整えていて、日課の朝の鍛錬も終えているようだった。朝食を取ったらギルドに仕事を探しに行くのだろう。

「獅子、それ持ってていいから。ちゃんと調整してきたから今度は闘気込めても大丈夫なはず」


 言いながら儀礼は自分に割り振られたベッドに倒れこむ。ふわふわとする掛け布団が気持ちいい。

以前もそのスピーカーを獅子に持たせたのだが、戦闘中に体に廻らせた闘気の影響で壊れてしまったようだった。

利香からの緊急連絡の可能性があるので、毎回壊れられては困るのだ。

その調整を、儀礼は丸一日かけてやってきた。


 冷えた朝の気配に寒気を感じて、儀礼はやわらかい掛け布団を転がるようにして自分の体に巻きつけた。

「ああ、気持ちいい。僕このまましばらく寝るから。お休み~」

聞いてるかどうかわからないが、利香の定時報告を受けている獅子に言い、儀礼は眠りについた。


 はずだったのだが、どういうわけか、儀礼は30分も経たずに獅子にたたき起こされた。

窓の外は完全に明るくなり、朝の光に満ちている。鳥の鳴き声と、かすかな人の動き出す気配。

「儀礼、朝飯」

獅子は当たり前のように儀礼の布団をはぐ。

儀礼がさっき帰ってきたばかりなのを知っているはずなのに。無情だ。


 眠たい心の中に「獅子がシエンに帰れば好き放題できるのに」と儀礼は子供の理屈を持ち出した。

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