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ギレイの旅  作者: 千夜
4章
123/561

遺跡に触れる町

 町中まちなかの公園で、普通に、一般に無料で、誰でも、触れられる遺跡があった。

遺跡ランクE。

それでも遺跡。古代の文明。

公園の入り口に飾られた石像に儀礼は抱きつく。

「ああー、まさかこんな身近に遺跡に触れるなんて。五千年前の建設者の気持ちが伝わってくるようだっ」

それはそれは、幸せそうな顔をしている儀礼。この間、十分過ぎるほど古代文明の恐ろしさを味わったはずなのだが。

「あ、あっちにも! こんなに大きいのに開放してるのか!? 感激だ! うー、この手触り、間違いない、マカシトレヤの遺跡と同じ材質だ!」

小さな子供たちが遊ぶ中を、大きな少年が童心に返りはしゃぎまわっている。

それも、子供でも飽きたような仕掛けを見つけては大喜びしている。


 離れた所で、他人の振りをして見守る獅子。

「なぁ、兄ちゃん」

知らぬ顔をしていた獅子に一人の少年が話しかけてきた。歳は周りで遊ぶ子供達よりは大きく11、2歳程。

「ん~?」

間延びした声で獅子は応じる。

「あの、ねーちゃんはバカなのか?」

儀礼のことを指差してその少年は言う。

少年の顔を見て、不審行動をする儀礼を見る。

「いや……天才って呼ばれてる……」

笑いをこらえ、にやける程度で獅子は答える。

「そっか。なんだ。研究者なのか?」

少し安心した様子で少年は質問を続ける。

「そうだな。遊んでるようにしか見えないけどな」

儀礼を見て獅子は答える。

その儀礼は、またどこかに走って行って歓喜の声を上げている。

「ふーん。不審者だったらモク爺に情報売ろうと思ったのに、残念」

「情報を売る?」

意味がわからないというように獅子は語尾を上げた。

「何だよ兄ちゃん。そんなに大きいのに知らないのか? 貴重な情報は高く売れるんだぜ。こんな公園に不審者がいるって教えりゃ、自警団じゃ何も貰えないけど、モク爺、モックタワルって情報屋のじいさんなら千円はくれるな」

偉そうな態度で講義するように少年は人差し指を振る。

「子供の小遣いには高いな」

特に興味もなさそうに、獅子は子供の相手をする。

「それだけ大事なんだよ。遺跡の一部を持って帰ろうとしたり、壊す奴がいるから」

そう言って、少年は怒ったように腕を組んだ。

「そうなのか。大変なんだな。ま、その点あいつは心配ないよ。遺跡壊そうとする奴には容赦なく攻撃するだろうけどな」

何を思い出したのか、遠い目をする獅子。

「やばい奴なのか?」

そんな獅子の様子に不安を感じたのか、耳打ちするように口元に手を当て声を小さくする少年。

「やばいって?」

獅子が首を傾げる。

儀礼自体に問題はないが、Sランクというのはやばいに入るのだろうか?


「やあ、小さな情報屋さん。こんにちは」

「うわっ!」

少年の背後に突如、儀礼が現れる。驚いた少年に、儀礼の接近に気付いていたのに教えなかった獅子は、ひひひ、と笑っている。

「なかなか聞き上手だなぁ。僕に何の用かな?」

警戒したように笑みを浮かべ眼鏡を押さえる儀礼。

「ぼく?」

少年が眉根を寄せる。

「ああ、そいつ、男」

獅子が儀礼を指差す。

「えええ!?」

驚き過ぎの少年の頭を押さえ、儀礼が再び問いかける。

「離れてた僕と、そいつが知り合いだって知ってる君は、いったい僕の何を聞き出そうって言うんだ?」

そいつ、と仕返しのように獅子を指差してから、儀礼は少年の頭を両手で挟み問い詰める。

「は……ははは」

少年の目が泳いでいる。はぁ、とため息を吐くと諦めたように口を開く。

「もういいよ。仕事にならねぇ。あんたのこと聞いてきたら小遣いくれるって、門番の兄ちゃんが」

言われてそちらを見れば、顔を赤くした青年がにこやかに手を振っている。顔は見えるが、声の聞こえる距離ではない。

「なんだ。そんなことか」

儀礼は少年の頭を放す。


「ああ! こんな所に!」

足元に並べられた飾り石も遺跡の一部分だった。

膝をつき、儀礼は顔が着きそうになるほどその細かい模様を覗き込む。

「変な奴だな」

少年は顔を引きつらせている。

「否定はしない」

獅子が失礼なことを言う。


「これもマカシトレヤの遺跡の床と同じだー。写真でしか見たことなかったのに。感激だー。本物だよ。この模様も色も。五千年も経ってるなんて思えない。まるで……」

マシンガンのごとく打ち出されていた儀礼の言葉が突然止まった。

地面に顔が着きそうな状態で、儀礼の体自体も動きを止めている。また誰かの怒りで硬直したのだろうか。

獅子が首を傾げながら引き起こそうとすれば、その前に儀礼はガバリと上体を起こす。


「ねぇ、君。この辺の情報に詳しい?」

真剣な表情で儀礼は少年に聞く。

両腕を掴まれた少年は驚きながらもうなずく。

「ああ。この辺りじゃ大人より使えるってモク爺に言われるぜ」

少年は得意そうに笑う。

「よし」

そう言うと、儀礼は少年の手を取り、引きずるように走り出す。

「え? なんだよ!」

慌てる少年を無視して、儀礼はさらに足を速める。

「獅子!」

呼ばれれば、すでに並走している獅子。少年を抱えるように片腕で抱き上げる。

公園の入り口前に無人の車が走りこんでくる。門の前で止まり、儀礼は後ろの扉を開け獅子が少年を放り込む。

次いで、二人が前に乗り込むと扉が閉まりきる前に猛スピードで車は走り出した。


「ゆ……誘拐だーっ!」

車の姿が跡形もなく消えてから、我に返った門番が叫んだ。

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