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ギレイの旅  作者: 千夜
3章
102/561

ある待合室の光景

 儀礼が熱を出した。少し高いので、獅子は無理やり病院に連れて来た。

寒くなってきたせいか患者が多く、待ち時間が長くなりそうだと言われた。

「どうせまた、一晩中起きてたり、面倒がって椅子で寝たりしたんだろう」

儀礼を待合室の壁沿いにずらりと並んだソファーの一つに座らせる。

「外はブリザードになりそうだったんだ。僕は薄着で。動くと鬼が出るんだきっと」

熱のせいか儀礼は意味のわからないことを口走る。

獅子は儀礼の額に手を当ててみる。やはり高い。潤んだ瞳が見上げてくる。

「長くなるみたいだから飲み物でも買ってくる」

これ以上側にいるのは面倒と判断し、獅子は離脱を図る。


「一人はやだ……っ」

泣きそうな顔で儀礼の手が獅子の服の裾を掴む。しかし、周りには大勢の診察待ち患者がいる。

「よくみろ、お前と似たような状況のやつがいっぱいいる。仲間とここで待ってろ」

ちなみに、ここにいる大半が小さな子供だ。「お薬やだー」「ままー抱っこー」などと泣き喚いている。

「ううっ」

周りを見て、仕方なくという風に儀礼は獅子の服から手を離す。

ああ、成長したなぁ、などと思うのは低レベル過ぎるだろうか。


「あ、気持ちいい」

ソファーの後ろの壁に頭をつけ目を閉じている。だるそうな姿は本当に参っているようだ。

スポーツ飲料のような物でも探してくるか、と獅子は病院を出て行った。


 10分程して獅子は病院に戻った。その手には飲み物が二つ。

儀礼はソファーで座ったまま眠っていた。安心したような、穏やかな顔で幸せそうに。

その隣に、木の杖を両手で握り締めてガタガタと震えて座る若い女の姿。

その女に見覚えがあった。

「何やってんだ? 確か……ヤンって言ったか、お前」

「あ、あの……ギレイさんが。ここを動いたら爆破するとっ……」

怯えたように、瞳を潤ませて語る。

そのヤンの服の端を儀礼の手が握り締めていた。

「魔法障壁は、内側からの攻撃にはどう反応するか楽しみだと、おっしゃってましたぁっ」

泣きそうにそう続ける。

「……お前、それ信じたのか?」

あきれたように獅子は言う。この距離でヤンを爆破すれば、儀礼も巻き込まれる。

確か、Aランクの魔法使いだと儀礼が言っていた気がする。


「ああ、これやるよ。こっちは儀礼の分」

獅子は二本の缶ジュースをヤンと儀礼のひざの上に置く。

どかりと空いているソファーに腰を下ろすと、暇だな、と獅子は受付を眺める。待ち時間は長い。

儀礼はぐっすりと眠っているようなので、診察時間が来るまで放っておくことにした。

ヤンはまだカタカタと震えている。

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