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ギレイの旅  作者: 千夜
4章
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計略の遺跡8

「やった! すごいゼラードっ!」

儀礼は砂の中で立ちつくすゼラードの元へ駆け寄る。大きなダメージを与えられればと思っていたゼラードの攻撃がガーディアンの全てを打ち砕いたのだ。

「お前に助けられるなんて……人違いまでして」

だが、悔しそうに俯き、ゼラードは視線を合わせようとしない。

意味がわからず、儀礼は状況を飲み込むために瞬きを繰り返した。そして、思いついたようににっこりと笑う。

「じゃ、お願い聞いて。その依頼、キャンセルしてよ。キャンセル料は払うから。どこかで、自分と似た誰かが殺されるかもしれないなんて寝覚めが悪い」

その視界に無理矢理入り込み、キニスルナ、と明るく振る舞う儀礼。

「そんな……一度引き受けた仕事をキャンセルした暗殺者など、二度と信用されない。俺にはそれ以外の道(表の道)なんて……今更歩けないよ」

歯を噛み締めるようにして、吐き出した言葉。それに対する反応は……。


「……は?」

心底理解不能、といった感じに、目を見開き、ゼラードを見返してくる儀礼だった。

「え……?」

自分に暗殺技術以外に何かあるだろうか、とわずかな希望をこめてゼラードは聞き返す。

「古代遺跡のA級ガーディアン、一人で倒しといて、何言ってんの? しかも、とどめは一撃真っ二つだよ。普通の人にできるとでも思ってんの?!」

大げさなほどに手を振って倒れたガーディアンを指し示し、怒る勢いで詰め寄る儀礼に、ゼラードは思わず後ずさり、体制をくずし、倒れる。

ドスン

長年暗殺者をやってきたが、こんなぶざまな転び方は初めてだ。

しかも、今頃ガーディアンに対する緊張がやってきたのだろうか、心臓がばくばくと鳴っている。


 自分は、影の道を行き、いつか誰にも知られず消えるのだと思っていた。

父が死に、この道に足を踏み入れた時から……。

なのに、なのに、闇よりも強く引き上げる力。

(あいつ、儀礼の隣にいた少年も、自分と近い臭いがした。黒鬼の息子。本来ならば影の道を行ってもおかしくないあいつから……、光の気配しか感じなかった。それが、こいつの影響力)

「俺は……まともにやっていけると思うか?」

(闇の道にどっぷり浸かってるんだぞ)

ゼラードはすがるように、その少年を見上げる。

「いくらでも。それだけの腕があれば、頼りにされるよ」

当たり前のように笑う金髪の少年。

「俺がお前を殺そうとしたのわかってんだろ?」

疑うことを知らないような少年に、ゼラードは怒るように問いかける。

「人違いでね」

くすくすと笑う儀礼。

「ばかじゃないのか?」

呆れたようにそう言ったゼラードに、儀礼は真面目な顔になり答える。

「僕だって、善人じゃない。ただ自分が手をくだしてないだけ」

その一瞬に、ほんの一瞬だけゼラードは儀礼の中に同色の気配を感じた。


「……わかった。それがお前の望みなら。やってやるよ」

覚悟を決めたように笑い、ゼラードは立ち上がって手を差し出す。

それを見た儀礼が嬉しそうに笑い、握手しようとして、手を止めた。

首を傾げ、訝しむゼラード。

「名前は?」

儀礼が言った。

「え?」

意味が分からず問い返すゼラード。

「あなたの本当の名前。アサシンになる前の」

儀礼はかけていたモニターを外してゼラードの瞳を見つめる。

「ああ、……忘れてたよ。……笑わないでね?」

言いよどむゼラードに、そんなに嫌な名前? と不思議に思う儀礼。

「クリーム」

小さな声でゼラードは言った。

「クリーム・ゼラード」

顔を上げ、今度ははっきりとした声でゼラードはその名を言い直した。父が与えてくれた大切な名。

「……可愛い名前だね」

嬉しそうににっこりと笑って、ゼラードの手を握り返す儀礼。

その瞬間に、ゼラードは生まれ変わった。アサシン、ゼラードから、一人の少女、クリームに。


 思い出したように儀礼はガーディアンの体があった場所から、何かを拾う。

「はい」

それをクリームに手渡す。

「なんだ?」

不思議そうに首を傾げるクリーム。

「多分、遺跡を起動した際の扉の鍵。搭もそれで開くはず」

「これで?」

単なる透明な石、水晶のように見える。

「中に文字が刻まれてるだろ。それがコードだ。ま、ガーディアンを倒した勇者に送られる証って所かな。囚人に取っちゃ免罪だろうけど」

儀礼の言葉の最後は苦笑いだ。

「免罪か……」

クリームはその水晶を眺める。今までしてきたことの、罪は消えないだろうが、もう一度、……。

「行こうか」

儀礼は扉を指差す。

「ああ」

クリームが進みだす。


…………。


「で、どこ行くんだ?」

自分で言っておきながら、クリームの背後で、扉のある広間と逆の方へ進み始めた儀礼にクリームは首を傾げる。

「……もちろん。塔に!」

開き直ったように東南を指差す儀礼の瞳は輝いていた。

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